処置室の白い蛍光灯の下で、紗月は足元が崩れるような感覚に襲われた。Rh陰性AB型。それは自分の血ではない。5年前、雨の中へ自分を放り出し、「よその男の子」と罵った男、鷹宮怜司の血だった。「先生、血液センターにも在庫はないんですか?」紗月は震える手で教授の白衣の袖をつかんだ。教授は重く首を横に振った。「悠真くんの抗原に合う赤血球・血小板製剤は、血液センターにもほとんどありません。72時間以内に最初の成分輸血ができなければ、出血や多臓器不全につながるおそれがあります。ご家族も含めて、適合するドナーを同時に調べる必要があります」72時間。モニターに点滅する数字が、残り時間を刻んでいるように見えた。紗月は酸素マスクの下で細く息をする悠真の額をなでた。熱にうかされながらも、悠真は母の手を離すまいと指に力を込めていた。「ママ……泣かないで。ぼく、痛くないよ……」澄んだ、深い瞳。数えきれない侮辱と貧しさの中で、紗月を支えてくれた唯一の家族。紗月は目元をぬぐい、息子の手を握り直した。――絶対に、この子を死なせない。***その日の午後、鷹宮グループ会長執務室。怜司はネクタイをきちんと締め、デスクに置かれた取締役会の報告書を無表情で読んでいた。向かいのソファでは、先代名誉会長の妻である静江が、ティーカップを置いて鋭く言った。「怜司、株主総会は来月なのよ。グループの頂点に立っておきながら、直系の後継者もいないなんて。麗奈と婚約して何年になるの。いつまで結婚を先延ばしにする気?」怜司がわずかに眉をひそめた。「何度も申し上げたはずです。俺には子どもができません。後継者の問題は、財団を通して適性を確かめた子を、正式に養子に迎えて解決します」「養子ですって? 血のつながらない他人の子を、鷹宮家の戸籍に入れるというの?」静江は鼻で笑ったが、怜司は考えを変えなかった。5年前に紗月に裏切られて以来、誰にも心を開いていない。麗奈との政略的な婚約も、家の体面を守るだけの形にすぎなかった。「鷹宮育英財団と医療センターに、VIP支援・人材育成プログラムを始めるよう指示しました。長期の保護を必要とする子どもたちには俺が直接会います。ふさわしい子がいれば、正式な養子縁組も検討します」怜司が言い終えると、静江は舌打ちして立ち上がった。「好きになさい。けれど、得体の知れない子を連れ
Last Updated : 2026-09-15 Read more