Todos os capítulos de 慰謝料が十億?私は一万円しか貰ってないけど: Capítulo 11 - Capítulo 20

22 Capítulos

第11話

警察は、7億4000万を取り戻した。それ以外は、由梨が使ったか、母親名義の口座へ移されていた。さらに、その金で海外の不動産まで購入していたという。その物件には、すでに二度の抵当権が設定されているらしい。私は弁護士から説明を受けた。たとえ最終的に返還命令が出たとしても、10億円すべてをすぐに取り戻せるわけではないという。「遠藤さんから、調停の申し立てがありました。海外へ移した資産について、その所在をすべて開示する代わりに、示談書に宥恕条項を盛り込んでほしいとのことです」「分かりました……一度、会いに行きます」そう答えて、私は由梨との面会に向かった。面会室で向かい合った由梨は、以前とは比べものにならないほど痩せていた。化粧もしていない。かつての隙のない身なりも、今は見る影もなかった。それでも――私の姿を見るなり、由梨が最初に口にしたのは、謝罪の言葉ではなかった。「……裕翔は?」「来てません」私がそう答えた瞬間、由梨の目に浮かんでいたわずかな期待が消えた。代わりに、その瞳には隠しきれない憎しみが滲んでいく。「……そう」由梨は小さく呟くと、私を睨むように見つめた。「あなたの思い通りになって、さぞ満足でしょうね。あの人は、すべての責任を私に押しつけて、自分だけは反省している善良な父親みたいな顔をしているんですよ」私は、黙って由梨を見つめた。「裕翔がいい父親なのかどうかと、私が今日ここへ来たことは、何の関係もありません」「どうして関係ないんですか?あなたは、私を踏み台にして、裕翔のところへ戻りたいんでしょう?」私は何も答えず、ただ由梨を見つめた。そして、ようやく分かった。――5年経っても、この人はまだ、自分で作り上げた物語の中にいる。その物語の中では、誰もが裕翔を欲しがっている。裕翔を手に入れることこそが、女にとっての成功であり、人生の最終目的なのだ。だから、理解できないのだろう。どうして私が、裕翔のもとへ戻ることではなく――由梨自身の罪を追及することを選んだのか。由梨は、資産一覧が記載された書類をガラス越しに私に見せた。「ここに、1億6000万があります。調停に応じてくれれば、すぐに資産の回収に協力します。じゃないと、全部債権者に持っていかれます。あなたには1円も戻ってきま
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第12話

由梨が警察に連行された3日目。彼女の母親・美江が、病院までやって来た。病棟には入らず、病院の正面玄関前に膝をつき、その周りを十数人の記者が取り囲んでいた。「森下さん、娘は悪いことをしました、それは事実です。でも、それも藤田さんを愛していたからなんです。10億円もちゃんとお返しします。だから、どうか娘を許してくれませんか?」配信のカメラは、病院の建物を映していた。美江は、由梨が何年も裕翔のそばで彼を支えてきたことを語り、「あの子は本当に頑張っていた」、「何の功労もなかったわけではない」と訴え続けた。そして、私と奈々美が現れたことで、娘の穏やかな人生が壊されたとも言った。私は弁護士に連絡して警察を呼んでもらい、自分からは病室の外へ出なかった。けれど、美江はすぐに別の手を使い始めた。今度は記者たちに、由梨がこれまで受けてきた治療の記録を見せた。「娘は重いうつ病を患っていたんです。お金を使い込んだのも、書類を偽造したのも、病気のせいで感情を抑えられなくなっていたからなんです」そんなことまで言い始めた。その動画を、誰かが奈々美に見せたらしい。私が気づいたときには、奈々美はすでに数分間、画面を見ていた。動画の中で、美江が、涙ながらに叫んでいる。「森下さんが失ったのは、お金だけだったけど……娘が失ったのは人生そのものなんです!」美江のことを知らない奈々美は、不思議そうに私を見上げた。「ママ。このおばあちゃん、どうして私たちがいじめたって言ってるの?」「おばあちゃんの娘さんが悪いことをしたの。でも、自分が悪かったって認めたくないみたい」「おばあちゃんの娘さんって……ママに1万円をくれたおばさん?」「そうだよ」奈々美は、しばらく黙って考えていた。やがて、小さな声で尋ねる。「でも……そのおばさんがお金を持っていったせいで、ママは死にそうになったんだよね?私も死にそうになったのに……どうしてあのおばあちゃんが泣いたら、私たちがいじめたことになるの?」病室にいた何人かの患者家族が、静かになった。私は動画を閉じた。「人はね、悪いことをしたあと、泣いて、自分がかわいそうな人だと思わせようとすることがあるの。そうすれば、誰にも責められなくなると思うから」私は奈々美の目を見つめた。「でも、覚えておい
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第13話

翌日の午後、藤田グループの記者会見が開かれた。私は会場へは行かず、病室で配信を見ていた。壇上に座っていたのは、裕翔だけだった。隣に弁護士も、広報担当者もいない。裕翔はまず、10億円の振込記録の原本と、偽造された口座の情報、そして警察による調査結果を公開し、私が10億を受け取っていなかったことを認めた。続いて、奈々美の医療費の管理について説明する。「森下あずささんに、遠藤由梨さんによる金銭管理を受け入れるよう求めたのは、私自身の判断です。さらに、インターネット上に流出した娘の動画を削除することを条件に、医療費の管理に関する合意書への署名を求めたことについても、私に責任があります」裕翔がそこまで話したところで、会場から一斉にシャッター音が響いた。すぐに記者の一人が手を挙げ、問いかける。「当時、娘さんが救急処置を受けていることを、把握していたのですか?」「はい。把握していました」「それを知りながら、娘さんの命を盾にして、森下さんに自分の要求を受け入れさせようとしたということですか?」裕翔は、しばらく沈黙した。そして、短く答えた。「……はい」その一言を聞いた瞬間、藤田グループ法務担当者の顔が強張った。生配信のコメントも、ものすごい勢いで増えていく。「冷血すぎる」と言う人がいれば、「藤田グループの医療基金も調査すべきだ」という声もあった。中には、こんな疑問を投げかける人もいた。【60億円もの寄付を行い、慈善活動にも力を入れている一方で、娘さんの治療費17万2千円については、なぜ半額しか負担しなかったのでしょうか?】裕翔は、その問いから逃げなかった。「偽造された書類を信じていたからです。ですが、それだけが理由ではありません。私は昔から、金を使って人を自分の思いどおりに動かすことに慣れていました。費用を負担するのであれば、その支援の方法や使い道まで、自分が決めていい。そう考えていたんです」裕翔は、静かに続けた。「それは、相手を助けているつもりでいて、実際には相手の意思を尊重していなかったということです。今回の件を通して、私はそのことを認めざるを得ませんでした」その後、裕翔は、藤田グループ子ども医療基金の責任者を辞任すると発表した。同時に、慈善活動に関する一切の広報を当面停止し、基金の運営体
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第14話

裕翔が姿を見せなくなって、3日。ようやく、病室に静けさが戻った。奈々美の血小板の数値も、少しずつ上がっている。鼻血も出なくなり、腕に残っていた青あざも、日に日に薄くなってきた。今の奈々美が毎日いちばん楽しみにしているのは、午後になると廊下の突き当たりまで行って、10分だけ日向ぼっこをすることだった。その日も私が車椅子を押してナースステーションの前を通りかかったとき、奈々美がふと尋ねた。「ねえママ、あのおじさん、もう来ないの?」「……会いたい?」奈々美は首を横に振った。けれど、少し迷ってから付け加える。「……また急に来たら嫌だなって」私は足を止め、奈々美の前にしゃがみ込んだ。目線を合わせて、ゆっくりと言う。「大丈夫。ママがちゃんと伝えたから。奈々美とママがいいって言わない限り、ここには入ってこないよ」それを聞いて、奈々美はようやくほっとしたように頷いた。5歳の子どもに、夫婦のことなんて分からない。10億円がどれほどの金額なのかも、もちろん知らない。奈々美が覚えているのは、ただ一つ。自分が一番苦しかったとき、父親と名乗った人が助けてくれなかったこと。それどころか、母親は嘘をついていると言ったこと。血がつながっているからといって、その記憶まで消せるわけではない。……一方、裕翔は病棟への立ち入りを長期的に制限する手続きを取っていた。それ以来、人を通して奈々美に何かを届けさせることはなかった。医師から治療状況を聞き出すこともしない。弁護士から伝えられた口座へ、法に定められた養育費だけを振り込んだ。その金は専用口座で管理され、使途も弁護士が記録する。管理者を置くこともなければ、お金の使用に何か条件がつけられることもなかった。……取締役を解任された裕翔は、警察の捜査に協力し、5年前の資料の整理を始めた。当時のメールや会議記録、通話履歴。残されていた資料を一つずつ復元していく中で、裕翔は見覚えのない番号に目を止めた。その番号から、あずさの手術後3日間だけで、17回も電話がかかってきていた。最初の通話時間は、わずか数秒。記録を見る限り、電話はつながった直後に切られている。そして、その直後に番号はブロックされていた。裕翔は通話履歴を見つめたまま、眉を寄せた。自分が、いつこ
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第15話

裕翔がそれらの録音を聞いたのは、弁護士事務所だった。一つ目の録音が半分ほど流れたところで、裕翔はその声があずさだと聞き分けた。5年前、処置を終えたばかりのあずさは、息をするだけでも震えてしまうほど弱っていたのに、それでも何度も繰り返していた。――お金を受け取っていない。子どもは、まだ生きている、と。しかし、裕翔はその電話番号を、自分の手でブロックした。弁護士は彼に説明をした。「佐藤陽菜さんは、証人として出廷する意思があります。それから、当時、藤田社長の秘書を名乗って病院へ入った男についても、警察が身元を確認しました」裕翔は椅子に座ったまま、長い間動かなかった。やがて、かすれた声で尋ねる。「……そのあと、どうしてあずさはいなくなった?」「自分を傷つけた人がまた戻ってきて、子どもに危害を加えることを心配したそうです。退院したその日に、別の街へ向かったそうです。当時、所持金は4万円ほどしかありませんでした。移動中は友人に助けてもらいながら生活し、出産後も医療費として数百万円の借金が残っていたそうです」裕翔の脳裏に、あの日の光景が蘇った。病院の食堂で、彼はあずさに、どうして5年間で10億円を使い果たしたのかと問いただした。その時のあずさは、色褪せた制服を着て、1万円しか受け取っていないと答えた。裕翔は、信じなかった。証拠が足りなかったからではない。由梨の話を信じるほうが、彼にとって都合がいいから。そうすれば、妊娠した妻に無関心だった自分と向き合わずに済む。生きているかもしれない我が子の存在からも、目を背けられる。あずさが金を持って、自分のもとを離れていった。そう決めつけてしまえば――自分は、何一つ悪くないから。……陽菜は、その日の午後ずっと病院にいてくれた。奈々美は陽菜のことがすっかり気に入ったらしい。5年前、陽菜が私の治療費を立て替えてくれたと聞くと、奈々美は引き出しから、大事そうにしまっていた飴を1つ取り出した。「ママを助けてくれて、ありがとう」陽菜はその飴を受け取ると、奈々美に背を向けた。そして、そっと涙を拭った。帰る前、陽菜が教えてくれた。「実は、藤田社長に会ってたの」「……何を話したの?」「私が知ってることは、全部話した。そしたら、あなたがあの頃、彼を恨んで
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第16話

裕翔は、由梨との面会に応じた。取調室で、テーブルを挟んで向かい合うと、由梨はしばらく裕翔の顔を見つめていた。「……痩せたね」裕翔は答えなかった。「子ども医療基金の責任者を辞めたんでしょう?社長を解任させたってことも聞いた。あずささんのためとはいえ、こんなふうになってもいいの?」「彼女のためじゃない」「じゃあ、どうして?」「自分がしたことに責任を取るためだ」由梨は、ふっと笑った。「今さら、いい人ぶるのね」それから、由梨は中絶薬を購入したことを認めた。あの日の夜、あずさのところへ行ったことも。あずさには、それが妊婦向けの栄養剤で、つわりを和らげるための薬だと嘘をついた。あずさが疑わなかったのは、結婚してから生活費も医療関係の手配も、すべて由梨が管理していたからだった。薬を飲んだあと、あずさはすぐに腹痛を訴え始めた。それでも由梨は救急車を呼ばなかった。代わりに、一束の書類を取り出した。書類にサインしたら、すぐに医者を呼ぶと言った。そこには入院に必要な書類だけではなく、送金用の委任状や、口座の利用権限に関する書類、慰謝料の示談書まで混ぜられていた。「そのときのあずささんは、痛みで文字もまともに読めなかった。私が指を差したところに、そのままサインしてたよ」由梨は、まるで自分には関係のない出来事を話しているような口調で言った。裕翔の手の甲に、血管が浮かぶ。「……どうして病院へ連れていかなかった?」「赤ちゃんが流れれば、それで終わると思ってたの。まさか、あんなに出血するなんて……」「お前は、あずさが倒れるのを見ていたのに、何もせずその場を離れたんだな」「怖かったんの」裕翔の目が、由梨を捉える。「何が?あずさが死ぬのが怖かったのか?それとも、全部ばれるのが怖かった?」由梨は、口を閉ざした。取調室の外では、警察官が淡々と記録を取り続けている。長い沈黙のあと、由梨がふいに口を開いた。「……どうして、そんな目で私を見るの?薬を渡したのは私、書類を偽造したのは私、金を持っていったのも私。でも、あの子を産ませないって決めたのは……あなただったんでしょ?」「俺は、薬を飲ませろなんて言ってない」「でも、きれいに片づけろって言ったでしょう?」由梨が突然、机を叩いた。「5年
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第17話

公判が開かれた日、奈々美の容体はもうだいぶ落ち着いていた。陽菜が病院に残って奈々美についていてくれたため、私は一人で裁判所へ向かった。由梨が法廷へ入ってくる。そのとき、彼女は反射的に傍聴席へ目を向けた。最後列に、裕翔が座っている。由梨は何も言わず、すぐに視線を落とした。続いて、検察官による証拠調べが始まった。提出されたのは、10億円の流れを示す記録、偽造された口座が開設された時の資料、中絶薬の購入記録、病院の来訪者名簿、そして復元された写真だった。5年前、私が救急搬送された際に処置を担当した医師も、証人として出廷した。検察官が尋ねる。「患者が搬送されたときの状態を説明してください」「搬送された時点ですでに、出血性ショックの状態でした。検査の結果、妊婦には適さない薬剤を服用していたことが確認されています。ただし、服用量が適切ではなかったため、胎児が排出されず、その結果、大量出血を起こしたと考えられます」「もし、あと少し搬送が遅れていたら、どうなっていましたか?」「母体、胎児ともに死亡する可能性がありました」やがて、私の本人尋問の番になった。周りが静まり返っている。私は、妊娠初期のことから話し始めた。あの頃の私は、裕翔がただ仕事で忙しいだけだと思っていた。由梨についても、金銭管理が厳しい人だと思い、疑わなかった。けれど、葉酸を買うにも、妊婦向けの栄養補助食品を買うにも、マタニティワンピースを買うにも、すべて由梨の許可が必要だった。そこで初めて気づいた。私は、結婚生活の中で、自分自身のことを何一つ決めることができなかったのだと。私は何度も会社へ行き、裕翔に直接訴えた。けれど、裕翔はいつも同じ答えを返した。「由梨に任せておけばいい」その後、由梨が薬を持ってきた。「これを飲めば、つわりが楽になるから」と言われ、私は薬を飲んだ。ほどなくして、激しい腹痛が始まった。それでも由梨は救急車を呼ばず、私に数枚の書類を差し出し、サインを強要した。私は何度も、救急車を呼んでほしいと頼んだ。けれど、由梨から「裕翔はこの子を望んでいない」と言われた。「目を覚ましてから、私は17回、裕翔に電話をかけました。でも、一度もつながりませんでした。退院したその日に、私はこの街を離れることを決めまし
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第18話

2ヶ月後、正式な判決が下された。由梨は、財産の横領、関係書類の偽造、傷害、そして個人情報の不正な取得・流出などの罪に問われ、懲役刑を言い渡された。さらに、不正に得た金銭の返還も命じられた。美江名義の不動産や車、預金口座は法に基づいて差し押さえられ、海外にある資産についても追徴の手続きが進められることになった。裁判所は、10億円が私の手元に渡った事実はなく、海外の不動産や高級品の購入についても、私とは一切関係がないと認定した。その判決書によって、5年間ずっと私にまとわりついていた疑いは、ようやく晴れた。奈々美の個人情報を流布した配信者たちにも、次々と判決が下った。彼らには損害賠償が命じられたほか、それぞれのSNSアカウントに、謝罪文を固定表示することも命じられた。最初に病院へ押しかけてきた配信者は、その後、謝罪動画を投稿した。今度は商品を宣伝することも、自分が被害者であるかのように振る舞うこともなかった。奈々美が嫌がっているにもかかわらず撮影を続けたこと。そのうえ、奈々美の個人情報をインターネット上に拡散したこと。そして、その行為によって奈々美を傷つけたこと。自分がしたことを、一つずつ認めていた。私は、その動画に「いいね」も、リポストもしなかった。遅れて届けられた謝罪は、彼ら自身が負うべき責任の結果だ。私が感謝を返すようなものではない。その後、差し押さえられた資産から、最初の返還金が振り込まれることになった。弁護士から連絡を受け、私は受け取りの手続きに向かった。返還されたのは、元金と利息、さらに差し押さえた資産を換価した分を合わせて、8億6千万円あまり。残りの金額についても、引き続き追徴手続きが進められているという。同じ頃、裕翔から1通の書類が届いた。個人名義で保有している藤田グループの株式のうち、5%を奈々美に譲渡するという株式譲渡契約書だった。それだけではない。これから先の奈々美の医療費、教育費、生活費も、すべて自分が負担すると書かれていた。私は、その書類をそのまま弁護士に返した。弁護士が尋ねる。「株式だけでも、10億円を大きく上回る価値があります。それに、何の条件もついていません。それでも、お子さんのために残しておくことは考えませんか?」「法で定められた養育費は受け取ります。
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第19話

奈々美の治療が第2段階に入ってしばらく経った頃、突然、薬が効かなくなった。高熱が何日も続き、何を食べても吐いてしまう。血小板の数値も、再び下がり始めた。「長期間の栄養不良で、同年代の子どもに比べて体の蓄えが少ないんです。薬への耐性もあまり良くないので、治療方針を見直す必要があります」私はICUの前から離れられず、2日間、一睡もしなかった。病院のスタッフが、何度も私に休むよう勧めてくる。「治療費の手配は済んでいます。先生方も今、合同で治療法を検討してくださっていますから、森下さんも少し休んでください」私は首を横に振った。5年前、私が一人で救命処置を受けていたとき、家族として同意書に署名してくれる人はいなかった。手術室の外で、私を待っている人もいなかった。だから、奈々美が目を覚ましたときまで、私はここにいたかった。この子に、目を覚ましたらお母さんがいない、なんて思わせたくなかった。3日目、医師から新しい治療法を提案された。これまでより費用はかかる。けれど、確立された治療法の一つで、リスクが低いうえ、転院する必要もないという。私はすぐ同意書に署名し、返還されたお金から治療費を支払った。会計を済ませたあと、看護師が領収書を持ってきた。少し遠慮がちに尋ねる。「お父さんのほうからも病院に連絡があったそうです。治療費はあちらで負担するとおっしゃっていましたが……」「いえ、自分で支払います」「……分かりました」裕翔からは、それ以上連絡が来なかった。ただ、弁護士を通じて、私が選んだ治療方針を尊重し、そして、裁判所で定められた養育費については、これまでどおり支払い続けると伝えた。今回、彼はお金を出すことで、無理に私たちの意思を曲げようとしなかった。奈々美が新しい薬を使い始めたその夜、熱が少しずつ下がっていった。翌朝、奈々美が目を開ける。「……ママ、ご飯食べた?」最初に出てきた言葉がそれだった。「食べたよ」そう答えると、奈々美がじっと私の顔を見る。「ママ、元気がない」「ちゃんと食べてるから大丈夫」「嘘」仕方なく、私は看護師に頼んでおにぎりを買ってきてもらい、奈々美の目の前で食べた。それを見届けて、ようやく奈々美は安心したように微笑んだ。1週間後、奈々美の血小板の数値
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第20話

奈々美が退院する日は、よく晴れていた。看護師も、入院中に仲良くなった患者さんたちも、みんな見送りに来てくれた。奈々美は花束を抱え、助けてくれた人たち一人ひとりに、真剣な顔でお礼を言っていく。病院の玄関まで来ると、奈々美は足を止め、降り注ぐ陽の光を見上げる。まるで初めて、外の空がこんなにも広いことに気づいたようだった。私は病院からほど近い場所に、部屋を借りた。広い家ではないけれど、南向きの部屋が2つある。奈々美は大きな窓がある部屋を選び、壁いっぱいに自分で描いた小さな太陽を貼った。「ママ、ここが私たちのお家?」「そうだよ」「もう、誰にも出ていけって言われない?」「言われないよ」「お薬を買うのも、誰かに許可をもらわなくていい?」「うん、これからは、ずっとね」奈々美は嬉しそうに笑うと、そのまま私の胸に飛び込んできた。生活が落ち着いてから、私は返還されたお金の一部を使い、NPO法人を立ち上げた。組織名に私や奈々美の名前はつけなかった。藤田グループからの資金も受け取らない。力を入れている活動は主に3つ。経済的な支配を受けている女性への法的支援。個人情報を晒された子どもたちの被害回復と責任追及。そして、すぐに医療費を用意できないひとり親家庭への緊急支援。陽菜も仕事を辞め、私を手伝ってくれることになった。最初に相談に来た女性は、結婚して7年になるという。夫の許可がなければ、生理用品を買うことさえできない。離婚を望んでいるのに、自分の給料が振り込まれる口座のカードすら、夫に管理されているそうだ。彼女は事務所の椅子に座ったまま、何度も私に尋ねた。「やっぱり私の考えがおかしいでしょうか……殴られたわけじゃないですし」私は、彼女に法律相談の申込書を差し出した。「支配されるという苦しみは、目に見える傷として残るとは限りません」彼女は書類に目を落とした。しばらくして、ぽろぽろと涙をこぼし始める。私も、かつてはそう思っていた。裕翔から直接、暴力を振るわれたわけではない。だから、夫婦の間で起きていることも、そこまで深刻な問題ではないと思っていた。けれど、実際には違った。妊娠中、必要なサプリメントを買うだけでも、その必要性を説明しなければならなかった。自分の体のことも、お腹の子ど
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