昼休み。お腹を空かせた奈々美は、食べ残された唐揚げを見つけると、小さな手を伸ばした。「奈々美!」私は慌てて、その手を引き戻す。「前も言ったでしょう。人が残したものは食べちゃだめだって」奈々美はしょんぼりしながらも、目だけは唐揚げから離れない。「でも、お皿に残ってるだけだよ。まだゴミ箱には入ってないもん。奈々美、食べられるよ」胸の奥が、きゅっと痛んだ。私は慌てて、朝残しておいた半分のパンを出し、奈々美に渡した。その時、背後から聞き覚えのある声が落ちてきた。「……あずさ?」全身が強張った。ゆっくり振り返ると、食堂の入口には、院長や記者たちに囲まれた裕翔が立っていた。5年ぶりに見るその姿は、昔と何も変わっていない。仕立てのいいスーツに、隙のない身なり。袖口で光るカフスボタンひとつでさえ、奈々美に唐揚げを10年食べさせられそうなほど高価に見えた。そんな裕翔の視線が、私の制服へと落ちる。何度も洗濯を繰り返して、すっかり色褪せた服。そして、その隣にいる奈々美の手元へ。半分のパンを握りしめた、小さな手。裕翔の顔から、少しずつ表情が消えていった。「……どうしてここに?」私は表情を変えないまま、パンを奈々美の手から受け取り、バッグへ戻した。「病院は人手が足りないから。私は、お金が必要だったから」淡々と答えると、裕翔が眉を寄せる。「離婚の時、俺が振り込んだ10億は?」「……10億?」思わず聞き返した。その瞬間、裕翔の後ろにいた由梨の顔が、さっと青ざめた。裕翔は私を見据えたまま、低い声で続ける。「お前は金を受け取って、中絶同意書にもサインした。なのに、由梨から聞いた話では――『10億じゃ足りない。海外へ行って、別の男と結婚する』と言っていたそうだな」私は堪えきれずに笑いが漏れる。「藤田社長、あなたの秘書が私に渡したのは、1万円だけだったよ。中絶がうまくいかなくて、運が悪かったら、私も奈々美も死んでいたんだよ」裕翔の視線が、私から奈々美へ移る。奈々美は、突然向けられた鋭い視線に怯えたように、私の脚をぎゅっと抱きついた。そして、私の後ろに隠れながら、そっと顔を出す。「ママ……この人が、ママが死んだって言ってた、ケチなパパなの?」その場に、しんと静寂が落ちた。裕翔
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