1億5,000万円は、痕跡を残していた。恭介は金を複数の口座に分けたが、その痕跡まで消すことはできなかった。真帆が紹介した会計士は、紗月名義の融資口座の出金履歴と公開されている法人情報を照合し、金の流れを図にした。1億5,000万円のうち、8,000万円は恭介の会社の運転資金に入っていた。恭介が、外部からの出資を取りつけたと自慢していた、ちょうどその頃だ。3,000万円は、医療機器の輸入契約の保証金に使われた。2,000万円は、玲奈名義のマンションの購入資金に消えていた。残る2,000万円は、玲奈が代表を務めるペーパーカンパニーを経由し、恭介の個人口座に戻っていた。「結婚生活を続けたかったわけじゃないのね」真帆が資料を置いた。「あなたの財産で会社を救って、玲奈の財産を作って、悠真くんをあなたの法律上の子にした。離婚することになっても、子供を前に出せば財産に手を伸ばせる。そういう形を作っていたんだわ」真帆はテーブルの資料を、3つに分けた。実の親子関係を隠した記録。虚偽の養子縁組の資料。紗月名義の融資書類。別々に見れば、それぞれ異なる裏切りと犯罪だった。日付をそろえると、ひとつの計画につながった。結婚前から玲奈と関係を持ち、悠真が生まれたあとで紗月に近づいた。不妊だという嘘で罪悪感を植えつけ、妊娠できなかった妻に、自分の子供を救いのように差し出した。養子縁組が終われば、子供を理由に財産の移転を求める。その前には、担保融資まで引き出していた。日付を並べるだけで、6年の結婚生活が、ひとつの計画に見えた。「仮差押えを申し立てたら、向こうも気づくよ」「わかってる」「会社の口座を全部押さえるのは難しい。あなた名義の借入金が流れた範囲と、玲奈の財産から特定する。銀行には追加の融資を止めるよう求めて、ビルについても処分を防ぐ保全措置を検討する」仮差押えの対象には、玲奈名義のマンションと、恭介の会社が持つ一部の売掛債権が含まれていた。犯罪に使われた金がさらに分散する前に、裁判所へ示す資料を徹夜でまとめると、真帆は言った。紗月は書類の最後に署名した。今度の署名は、最後の線がはっきり上を向いていた。「刑事告訴は、証拠の保全が済んでから。それまでは、スマホや帳簿を処分される可能性がある」「10日後に、親族の集まりがあるの」「お義
Last Updated : 2026-09-17 Read more