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第2話 3度の検査

Author: 6jay
last update publish date: 2026-09-17 22:39:52

2度目の検体は、病院の採血室で採取した。

水瀬紗月は、自分では一切触れなかった。

担当の看護師が恭介と悠真の本人確認を行い、それぞれの採血管にバーコードを貼る。その過程を最初から最後まで撮影した。

恭介は何も知らない顔で、同意書に署名した。

「この前のじゃ、足りなかった?」

「結果を確認する必要があるの」

「そっか。それなら何度でもやろう」

むしろ悠真の腕をさすりながら、冗談まで言った。

「パパと一緒なら、怖くないだろ?」

「パパのほうが怖がってるじゃん」

悠真がくすくす笑う。

2人の間で交わされる、いつものやり取り。紗月は顔をそらした。

恭介は一瞬たりとも、検査を避けようとしなかった。

結果を知らないからなのか。それとも、ばれない自信があるのか。判断がつかなかった。

装置も変えた。

最初の検査にはGENE ONEの2号機を使ったが、再検査には外部精度管理用に使用していた4号機を使った。

解析担当には、最初の結果を知らない別チームの研究員を指名した。

3時間後。

【父権肯定確率 99.99%】

紗月は画面を閉じなかった。

「もう一度」

今度は口腔粘膜の細胞を採取した。血液とはまったく異なる検体だ。

同じように封印した検体を、外部の認定検査機関にも送った。

夜11時を過ぎて、3度目の結果が届いた。

【父権肯定確率 99.99%】

3度とも、同じ数値だった。

もう機器のせいにはできなかった。

外部機関からは、父子関係は排除されないとの一次所見とともに、生データも届いていた。

GENE ONEの結果と、各座位の値まで一致している。

検体を取り違えたというのなら、2つの機関が、まったく同じ取り違えをしたことになる。

そんな偶然は、ありえなかった。

「所長」

直樹が紙コップを差し出した。水が半分ほど入っている。

「大丈夫ですか」

紗月は受け取らなかった。

「アクセス履歴を出して。検体を受け取った人、解析した人、承認した人まで、全員分」

「わかりました」

「今日見たことは、口外しないで」

直樹は硬い表情でうなずいた。

紗月はスマートフォンを手に取った。

お気に入りの一番上に、その名前がある。

水瀬恭介。

通話ボタンの上で、指が止まった。

電話をかけたら、彼は何と言うだろう。

驚いたふりをするだろうか。

検査がおかしいと怒るだろうか。

それとも従兄の子ではなく、自分の子だと打ち明けるだろうか。

どんな答えも、今はいらなかった。

恭介の表情も、言い訳も、証拠ではない。

紗月はスマートフォンを裏返して置いた。

帰宅すると、リビングに明かりがついていた。

恭介がソファに座り、眠った悠真を抱いている。

「遅かったね」

優しい笑顔だった。

「ママを待つんだって頑張ってたけど、さっき寝ちゃった」

恭介が悠真の前髪を払う。

その手つきは、あまりにも自然だった。

紗月は、初めて見る光景のように2人を見つめた。

悠真の濃い眉と、右の口角。

今までは、似ていると思わなかった。

養子を迎えたあと、家族になりたい一心で無理に似たところを探しているような気がして、あえて見ないようにしていた。

今ならわかる。

あまりにも、よく似ていた。

「検査の結果はどう?」

恭介が尋ねた。

紗月は上着を脱ぎながら答えた。

「もう少し確認が必要なの」

「大変なことじゃないよね?」

「まだわからない」

短い返事に、恭介が心配そうな顔をした。

「ひとりで抱え込むなよ。僕たち、家族なんだから」

彼は冷蔵庫から水を出して渡し、紗月の好きなティーカップに温かいお茶まで淹れた。

体外受精を受けていたときも、そうだった。

注射の跡を温めてくれた。失敗を告げられた日には、自分のほうが申し訳ないという顔で泣いた。

優しさは、彼の最も完璧なアリバイだった。

家族。

その言葉が、初めてよそよそしく聞こえた。

紗月は眠っている悠真を受け取った。

悠真は慣れた動きで、彼女の首に腕を回す。

「ママ……」

小さな寝息が頬に触れた。

紗月は、いっそう強く悠真を抱きしめた。

恭介は、悠真の実の父親だった。

そして、この家でその事実を知らなかったのは――自分だけかもしれなかった。

* * *

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