ハネムーンの最初の目的地は、南の島だった。雅之はプライベートビーチを丸ごと貸し切り、昼間はパラソルの下で並んでココナッツジュースを飲んだ。彼はサングラスをかけて読書をし、時折ふと顔を向けて私を見つめる。私がちゃんと隣にいることを確かめてから、再び本へと視線を戻す。夕暮れどきになると潮が引き、きめ細かな白い砂浜が広がった。雅之に手を引かれ、素足のまま波打ち際を歩く。寄せては返す波が足首を洗い、心地よい冷たさを残していった。「柚晴」不意に彼が足を止めた。サーフパンツのポケットから何かを取り出す。親指ほどの大きさの、淡い桜色の貝殻だった。海水に濡れてつややかに輝いている。雅之はそれを私の前へ差し出した。「拾った。やるよ」受け取って眺め、私はくすりと笑った。「川津社長、東都一の大富豪が、奥さんへのハネムーンプレゼントに貝殻1つ?」雅之は片眉をぴくりと上げ、サングラスを少し押し上げた。「大富豪だって人間だ。それに――」顔を寄せ、私の唇にそっとキスを落としてくる。「――これは俺が自分で拾った。買ったどんな宝石より価値がある」小さな貝殻を握りしめると、手のひらがじんわりと温かくなった。*ハネムーンから戻ったあとの日々は、穏やかに過ぎていった。ある日の午後、中庭に並べたラタンの椅子に2人で腰掛けていた。日差しはぽかぽかと温かい。雅之の肩に頭を預けてまどろんでいると、頭上からふいに声が降ってきた。「柚晴」「……ん?」「数日前、刑務所へ行ってきた」意識が少し浮上したが、私は目を閉じたままでいた。「越己から人づてに伝言があってな」雅之の声はとても静かだった。「向こうでたくさん本を読んでいるらしい。お前が子どもの頃に一番好きだった絵本を見つけたから、渡してほしいと頼まれた」中庭は静まり返り、風が木の葉を揺らすサラサラとした音だけが響く。「あいつに持たせておいた。お前があいつを許すことは金輪際ないし、いまは何不自由なく幸せに暮らしていて、存在すら忘れていると伝えた」私はそっと目を開け、雅之を見上げた。横顔に差す光が、くっきりとした輪郭とすっと通った鼻筋、引き締まった顎を際立たせている。視線に気づいた雅之が、こちらを向いて小さく微笑んだ。「……間違っていた
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