ベッドの下に潜り込んだ私の体から、すうっと力が抜けていく。笹谷美遥(ささや みはる)は、敏昭の亡くなった親友・笹谷徹也(ささや てつや)の妹だ。私と敏昭が秘密の関係を続けてきた3年間、彼女はまるで悪夢のように、ずっと私たちにつきまとってきた。1年前、敏昭に告白して振られた美遥は、逆上してビルから飛び降りた。処置が早く九死に一生を得たものの、あの日、敏昭は私を彼女の病室へ連れて行き、冷たく言い放った。「救急車を呼んでやるのは、これで6回目だ。そして最後にする。もう二度と俺の前に現れるな。俺が愛しているのは柚晴だけだ」そう告げると、敏昭は嫌悪感をあらわにして美遥のスマートフォンを奪い、自分に関するデータをすべて消去した。警備員にも、彼女を完全にブラックリストへ登録するよう命じた。「二度とお前に関わるつもりはない。死ぬ死ぬ詐欺も大概にしろ」あのとき、美遥がどれほど泣き崩れて彼の名前を叫ぼうと、敏昭は一度も振り返らなかった。それなのに、あれからどれほど経ったというのだろう。敏昭が彼女と極秘入籍していたなんて。だとしたら、1か月前に私を抱きしめて甘い愛を囁き、狂ったように体を求めてきたあの時間は、一体何だったのか。*次の瞬間、部屋のドアが開き、再び閉まった。私は床の上で身を縮め、壁にぴったりと背中を押しつける。やがて、兄の低く抑えた声が耳に届いた。「美遥と結婚したとして、3年間隠してきたあの子はどうするつもりだ」ぎゅっと拳を握りしめた。敏昭がどう答えるのか、知りたくてたまらなかった。数秒の沈黙のあと、敏昭が淡々と口を開く。「徹也に、妹の面倒を見ると約束したからな。あいつ、2日前に屋上から飛び降りかけたんだ。俺が駆けつけるのが少しでも遅れていたら、衝動のまま本当に落ちていた。重度のうつ病だと診断された。いつまた突発的な行動を起こすか分からない。俺がそばにいてやらないと駄目なんだ」兄が深く息を吸い込む気配がした。「お前、あの子を愛していたんじゃないのか」その言葉を聞いた途端、胸をぎゅっと押しつぶされたように息苦しくなる。耳元に、再び敏昭の冷たい声が響いた。「美遥が妊娠した。子どもがいれば病状が安定すると医師にも言われている。籍も入れずに、あいつをシングルマザーにさせるわ
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