Tous les chapitres de : Chapitre 1 - Chapitre 10

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第1話

誠が言い終わるや否や、隣にいた母が激怒した。「待つってどういうこと!爆弾があなたを待ってくれるとでも思ってるの!」誠はさらに不機嫌そうに顔をしかめた。「お義母さん、沙耶はただの経営者ですが、鑑識課長であるあなたが分からないわけないでしょう?犯人が会いたいのはこの俺です。俺がそこに着く前に爆発することはありませんよ。少し遅れたところで大丈夫ですよ」周囲の警察官たちもその言葉を聞いて、説得に入ろうとした。「九条さん、爆弾が本物だと確認が取れました……」しかしその時、電話の向こうから同時に玲奈の泣き声が響いた。「誠、外に誰かいるの!また泥棒が戻ってきたのかも!」電話が切れた。警察官たちは信じられないというように顔を見合わせ、一斉にタブレットの画面に視線を戻した。犯人が送ってくるリアルタイムの映像の中で、りくはすでに泣き疲れてぐったりしていた。「ママ、パパはどうしてまだ助けに来てくれないの?」胸を鈍器で殴られたような衝撃に、私は震えながら顔を上げた。犯人が送ってきた位置情報によれば、奴がりくと共にいるのは、この廃墟と化したデパートの屋上だった。息を切らして駆けつけてきた義父母も、私たちのただならぬ表情を見て血相を変えた。「誠はまだ着いてないのか?」私がどうすべきか必死に考えていると、母が歯軋りしながら言った。「誠の奴、一体何を考えてるの!実の息子が爆死させられようとしているのに、あの玲奈とかいう女に付き添ってるのよ!」義父の顔色は土気色に変わり、自ら誠に電話をかけようとした。義母はショックで息を呑み、目を真っ赤にした。「またあの女か!あの女はろくでもないって、私ずっと言ってたのに!」その場の全員が息を呑み、義父を見つめた。しかし、電話は切られてしまった。義父が何度か悪態をついた直後、私のスマホが震えた。誠からボイスメッセージが届いたのだ。「沙耶、こっちの警察の話じゃ、すぐそこまで来てるらしい。もうすぐそっちに向かうから、何度も電話してくるな。それに、親父やお袋をそそのかして電話させるのもやめろ!」私は音声入力のボタンを押した。必死に冷静さを保とうとしたが、口を開くとやはり声がひどく震えた。「誠、りくの命はあなたにかかってるのよ。あと9分しかないの。
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第2話

私は歯を食いしばって立ち上がり、スマホ画面に表示された目的地を睨みつけた。数ヶ月前、私とりくは嵐の夜に同時に高熱を出した。誠の車は車検に出していたため、私の車で病院へ連れて行ってほしいと頼んだ。だが彼は、ベッドで寝返りを打ちながら言った。「こんな土砂降りの中、車の運転は危ないだろう」私は唇を噛み、自分で運転しようとした。だがマンションを出た直後、誠が急いで追いかけてきて、私たちを車から降ろしたのだ。雷が鳴っていて玲奈が怯えているから、彼女のそばにいなければならないと。私はりくを片手で抱きかかえ、もう片方の手で強風に煽られる傘を必死に支えながら、かすれた声で彼に問い詰めた。「じゃあ、私たちは?ここに取り残されて死ねって言うの?」半開きになった車のドア越しに、誠は熱にうなされるりくと、高熱で真っ赤になった私の顔を見て、その目に、一瞬だけ痛ましいような色が過った。だが次の瞬間、彼のスマホが鳴り、画面に玲奈の名前が見えた途端、彼は迷わずドアを閉めた。「とりあえずりくを家に連れて帰って寝かせろ。明日迎えに来るから」誠にとって、私とりくの命など、玲奈の足元にも及ばないのだろう。「ここが玲奈の家の住所よ。全速で飛ばせば、ここから6分で着くわ」母は頷いた。「分かった。近くの警察官に、誠をこちらへ連れてこさせる!」義母は胸を押さえた。「じゃあ、私たちは今、ここでただ待つしかないの?」私は顔を上げ、屋上を見つめた。窓はすべてコンクリートで塞がれており、中の様子は全く分からない。「犯人に伝えて。私が上に上がって、りくの身代わりになるって」交渉人がそれを伝えるが早いか、犯人の冷酷な声が響いた。「お前と身代わりごっこをしてる暇はないんだよ。残り時間は8分だ」私は、頭を力なく垂れている息子の姿を見つめ、ぐっと拳を握りしめた。その時、背後で母が驚きの声を上げた。「引っ越したって、どういうこと!?」私が慌てて近寄ると、現場の警察官の声が聞こえた。「隣人によると、その部屋に住んでいた女性は先週引っ越したそうです。ある男が引越しを手伝いに来て、『ここは手狭だから、大きな邸宅に住まわせる』と言っていたと……」私は一瞬にして、背筋が凍るのを感じた。あの嵐の日の後、玲奈が住んでいた
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第3話

「沙耶、落ち着け。その警察官はこの近くに住んでるんだ。すぐ来てくれるんだ!」彼は仕方がないとでも言うように、少しだけ口調を和らげた。「聞こえたか?玲奈は恐怖でご飯も喉を通らない状態なのに、お前のことを気遣ってくれてるんだぞ。沙耶、息子は無事だ。俺を信じろ!犯人の三上航(みかみ わたる)が会いたいのはこの俺だ。俺を脅して誰かの解剖記録を改ざんするよう強要するためか、うちの財産が目当てかのどちらかだ。りくは奴の交渉の切り札だ。俺がそっちに着く前に、奴が勝手にりくを殺すような馬鹿な真似はしない」ぐったりとしている息子の姿を見つめながら、私の中に果てしない絶望が押し寄せてきた。「誠、三上はすでに10人も殺してるのよ。あいつは何だってやりかねないわ」誠は一瞬、言葉に詰まった。彼が事の重大さに気づいたかと思ったその時、電話の向こうでインターホンが鳴った。「もう来たようだ。沙耶、もう少しだけ待っててくれ。もうすぐだから」「私が待ってるんじゃない!りくが待ってるのよ……!」電話が切られた瞬間、タイマーのカウントダウンは残り5分を切った。義父母が駆け寄ってきた。「早く犯人に伝えて!うちの全財産を差し出してもいいから、りくの命を助けてくれって!」義父の言葉が終わるか終わらないかのうちに、息子の姿しか映っていない画面から、冷酷な声が響いた。「九条家が孫の命と引き換えに全財産を本当に手放せるって言うのか?」義父は慌てて通信機に向かって大声で叫んだ。「もちろんだ!惜しくなんかない!りくは大切な孫だ!いくらでも払う!」三上はフッと鼻で笑った。そして、通信機からは何の音も聞こえなくなった。義母は涙を拭いながら、振り返って秘書に命じた。「早く財産明細を計算してちょうだい!九条家の隅から隅まで、1円たりとも残さずすべてよ!」先ほど誠に消し飛ばされた希望の火が、再び燃え上がり始めた。私はうつむき、秘書にメッセージを送り、至急に財産をまとめるよう指示した。母はその様子を見て、今回の救出作戦の責任者を呼んだ。「爆発物処理班を待機させて。屋上を監視できるポイントが一切見つからないから、狙撃手による犯人の無力化は不可能だわ。だから、ヘリをいつでも出動できるようにして……」「会長!資金が引
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第4話

誠は黙り込んだ。スピーカー越しに、彼が息を殺している音だけが聞こえる。隣で玲奈が小声で何かを言い、その後、誠はふっと息を吸い込んだ。「父さん、調書の作成がもう少しで終わるんだ。終わり次第、すぐに向かうから。ここまで待ったんだ。今さら多少遅れたところで、どうってことないさ」私はカウントダウンの赤い数字を、ただ死に物狂いで見つめていた。残り3分だ。義父は怒りのあまりスマホを地面に叩きつけ、画面が粉々にひび割れた。母は特殊急襲部隊に強行突破の準備を指示しながら、ショックで倒れそうな義母を支えていた。しかし、強行突破の結末は「爆弾の即時起爆」だということくらい、誰もが分かっている。私は深く息を吸い込み、通信機のボタンを押した。「三上、少し話をしましょう。私は誠の妻よ。あなたが知りたいこと、もしかしたら私なら答えられるかもしれない」1秒、2秒……通信機の緑色のランプが点灯した。「1階のロビーだ。お前一人で入ってこい。もし上の階に来ようとしたら、容赦なく起爆してやるからな!」時間が惜しかった。私は母から渡されたイヤホンを耳に装着し、そのままビルの中へと飛び込んだ。だが、1階のロビーには誰もいなかった。私は螺旋階段の下に立ち、上に向かって叫ぶしかなかった。「三上!あなたは誠から、一体何を聞き出したいの!」「去年の9月末、川から引き揚げられた女性の遺体だ。その司法解剖の結果を知りたいんだ」私が30秒ほど待っていると、イヤホンから母の声が聞こえてきた。「調べがついたわ。死因は自殺。解剖の署名は誠よ」私がそれを復唱し終えた瞬間、通信機の向こうで何かが激しく叩きつけられる音がした。三上が狂ったように怒鳴り出した。「あり得ない!俺の妻が自殺なんかするはずがない!間違いなくあの野郎が偽造したんだ!九条誠をここに連れてこい!今すぐにだ!」私はその場に釘付けになった。去年の9月末、誠は確かに半月ほど、ほとんど帰宅しないことがあった。彼は仕事が忙しいと言っていたが、後になって彼の同僚からたまたまこんな話を聞いたのだ。新人の法医が仕事に不慣れで、誠がその後始末に追われていたのだと。その新人法医こそが、玲奈だった。私は再び誠に電話をかけた。呼び出し音が2回鳴っただけで
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第5話

誠は車を飛び出し、数歩走ったところで膝から崩れ落ちた。玲奈が驚いて慌てて助け起こそうとしたが、彼女の手が触れる前に、誠は自力で立ち上がり、死に物狂いで駆け出した。現場の周囲にはすでに立ち入り禁止のテープが張りめぐらされ、消防車が次々とサイレンを鳴らして駆け抜けていく。近づくと、勢いよく放水された水が壁面に激しく当たり、白い水しぶきがもうもうと舞い散っていた。だが、そんなものでは、圧倒的な炎の前ではあまりにも頼りなかった。本当に、爆発してしまった……誠は濃い煙にむせながら、狂ったように辺りを見回した。だが、どこを探しても沙耶の姿は見当たらない。玲奈が息を切らして追いつき、彼の袖を引いて小声で泣きじゃくった。「誠、怖いわ……煙を吸っちゃったみたいで、病院に行かないと……」誠は焦燥に駆られながら人混みの中を探し続け、適当に返事をした。「じゃあ、先に病院へ行ってこい、道中気をつけてな」玲奈は唇を噛み締め、泣き声をさらに大きくした。「やだ!私、あなたについていく!これも全部私のせいだわ。うちの家に泥棒なんて入らなければ、誠もこんなに遅れなかったのに……誠、私を殴っても罵ってもいいわ。でも、私を置いていかないで……!」付き合いの長い彼女だ、泣かれると誠はいつも心が揺らいでしまう。彼は口と鼻を覆いながら振り返った。玲奈が泣きながら咳き込んでいる姿を見て、心の中で深くため息をつき、自分の上着を脱いで彼女の鼻に押し当てた。「警察が調書を取るまで付き合うと言ったのは俺だ。お前を責めたりなんかしない。気にするな。この件は……お前のせいじゃない」口ではそう言いながらも、誠の頭の中は狂ったように不安や恐怖が駆け巡っていた。本当に爆発した……沙耶が言っていた時間と、一秒の狂いもなく……ということは、りくは本当に……考えれば考えるほど恐怖が押し寄せ、誠は玲奈の手を振り払った。「玲奈、お前は先に帰れ。俺は少し……」彼は言葉を詰まらせた。消防車のすぐそばで、自分の両親が燃え盛るビルの中に飛び込もうとして、消防隊員に必死に取り押さえられているのが見えたのだ。沙耶の母親は、すべてを失ったかのような顔でその場に崩れ落ちた。沙耶の姿だけが、どこにも見当たらない。誠の両足は硬くこわばり、
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第6話

「何度も言ったはずだ!誠が来なければ、犯人はりくを殺すと!あんたたちは少しでも耳を貸したか!?あんたたちは最初から、りくの命なんてどうでもよかったのよ!」誠はハッと我に返った。彼は母の手をがっしりと掴んだ。「母さん……本当に爆発したのか?りくは……沙耶はどこだ!?彼女に会わせろ!なぜ爆弾が本物だって言わなかったんだ!もしもっと早く言ってくれていれば……」誠の母は彼の手を乱暴に振り払った。お腹を痛めて産んだはずの息子が、今はただ憎らしくて仕方がなかった。「沙耶が言わなかっただと!?あの子が何度も何度も伝えてたのに、あんたが一度も聞く耳を持たなかったんじゃないの!沙耶の言う通りにして犯人に会いに来ていれば、爆弾なんか爆発しなかったのよ!あんたの頭の中はこの玲奈って女のことばかり!この女のために家を買い、貯金を注ぎ込んで……この女のために実の息子さえも見捨てるなんて、よくこんなにひどい真似が平気でできるわね!」誠は激しく首を横に振った。呆然と見開かれたその瞳は、もはや絶望のほか何も映していなかった。「あり得ない。三上が会いたがっていたのはこの俺だ。俺が行っていないのに、起爆させるはずがない!」「あの男はもう10人も殺してる殺人鬼だぞ!まだ何をためらうことがある!」父の怒号を聞き、誠はようやく事の異常さに気づいた。「沙耶はどこだ?沙耶!沙耶!」彼が振り返って周囲を探し回ると、母の姿が目に入った。彼女は涙で顔を濡らし、崩れ落ちる寸前だった。「嘘よ、嘘だわ……こんなこと、あるはずが……」誠の母は全身の力を失って地面に倒れ込み、両手で顔を覆った。「最後の3分になった時、沙耶は自分一人で中に入って犯人と交渉すると言ったのよ。でも、犯人が会いたかったのはあんただった。あんたが来なかったから、時間切れで爆発したの。沙耶は……最後の数秒で、自ら屋上に向かって走っていったわ。そして……」誠の目の前が、一瞬暗くスッと沈んだ。黒煙はなおも巻き上がり、消防隊員たちの怒号が飛び交い、辺りには警察官の姿があふれていた。耳の奥でキーンという凄まじい耳鳴りが響き、世界全体がグルグルと回っているようだった。そうだ、失った2人は彼のすべてだった。彼の世界が、完全に崩れ落ちてしま
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第7話

外に出ると、消防隊員は誠を情け容赦なく地面に投げ捨て、再び消火活動に戻っていった。誠は倒れ込んだ。頬が地面に触れると、火傷しそうなほど熱かった。だが、今の彼の頭の中を満たしているのは、最後に沙耶と会った日のことだった。あの日、沙耶はりくの手を引き、「夏になったら、涼しい北の方へ旅行に行きましょう」と言っていた。りくは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねながら、「パパも行くの?」と聞いた。沙耶はりくの髪を撫で、優しく微笑みながら「パパはお仕事が忙しいから、行けないのよ」と答えたのだ。あの時、彼は沙耶のことを「聞き分けのいい妻だ」と誇らしく思っていた。彼には本当に忙しかった。玲奈は彼のコネで法医になったが、仕事の勝手も全く分かっておらず、彼は常にそばについてその尻拭いをさせられていた。彼女は臆病で、何かあるとすぐに泣き出すから、彼が常に気にかけてやらなければならなかった。どうせ家には沙耶がいるのだから、大なり小なり家のことに彼自身がしゃしゃり出る必要などないと思っていた。だが、振り返ってみれば、沙耶は一体いつから、彼とまともに口を利かなくなったのだろうか?付き合っていた頃、2人はどんなことでも語り合い、互いのすべてを隠さずさらし合っていた。彼も彼女のためなら、自分の命すら差し出してもいいと本気で思っていた。結婚した後のことだが、彼の初恋の相手が突然彼のもとに現れ、「もう生活していけないの」と、お金に困った様子で泣きついてきた。彼は彼女のために部屋を借り、一緒に食事をし、仕事の世話まで焼いてやった……かつてはどんなことでも語り合えたというのに、いつの間にか自分と沙耶は、互いの目を合わせることすら避けるようになっていた。遠くから、誰かが誠に向かって走ってきた。目を赤く腫らした玲奈が、彼を抱き起こし、自分の手の甲を見せた。「誠、私、手の甲を火傷しちゃったみたいなの。すごく痛いわ。お願い、病院へ連れて行ってくれない?跡が残ったらどうしよう……」誠は首を巡らせ、彼女をじっと見つめた。その目に宿るあまりの恐ろしさに、玲奈は全身に鳥肌が立った。「誠、どうしたの……?」「全部お前のせいだ……お前が家に泥棒が入った、警察を待ちたいなんて言わなければ、俺はとっくに着いていた!妻も息子も、死なずに済んだ
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第8話

三上は薄汚れた服を着ており、口元から頬にかけてボサボサの髭が伸び放題だった。「九条先生、ようやくお目にかかれたな」隣にいた沙耶の母親が手を伸ばし、マイクのスイッチを切った。そして素早く顔の涙を拭い去り、厳しい声で告げた。「さっきのリアルタイムの映像はダミーだったのよ。こっちが本物だ。三上は最初から、りくをこのビルの屋上になんか縛り付けていなかった。別の場所に隠していたのよ。誠、あんたは時間を稼ぎなさい。私はあいつの居場所を特定するから」誠は口を半開きにしたまま、画面の中で泣く息子と、三上の顔を死に物狂いで見つめた。犯人も子供もここにはいない。だが、このビルは本当に爆発したのだ。彼は乱暴にマイクのスイッチを入れた。「クソ野郎が!俺の妻は子供を助けるために、あの火の中へ飛び込んでいったんだぞ!」三上は冷たく鼻で笑った。「ああ、見ていたよ。ただ死んだだけだろ?何を取り乱している?俺の妻だって死んだんだぞ」誠は一瞬にして絶望の淵に突き落とされた。一方、誠の両親も慌てて駆け寄ってきた。りくの無事を知った途端、2人はその場に崩れ落ち、ただとめどなく涙を流した。しかし直後、誠の母はハッとして、顔から血の気を失った。「それじゃあ、沙耶は……?沙耶は、無駄死にだったっていうの……?」誠はもう堪えきれず、涙がこぼれ落ちた。「沙耶……すまん……全部俺のせいだ……俺がお前を死なせたんだ……」三上!今すぐ息子を解放しろ!」突然、画面の向こうから叫び声が響き、全員が息を呑んだ。それは間違いなく、沙耶の声だった!……私は廃墟と化したデパートから少し離れた住宅街で、三上とりくを見つけ出したのだ。本来なら、私はあの爆発で死ぬはずだった。だが、1階のロビーで三上と通話している時、ある違和感に気づいたのだ。三上が何かを叩き割る音はかなり大きかったのに、1階にいた私には建物の中からも何も聞こえなかったのだ。いくら屋上の窓がコンクリートで塞がれているとはいえ、あそこまで完全に防音されるはずがない。だから私は、三上が最初からりくをこのデパートに縛り付けてはいないと推測した。屋上には爆弾があるだけで、誰もいないのだと。私は残り数秒というところで2階の窓まで走り、歯を食いしばって外へ
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第9話

「結衣は……どうやって死んだんだ?」三上の声に抑揚はなく、先ほどまでの冷酷さは嘘のように消え失せていた。彼は画面越しに真っ直ぐ誠を見据えるその目は、まるで死人のように淀んでいた。誠も、あの解剖報告書のことを思い出していた。彼の顔色はみるみる青ざめ、何度か口を開きかけたが、結局一言も発することができなかった。義母が横から彼を何度も小突いた。「早く言いなさいよ!あんたが本当のことを言えば、りくが無事に返ってくるのよ!」義父も怒りに震え、誠の鼻先を指差して怒鳴った。「お前はまだ何をためらってるんだ!相手はただ真実を知りたいと言っているだけじゃないか!息子の命を犠牲にしてまで、まだ隠蔽する気か!このカウントダウンを見ろ、あと5分しかないんだぞ!この前はぐずぐずして、あわやというところだったじゃないか。沙耶とりくが無事だったからよかったものの、また同じことを繰り返して、今度こそ妻と息子を死なせるつもりか!」誠はうつむいて何度か息を吐き出し、突然顔を上げて周囲を見回した。そして、戸惑ったような顔で言った。「玲奈はどこに行った?」「玲奈だと?あの女ならとっくに逃げたわよ!今更あの女を探してどうする気!」誠は悔しそうに強く歯を食いしばった。三上が短く忠告した。「九条先生、残り3分半だぞ」その言葉に、誠はハッと顔を上げた。「言う!全部言うから!あれは自殺じゃない!奥さんは集団レイプされた後に首を絞められ、川に投げ捨てられたんだ!これが真実だ!もう全文言ったのだ!だから息子を解放してくれ、りくを放してくれ!」義父は目を剥き出しにし、彼を力任せに蹴り倒した。「お前は一体、どこまで腐りきっているんだ!監察医の分際で、解剖報告書を偽造したのか!お前という奴は、本当に九条家の面汚しだ!」誠はよろめきながら立ち上がり、小声で言った。「俺だってどうしようもなかったんだ。玲奈が誤って証拠となる痕跡を処分してしまって……遺体もすでに火葬されたのだ。俺が『自殺』と書かなければ、彼女が処罰されることになってしまうんだ……」やはり、また玲奈のためだった。彼が彼女を愛し、特別扱いしていることは知っていた。だが、人の命に関わるような重大な犯罪でさえ、彼女を庇おうとしたとは思いもしな
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第10話

私は頷き、秘書に窓のカーテンを閉めさせた。「離婚協議書の作成を進めてちょうだい。りくに犯罪者の子供という汚名を背負わせるわけにはいかないから」「かしこまりました、社長」離婚が成立した頃には、事件の裁判もほぼ結審していた。三上の妻を死に追いやった加害者たちは、一人残らず逮捕された。玲奈は加害者から金を受け取り、故意に証拠を隠滅した罪で懲役5年の実刑判決を受けた。誠は彼女の尻拭いをし、彼女が罰せられるのを防ぐために罪を重ねた結果、懲役7年となった。最後まで、私と誠が言葉を交わすことは一度もなかった。彼は何度も人づてに「会いたい」と私に伝えてきた。だが私は、「忙しい」と一言突き返すだけだった。昔は彼が「忙しい」を言い訳にして、今度は私もそれを言い訳にする。これで帳尻が合ったってわけだ。1年後、りくはカウンセリングに通い続け、ようやく悪夢にうなされることもなくなった。両家が揃ってりくの誕生日パーティーを開き、たくさんの誕生日プレゼントが並んでいた。義父母はすでに誠と縁を切り、九条家の財産をりくに譲る手続きを済ませていた。りくはまだ幼いため、その財産の管理は私の手に委ねられたのだ。私は何度か辞退したが、義母は深くため息をついて言った。「すべては九条家があなたたちにしたことの償いよ。これを受け取って、これからは私たちの娘になってちょうだい。これからの九条家は、あなたに任せるわ」私は微笑み、静かに頷いて了承した。数日後、義父母がりくを預かってくれた。私は母に会いに行き、三上の事件について話し合った。「記録を調べに行ったのよ。そしたら、三上の検死報告書を見つけたわ。彼は末期ガンで、もともと余命わずかだったのだ。だからこそ、りくを誘拐して、誠に強引に真実を公表させたのね。三上は子供の頃、家が貧しくてね。殺人の依頼を受けたのも、母親の治療費を稼ぐためだったらしいわ。だが、いくら理由があろうと殺人は殺人だわ。しかも10人も殺めている。きっと、死んでも安らかには眠れないでしょうね」私はあの日、三上が飛び降りたあの迷いのない表情を思い出した。彼が裁判の結審を待たずに死を選んだのも無理はない。彼には分かっていたのだ。自分が火蓋を切りさえすれば、妻を傷つけた者たちはいず
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