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第3話

Author: 三日月
「沙耶、落ち着け。その警察官はこの近くに住んでるんだ。

すぐ来てくれるんだ!」

彼は仕方がないとでも言うように、少しだけ口調を和らげた。

「聞こえたか?玲奈は恐怖でご飯も喉を通らない状態なのに、お前のことを気遣ってくれてるんだぞ。

沙耶、息子は無事だ。俺を信じろ!

犯人の三上航(みかみ わたる)が会いたいのはこの俺だ。

俺を脅して誰かの解剖記録を改ざんするよう強要するためか、うちの財産が目当てかのどちらかだ。

りくは奴の交渉の切り札だ。俺がそっちに着く前に、奴が勝手にりくを殺すような馬鹿な真似はしない」

ぐったりとしている息子の姿を見つめながら、私の中に果てしない絶望が押し寄せてきた。

「誠、三上はすでに10人も殺してるのよ。あいつは何だってやりかねないわ」

誠は一瞬、言葉に詰まった。

彼が事の重大さに気づいたかと思ったその時、電話の向こうでインターホンが鳴った。

「もう来たようだ。沙耶、もう少しだけ待っててくれ。もうすぐだから」

「私が待ってるんじゃない!りくが待ってるのよ……!」

電話が切られた瞬間、タイマーのカウントダウンは残り5分を切った。

義父母が駆け寄ってきた。

「早く犯人に伝えて!うちの全財産を差し出してもいいから、りくの命を助けてくれって!」

義父の言葉が終わるか終わらないかのうちに、息子の姿しか映っていない画面から、冷酷な声が響いた。

「九条家が孫の命と引き換えに全財産を本当に手放せるって言うのか?」

義父は慌てて通信機に向かって大声で叫んだ。

「もちろんだ!惜しくなんかない!りくは大切な孫だ!いくらでも払う!」

三上はフッと鼻で笑った。

そして、通信機からは何の音も聞こえなくなった。

義母は涙を拭いながら、振り返って秘書に命じた。

「早く財産明細を計算してちょうだい!九条家の隅から隅まで、1円たりとも残さずすべてよ!」

先ほど誠に消し飛ばされた希望の火が、再び燃え上がり始めた。

私はうつむき、秘書にメッセージを送り、至急に財産をまとめるよう指示した。

母はその様子を見て、今回の救出作戦の責任者を呼んだ。

「爆発物処理班を待機させて。

屋上を監視できるポイントが一切見つからないから、狙撃手による犯人の無力化は不可能だわ。

だから、ヘリをいつでも出動できるようにして……」

「会長!資金が引き出せません!」

義父は呆然とし、声を荒らげた。

「どういうことだ!」

秘書は額にびっしりと汗をかきながら報告した。

「財務の報告によりますと、社長の個人口座の一つが、西園寺玲奈さんへの貯蓄専用口座として設定されているそうです。

社長はその口座にセキュリティをかけており、誰かが不正にアクセスしようとすると、九条家全体の口座がすべて凍結されるシステムになっていると!」

私は喉の奥に不快な渇きを感じた。

何度も唾を飲み込んでも、体の震えは一向に止まらなかった。

「誠があの女のために、お金を貯めてるって……?」

「社長は以前、こう仰っていました。それは……玲奈さんの将来の、お嫁入り道具にするためだと」

義母は口を覆い、悲痛な叫び声を上げた。

私の秘書からもメッセージが届いた。

【社長、口座を調べたところ、あなたと誠さんの共同口座のお金が、すべて誠さんの別口座へ移されていました!】

目の前が真っ暗になり、耳鳴りがした。

それは、私たちがずっと前に話し合って決めた、りくのために蓄えたお金だった。

彼を信じていたからこそ、一度も口座の確認などしなかった。

しかし、彼は私の合意もなくそのお金を横取りし、それを玲奈の嫁入り道具として回していたのだ……

母の方にも新たな報告が入った。

「玲奈の新しい住所が掴めなかったのも当然ね。

あの一軒家はずっと誠の名義で、誠が買い与えて彼女を住まわせていたのよ!今すぐ部下を向かわせるわ!」

その時、電話が鳴った。誠からだった。

電話に出るなり、彼は私を激しく怒鳴りつけた。

「お前が親父に俺の口座を調べさせたのか!?

今、すべての口座が凍結された!あの中には、俺が5年間かけて貯めた玲奈の嫁入り道具のお金も入ってるんだぞ!」

5年間?

だが、息子は今年で4歳だ。

りくが産まれる前から、彼はすでに別の女のために嫁入り道具のお金を貯めていたのだ。

私はゆっくりと目を閉じ、彼に向かって一言ずつ、噛みしめるように告げた。

「爆弾のタイマー、残り3分半よ」

「俺は質問に答えろって言ってんだよ!どういうつもりだ!?」

「誠、あと3分20秒で、息子は爆死するのよ!あなたはちっとも焦らないの!?」

「沙耶、お前、息子の命を使って俺を脅す気か!?」

義母はもう泣き崩れて立っていられなかった。義父は怒りに震えながら私のスマホを奪い取った。

「誠!いいか、今すぐここに来てりくを助けろ!

さもないと、二度と九条家の敷居は跨がせんぞ!お前とは、今日限りで絶縁だ!」

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