「柚葉、私と悠の写真も撮ってくれない?さっき逆光で撮ってくれたとき、角度すごくよかったじゃん」そう言って、夕依がスマホを差し出してきた。したばかりのフレンチネイルが朝日を受け、きらりと光った。私は何も言わずにスマホを受け取った。今日だけで、もう3回目だった。ホテルからセイランの泉までは、車で40分ほどだった。その間、夕依と悠は後部座席に並んで座り、私は1人で助手席にいた。途中、運転手が現地の言葉で私に話しかけてきた。「お連れの2人、ずいぶん仲がいいですね」言っていることはわかったけれど、私は曖昧に笑っただけで、その言葉を2人に訳すことはしなかった。「もうちょっと左。うん、そこ。悠は動かないで、そのまま。今の角度、光がちょうどきれいに入ってるから」夕依は悠の肩に手を置き、少し首をかしげながらレンズに向かって笑った。悠は一度だけ私を見た。何か言いかけるように唇を動かしたけれど、結局何も言わなかった。私はそのままシャッターを切り、スマホを夕依に返した。夕依は画面を何度かスワイプして写真を確認すると、少し眉をひそめた。「柚葉、これ、ちょっと顎が丸く見えない?」「もう1枚いい?今度はもう少し下からお願い。そっちのほうが顔、小さく見えるから」私は言われるまま、その場にしゃがんだ。その拍子に膝を石畳の石の角にぶつけ、じんと鈍い痛みが走った。そのとき、画面の向こうで悠がようやく口を開いた。「夕依、もうそのくらいでいいだろ」夕依は甘えるように悠の腕をぽんと叩いた。「もう1枚だけ。これで最後だから」それから夕依は私を振り返り、何事もなかったように笑った。「柚葉、気にしないでね。写真撮るの上手いから、ついお願いしちゃうだけ」「ううん、平気」私はそれだけ返した。この3日間、私は何かあるたびに「平気」と口にしていた。2人には先に行ってもらって、荷物は私が引き受けた。注文も先に任せて、自分は何でもいいと言った。部屋だって1つでいい、自分はソファで寝るからと譲った。そんな「平気」を、少なくとも50回は口にしていたと思う。昼は近くの料理店に入った。料理が運ばれてくると、店員は当然のように恋人向けのペアコースを悠と夕依の間に置き、私の前には1人分のスパゲッティを置いた。
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