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卒業旅行で、恋も終わりました

卒業旅行で、恋も終わりました

Par:  涼木Complété
Langue: Japanese
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大学の卒業旅行で、私――友崎柚葉(ともざき ゆずは)は、彼氏の白井悠(しらい ゆう)、親友の雨宮夕依(あまみや ゆい)と3人で、海外の観光地・リンファ山を訪れていた。 山麓に広がるセイラン湖のほとりを歩いていると、年配の夫婦がにこやかに声をかけてきた。 たどたどしい英語で、せっかくだから写真を撮ったらどうかと言っているらしい。 老婦人は悠と夕依を湖畔の手すりの前に並ばせ、2人の頭が寄るように立ち位置まで直した。 それから私に手招きして、2人を撮るよう促した。 「ほら、2人を撮ってあげて。今、ちょうど光がいいから」 私はスマホを構えた。 画面の中では、悠と夕依がまるで恋人同士みたいに並んで笑っていた。 そのままシャッターを切った。 悠は何も言わなかった。 夕依は私からスマホを受け取って写真を確認すると、楽しそうに笑った。 「いいじゃん。もう一枚お願い」 そのあとホテルにチェックインすると、フロントスタッフは予約内容を確認し、悠と夕依に2人部屋のカードキーを渡した。 私に渡されたのは、1人部屋のカードキーだった。 「お客様のお部屋は、3階の一番奥でございます」 「あの……彼と付き合ってるの、私なんですけど……」 フロントスタッフは一瞬戸惑ったあと、すぐに視線を落とし、予約内容を確認し直した。 自分の部屋に戻り、1人でバスタブに浸かっていると、壁の向こうから楽しそうな笑い声が聞こえてきた。 この3日間で、悠と夕依が恋人同士だと勘違いされたのは4回。 私だけが邪魔者みたいに扱われたのは7回。 そして、2人の写真ばかり撮らされたのは11回。 それなのに、悠は一度だって「違う」と言わなかった。 私はバスローブのままベッドに腰を下ろし、スマホで帰国便を明後日に変更した。 この卒業旅行を、あの山の頂上で終わらせる必要なんてない。

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Chapitre 1

第1話

「柚葉、私と悠の写真も撮ってくれない?さっき逆光で撮ってくれたとき、角度すごくよかったじゃん」

そう言って、夕依がスマホを差し出してきた。したばかりのフレンチネイルが朝日を受け、きらりと光った。

私は何も言わずにスマホを受け取った。

今日だけで、もう3回目だった。

ホテルからセイランの泉までは、車で40分ほどだった。

その間、夕依と悠は後部座席に並んで座り、私は1人で助手席にいた。

途中、運転手が現地の言葉で私に話しかけてきた。

「お連れの2人、ずいぶん仲がいいですね」

言っていることはわかったけれど、私は曖昧に笑っただけで、その言葉を2人に訳すことはしなかった。

「もうちょっと左。うん、そこ。悠は動かないで、そのまま。今の角度、光がちょうどきれいに入ってるから」

夕依は悠の肩に手を置き、少し首をかしげながらレンズに向かって笑った。

悠は一度だけ私を見た。

何か言いかけるように唇を動かしたけれど、結局何も言わなかった。

私はそのままシャッターを切り、スマホを夕依に返した。

夕依は画面を何度かスワイプして写真を確認すると、少し眉をひそめた。

「柚葉、これ、ちょっと顎が丸く見えない?」

「もう1枚いい?今度はもう少し下からお願い。そっちのほうが顔、小さく見えるから」

私は言われるまま、その場にしゃがんだ。

その拍子に膝を石畳の石の角にぶつけ、じんと鈍い痛みが走った。

そのとき、画面の向こうで悠がようやく口を開いた。

「夕依、もうそのくらいでいいだろ」

夕依は甘えるように悠の腕をぽんと叩いた。

「もう1枚だけ。これで最後だから」

それから夕依は私を振り返り、何事もなかったように笑った。

「柚葉、気にしないでね。写真撮るの上手いから、ついお願いしちゃうだけ」

「ううん、平気」

私はそれだけ返した。

この3日間、私は何かあるたびに「平気」と口にしていた。

2人には先に行ってもらって、荷物は私が引き受けた。

注文も先に任せて、自分は何でもいいと言った。

部屋だって1つでいい、自分はソファで寝るからと譲った。

そんな「平気」を、少なくとも50回は口にしていたと思う。

昼は近くの料理店に入った。

料理が運ばれてくると、店員は当然のように恋人向けのペアコースを悠と夕依の間に置き、私の前には1人分のスパゲッティを置いた。

夕依はそんなことにも気づかず、悠と1杯のスープを分け合い、1本のスプーンを何度も渡し合っていた。

私は黙ってスパゲッティを箸でつまみ、口に運んだ。

何度噛んでも、味はほとんど感じなかった。

午後はリンファ廟に立ち寄った。

そこで引いたくじが「大吉」だとわかると、夕依は飛び上がって喜び、その勢いのまま悠の腕に抱きついた。

「悠、見て!大吉だって!しかも縁の欄に、『良縁はすぐそばにあり。遠くに求める必要なし』だって!」

そこまで読み上げて、夕依はようやく気づいたように私を見た。

悠の腕に絡めていた手を少し緩め、ぺろりと舌を出した。

「あはは、柚葉、別にそういう意味じゃないからね。ちょっと嬉しくて、はしゃいじゃっただけ」

悠は少し間を置いてから、夕依の手を自分の腕から外した。

私は黙って、手元のくじに目を落とした。

そこに書かれていたのは「小吉」だった。

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しょう
しょう
クズ彼氏め、最後まで責任逃れして女(幼馴染み)を責めるたぁ、男の風上にも置けねぇゴミ男だ。まだ、自分を見つめ直してヒロインに謝罪した女(幼馴染み)のほうがマトモだわ。 最終話、クズゴミ彼氏は現れもせず綺麗に終わった。モブ扱いで笑う。
2026-10-24 15:48:40
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松坂 美枝
松坂 美枝
カップルに幼馴染女が割り込んできて彼氏がそっちに傾いて行くので別れた話 彼女を撮影係にして幼馴染女とイチャコラして恋人と疑われても否定しない時点でおかしいよな そんで別れたら幼馴染女のせいだとか言ってホントクズいわ
2026-10-24 09:41:31
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第1話
「柚葉、私と悠の写真も撮ってくれない?さっき逆光で撮ってくれたとき、角度すごくよかったじゃん」そう言って、夕依がスマホを差し出してきた。したばかりのフレンチネイルが朝日を受け、きらりと光った。私は何も言わずにスマホを受け取った。今日だけで、もう3回目だった。ホテルからセイランの泉までは、車で40分ほどだった。その間、夕依と悠は後部座席に並んで座り、私は1人で助手席にいた。途中、運転手が現地の言葉で私に話しかけてきた。「お連れの2人、ずいぶん仲がいいですね」言っていることはわかったけれど、私は曖昧に笑っただけで、その言葉を2人に訳すことはしなかった。「もうちょっと左。うん、そこ。悠は動かないで、そのまま。今の角度、光がちょうどきれいに入ってるから」夕依は悠の肩に手を置き、少し首をかしげながらレンズに向かって笑った。悠は一度だけ私を見た。何か言いかけるように唇を動かしたけれど、結局何も言わなかった。私はそのままシャッターを切り、スマホを夕依に返した。夕依は画面を何度かスワイプして写真を確認すると、少し眉をひそめた。「柚葉、これ、ちょっと顎が丸く見えない?」「もう1枚いい?今度はもう少し下からお願い。そっちのほうが顔、小さく見えるから」私は言われるまま、その場にしゃがんだ。その拍子に膝を石畳の石の角にぶつけ、じんと鈍い痛みが走った。そのとき、画面の向こうで悠がようやく口を開いた。「夕依、もうそのくらいでいいだろ」夕依は甘えるように悠の腕をぽんと叩いた。「もう1枚だけ。これで最後だから」それから夕依は私を振り返り、何事もなかったように笑った。「柚葉、気にしないでね。写真撮るの上手いから、ついお願いしちゃうだけ」「ううん、平気」私はそれだけ返した。この3日間、私は何かあるたびに「平気」と口にしていた。2人には先に行ってもらって、荷物は私が引き受けた。注文も先に任せて、自分は何でもいいと言った。部屋だって1つでいい、自分はソファで寝るからと譲った。そんな「平気」を、少なくとも50回は口にしていたと思う。昼は近くの料理店に入った。料理が運ばれてくると、店員は当然のように恋人向けのペアコースを悠と夕依の間に置き、私の前には1人分のスパゲッティを置いた。
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第2話
縁の欄には、「ひとつの縁に執着しすぎている。手放すことも必要」とあった。私はくじを折り畳み、上着のポケットに押し込んだ。ホテルへの帰り道、夕依は私と悠の間を歩き、片方の腕を悠の腕に絡め、もう片方を私の肩に回していた。土産物屋の前を通りかかったとき、夕依がショーウィンドウに並んだ縁起物を見つけて足を止めた。おそろいのお守りみたいなものだった。「悠、あれ買おうよ。色違いでおそろいにしたら、かわいくない?」「誰とおそろいにするんだ?」「え、私と悠に決まってるじゃん。柚葉とは親友用のを別に買えばいいし」夕依はそれが当然だと言わんばかりだった。ショーウィンドウには、赤と青のお守りが1つずつ並んでいた。どちらにも当地の言葉で「縁結び」の文字が刺繍されている。悠が一瞬黙ってこちらを見た。何か言われる前に、私から口を開いた。「2人で買ってきなよ。私、隣のコンビニで水買ってくるから」そう言って背を向けると、後ろから夕依の明るい声が聞こえてきた。「ありがと、柚葉!やっぱ柚葉、最高!」コンビニの中は冷房がよく効いていた。飲み物の冷蔵ケースの前で、ガラス扉にぼんやり映る自分を眺めていると、スマホが震えた。悠からだった。【大丈夫か?】たったひと言だったけれど、悠が私に直接メッセージを送ってきたのは、この3日間で初めてだった。何度か返信を打っては消し、結局送ったのは、いつものひと言だった。【平気】水を2本買って戻ると、夕依はもう青いお守りを悠のリュックのファスナーにつけていた。赤いほうは夕依のバッグについていて、ブランド物のリップのそばで、歩くたびに小さく揺れていた。夜、ホテルに戻ると、夕依が露天風呂に入りたいと言い出した。「柚葉も行く?」「私はいい。ちょっと疲れた」「そっか。じゃあ私だけ行ってくるね。悠、バスタオル持ってきてくれる?」悠は返事をすると、バスタオルを手に夕依と廊下の奥へ歩いていった。私は自分の部屋に戻り、カードキーをかざしてドアを開けた。部屋は3階の一番奥にあるシングルルームで、窓の外に見えるのは駐車場だけだった。ベッドの端に腰を下ろし、スマホの写真フォルダを開いて、この3日間に撮った写真を最初から見返した。全部で127枚。そのうち、悠と夕依が一緒に写
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第3話
夕依は悠のジャケットを羽織り、部屋の鏡で自分の姿を確かめると、満足そうに笑った。ジャケットは夕依には少し大きく、袖を折り返すと細い手首がのぞいた。「じゃ、私先に朝ごはん行ってるね。悠ももう下にいると思うし」そう言って、夕依は部屋を出ていった。私はゆっくり支度を済ませ、望遠レンズをリュックに入れた。肩にかけた途端、ずしりとした重みでストラップが肩に食い込んだ。レストランへ下りると、悠と夕依は窓際の席で向かい合っていた。テーブルにはコーヒーが2杯と、朝食が2人分並んでいた。私が空いている席に座ると、悠が顔を上げた。「何食べるかわかんなかったから、お前の分は取ってない」すると、夕依も横から口を挟んだ。「柚葉、いつも『何でもいい』って言うじゃん。だから何取ればいいかわかんなかったんだよね」「平気。自分で取ってくるから」朝食の並ぶカウンターへ行ってみると、洋食はもうほとんど残っておらず、冷めたトーストが数枚と、小分けのバターくらいしかなかった。私はトーストを2枚だけ皿に取り、席へ戻った。それを見た悠が、わずかに眉を寄せた。「それだけか?」「うん」夕依は自分の皿からベーコンを1枚取った。「これ、柚葉にあげる」そう言ったのに、なぜかベーコンは悠の皿に置かれた。「あ、ごめん。悠、それ柚葉に回して」悠は黙ってベーコンを私の皿に移したが、私はそのまま手をつけなかった。リンファ山の中腹へ向かうバスでは、私は後ろのほうの窓際に1人で座った。少し前の席では、夕依と悠が肩を寄せ合い、同じイヤホンを片耳ずつつけていた。夕依は何度か楽しそうに笑い、そのたびにこちらを振り返った。「柚葉、この曲、めっちゃいいよ。聴いてみなよ」そう言うだけで、イヤホンをこちらに渡してくることはなかった。中腹の駐車場に着くと、強い風が吹いていた。私は重いレンズの入ったリュックを背負い、2人の少し後ろをついていった。展望台まで来ると、悠と夕依は並んで景色を眺めていた。夕依は朝から借りていた悠のジャケットを着ていた。風にあおられて髪が乱れると、悠は何気なく手を伸ばし、軽く整えた。その仕草はあまりにも自然で、まるでこれまでにも何度もそうしてきたように見えた。まだ何も頼まれていなかったけれど、私
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第4話
夕依は一瞬きょとんとしたあと、慌てて両手を振った。「わかってるって!そういう意味じゃなくて……ただ、ちょっと戸惑ってるだけ。ねえ、私、悠とは少し距離置いたほうがいいのかな。でも昔からずっとこんな感じだし、急によそよそしくしたら、悠も変に思うよね?」夕依の口から何気なく出た「昔からずっと」という言葉が、妙に耳に残った。夕依と悠は幼なじみだった。家も同じ住宅街にあり、幼稚園から高校までずっと一緒だった。大学に入ってからは別々だったけれど、夕依が私の大学に編入してきてから、私を通じてまた顔を合わせるようになった。夕依が編入してきたのは大学2年のときで、寮の部屋もちょうど私の隣だった。そこから私たちはすぐに仲良くなった。明るくて、きれいで、誰とでもすぐ仲良くなれる子だった。隣のクラスの悠がよく私を見ていると教えてくれたのも、私と悠の間を取り持ってくれたのも夕依だった。ラブレターを悠に渡してくれたのも夕依だった。私たちが付き合い始めた日には、インスタに「隣の親友にやっと彼氏できた!」と投稿していた。私と悠が付き合い始めたことで、夕依と悠もまた昔のように話すようになった。気づけば、ごはんを食べるときも、勉強するときも、出かけるときも、いつも3人一緒だった。それを変だと思ったことは、一度もなかった。今回の旅行までは。「柚葉、怒ってないよね?」夕依は身を寄せ、私の手を握ってきた。その手のひらは、少し汗ばんでいた。声はやけに柔らかく、私の機嫌をうかがっているようだった。けれど、その目に不安の色はなかった。私なら怒らない。いつものように「平気」と言う。夕依はただ、それを確かめているように見えた。「怒ってないよ」そう答えた瞬間、午後にあの男性からかけられた言葉がふと頭をよぎった。――写真のお仕事をされてるんですか?あの人には、私が2人の写真ばかり撮っているように見えたんだろう。悠と夕依にとって、私はいったい何なんだろう。「よかった!」夕依はほっと息をつくと、そのまま私のベッドにごろんと横になった。「そうだ、明日で最後だよね?セイラン湖の近くにオルゴール博物館があるらしいんだけど、行き方調べてもらっていい?」「いいよ」そう答えたものの、夕依が部屋を出ると、私は行き方を調べ
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第5話
悠が私に向けてくれる優しさは、前よりずっと少なくなっていた。それでも、なくなったわけではなかった。手をつないでくれることもあったし、「おやすみ」と言ってくれる夜もあった。「大丈夫か?」と気にかけてくれることだってあった。だからそのたびに、悠はまだ私のことが好きで、夕依とは昔からの友達なだけなんだと、自分に言い聞かせていた。でも、本当にただの友達なら、相手のジャケットを着たりしない。同じイヤホンを片耳ずつ分け合ったりもしない。風で乱れた髪に、あんなふうに手を伸ばしたりもしない。3人でいるのに、私だけが何度も、周りから「2人とは関係のない人」みたいに見られることだってないはずだった。明日の便は14時15分発。2人に別れを言うつもりはなかった。……「お客様、朝食をお持ちしました」ホテルのスタッフがドアをノックしたときには、もう荷造りを終えていた。荷物は、機内持ち込みサイズのキャリーケースとリュックが1つずつだけだった。カメラと望遠レンズはキャリーケースのいちばん下にしまい、その上に、この旅行のために買ったワンピースを重ねた。出発前、夕依に誘われて一緒に買いに行ったものだった。せっかくの卒業旅行なんだから可愛い服を着たほうがいい、写真はずっと残るんだからと勧められ、夕依が選んでくれたのが小花柄のワンピースだった。決して安くはなかったけれど、夕依が似合うと言ったから、迷わず買った。あれから4日。結局、一度も袖を通さなかった。それどころか、この旅行で私が写っている写真は、1枚もなかった。朝食は少しだけ口にして、トレーをドアの外に出した。時計を見ると、8時半だった。悠と夕依は、もうチェックアウトして出かけているはずだった。スマホを見ると、15分ほど前に夕依からグループチャットへメッセージが2件届いていた。【柚葉、もう出たよ。ゆっくり寝ててね】【お土産にオルゴール買ってくるね!】悠はグループチャットには何も送っていなかった。でも、5分ほどしてから、私にだけメッセージが届いた。【午後戻ったら、そっちの部屋行く】私はしばらく画面を見つめた。その頃には、もうこの部屋にはいない。返事はしなかった。キャリーケースを引いてロビーへ下りると、フロントには初日に対応した男性スタッ
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第6話
「友崎柚葉様でいらっしゃいますか?お預けのお手荷物は、3番のターンテーブルに出ております」到着したのは18時半だった。スマホの電源を入れると、溜まっていた通知が一気に表示された。グループチャットには夕依から17件もメッセージが来ていた。最初に届いていたのは14時のものだった。【柚葉?私たちもう戻ってきたよ。部屋、鍵かかってるんだけど】【柚葉、どこ行ったの?】【え、フロントに聞いたら、もうチェックアウトしたって言われたんだけど?】悠からは3件だけだった。どれも14時から14時半の間に届いていた。【どこにいる?】【柚葉、どこ行ったんだよ。電話出ろよ】【見たら返事しろ】14時半を最後に、2人からの連絡は途切れていた。キャリーケースを引いて到着ロビーを出ると、タクシーや送迎車の排気に混じって、どこからか焼き芋の甘い匂いが漂ってきた。その匂いを嗅いで、ようやく帰ってきたんだと実感した。タクシー乗り場で順番を待っていると、スマホが震えた。悠からだった。画面に表示された名前を見つめたまま、電話には出なかった。一度切れたものの、すぐにまたかかってきた。二度目も出ずにいると、三度目がかかってきた。そこでようやく電話に出た。「柚葉、お前どこにいるんだよ!」声には怒りが滲み、息も切れていた。どこか走りながら電話しているようだった。「何考えてんだよ。何も言わずにいなくなるとか、どういうつもりだよ。俺がどれだけ探したと思ってる?」風に吹かれた髪が頬にかかったまま、私は答えた。「もう帰ってきたよ」電話の向こうが、一瞬静かになった。「……は?」「帰国したの。14時15分の便で」「は?なんで何も言わずに帰ったんだよ。急にどうしたんだよ。何怒ってんの?」私は黙っていた。「夕依のことか?夕依が何かしたのか?だったら言ってくれればよかっただろ。なんで何も言わずに帰ったんだよ」私が何に傷ついたのかより、悠が先に気にしたのは夕依のことだった。なんだか笑えてきた。「別に、夕依に何かされたわけじゃないよ」「じゃあ、なんで――」「悠、この旅行、4日間だったよね」一度言葉を切ってから、続けた。「この4日間、私とちゃんと過ごした時間って、どれくらいあったと思う?」悠は
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第7話
40分ほどタクシーに揺られて学生寮に戻ると、ルームメイトの江藤美咲(えとう みさき)はまだ起きていた。キャリーケースを引く私を見るなり、美咲は驚いた顔をした。「帰ってくるの、明後日じゃなかった?」「予定変えて、早く帰ってきた」キャリーケースを部屋に入れると、美咲は私の顔をちらりと見た。でも、何も聞かずに温かいお茶を淹れてくれた。「晩ごはん、食べた?」「まだ」「さっきデリバリー頼んだんだけど、チキン残ってるよ。温めよっか?」私はベッドの端に腰を下ろし、両手でカップを包んだ。私は温かいお茶をひと口飲んだ。美咲がチキンを温めている間にスマホを確認すると、悠からの不在着信が12件、夕依からのメッセージが7件届いていた。まず、夕依からのメッセージを開いた。【柚葉、何か勘違いしてない?私と悠、本当に何もないから。こんなことで帰っちゃうなんて……】【悠、すごく慌ててるよ。今、いちばん早く帰れる便を探してる。お願いだから、電話だけでも出てあげて】【柚葉、こんなふうに急に帰っちゃうのはよくないよ。私たちだって心配してるんだから……】3件目まで読んだところで、もう続きを見る気にはなれなかった。心配してる。あなたのためを思ってる。そんな言葉なら、この2年で嫌というほど聞いてきた。そうしているうちに、電子レンジが鳴った。美咲は温めたチキンを私の前に置いた。「ほら、食べな。今は何も考えなくていいから」私はチキンに手を伸ばし、ひと口かじった。熱さと香ばしさが口いっぱいに広がった途端、涙がこぼれた。美咲は何も言わず、ただ軽く肩を叩いてくれた。私はそのまま、泣きながら食べ続けた。泣きながら食べていたせいで、顔はもう涙と油でぐしゃぐしゃだった。ひとしきり泣いてから、私はスマホの電源を切った。……翌日の昼。私はベッドに座り、昨夜美咲が作ってくれたおかゆを食べていた。「柚葉、開けろ」突然、ドアの向こうから悠の声がした。スプーンを持つ手が止まった。「柚葉、いるんだろ」今度は、さっきより強くドアを叩く音がした。美咲は眉をひそめてドアのそばまで行き、振り返って「開ける?」と口だけ動かした。私はスプーンを置き、ベッドを降りた。ドアを開けると、悠が立っていた。
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第8話
悠は顔をそらし、顎にぐっと力を入れた。「わざとじゃないって。向こうが勝手に勘違いしただけだろ。会う人みんなに、いちいち違うって説明しろっていうのか?」「そんなこと言ってるんじゃない。勘違いされたときに、手を握ってくれるだけでよかった。私の隣に来てくれるだけでもよかった」悠は黙ったまま、こちらを見なかった。「私が彼女だって、一言言ってくれればそれでよかったの。でも、悠は一度もそうしてくれなかったよね」少しして、悠が低い声で言った。「……わかった。俺が悪かった。でも、それで別れるってのは違うだろ。そこまでのことか?」「今回のことだけじゃないよ。ずっとそうだった」悠は黙ったまま、私のほうを見ていた。「夕依がこっちの大学に編入してきてから、私といる時間、どんどん減ったよね。何をするにも、まず夕依の予定を気にするようになった。ごはんに誘っても、先に夕依が空いてるか確認してた。2人で映画を見たいって言っても、夕依が1人じゃつまらないからって、結局いつも連れてきたよね」悠は何も言わなかった。「私の誕生日に40分遅れてきたときだって、買い物してた夕依を迎えに行ってたからでしょ」悠は手にしていたオルゴールを強く握った。「そのたびに、次は埋め合わせるって言ってたよね。私、その『次』を2年も待った。でも結局、一度も埋め合わせてもらえなかった」悠はしばらく黙っていた。「……それ、夕依が悪いって言いたいのか?」「違う。私が言いたいのは、悠がずっと私より夕依を優先してきたってこと」「夕依は幼なじみで――」「わかってるよ。夕依は私の親友でもある。でも私、夕依を優先して悠との約束を後回しにしたことなんて、一度もないよ」悠は唇をきつく結んだまま、何も言わなかった。怒っているのか、気まずいだけなのか、もう私にはわからなかった。そのあと、悠が一歩だけ近づいてきた。「柚葉、悪かった。もうこんなことしない。ちゃんとするから……別れるなんて言うなよ」私は悠を見た。赤くなった目元を見ていると、2年前に告白されたときのことを思い出した。あのときは、悠のそんな顔を見るだけで胸がいっぱいになった。でも今は、何も感じなかった。ただ、ひどく疲れていた。「そのオルゴール、持って帰って」「お前に買ったん
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第9話
「まだいたんだ」私は荷物を抱え、そのまま寮のほうへ歩き出した。「柚葉」悠もついてきた。「2分だけでいいから、聞いてくれ」私はそのまま歩いた。「夕依にはもう話した。これからは今までみたいに連絡も取らないし、夕依の用事に付き合うのもやめる」何も答えなかった。「お前に言われたこと、ずっと考えてた。俺、柚葉ならわかってくれるって、勝手に甘えてた」夜風が吹くたび、隣を歩く悠から柔軟剤の匂いがした。この2年、何度も枕に残っていた匂いだった。「柚葉……もう一回、やり直せないか」そこで足を止めた。月明かりの下、アスファルトに私たちの影が伸びていた。「悠。あの日、セイラン湖であの夫婦に夕依と恋人同士だと思われたとき、私が彼女だって一言でも言ってくれてたら……たぶん、先に帰ろうとは思わなかった」悠の顔がこわばった。「たった一言でよかった。でも、悠は何も言わなかった。あのときだけじゃない。今まで何度もそうだったよね。勘違いされても、悠はいつも黙ってた」悠が何か言いかけた。「夕依と付き合ってるみたいに見られても、別に嫌じゃなかったんでしょ。だから何も言わなかったんじゃないの?」「違う」「じゃあ、なんで最初に勘違いされたときに言ってくれなかったの?」悠は答えなかった。「本当に嫌だったなら、そのときちゃんと否定してたはずだよ。私が帰って、別れるって言って、それから謝られても……もう遅いよ」悠は結局、何も言わなかった。ひどく疲れた顔をしていたけれど、かわいそうだとは思えなかった。私だって、この2年ずっと我慢してきた。「明後日、卒論の発表が終わったら、ここを出る」「……どこに行くんだ?」「もう、どこでもいいでしょ」「柚葉――」「悠」私は一度息を吸って、まっすぐ悠を見た。「悠が優しい人なのはわかってる。でも、彼氏としてはもう無理。夕依にも、周りの人にも優しい。でも、私のことはいつも後回しだったよね。もう、いつか変わってくれるって待つのはやめる」それだけ言って、私は寮のエントランスへ向かった。カードキーをかざすと、ガラスの扉に、まだその場に立っている悠の姿が映った。今までだって、いつもそうだった。悠が追いかけてくるのは、私がずっと先まで行ってからだった。
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第10話
美咲は目を見開いた。「会うの?」「これで最後にする。夕依が何を言いたいのか、ちゃんと聞いてくる」25分後、南門近くのカフェに着くと、夕依はもう窓際の席に座っていた。今日はきちんとメイクをして、白いワンピース姿で、髪も下ろしていた。私に気づくと、夕依は立ち上がった。目元は赤かった。「柚葉……」私は向かいに座った。「話って何?」夕依は唇を噛み、カップを両手で包んだ。「柚葉、ごめん。あの旅行で、あんなにつらかったなんて知らなかった。私、ずっと3人でうまくやれてると思ってたの。だから……」「だから?」「柚葉なら、私と悠がただの友達だってわかってくれてると思ってた。悠とは幼なじみだし、昔からあのくらいの距離感が普通だったから、自分でも意識してなくて……」夕依は顔を上げた。頬を涙が伝っていた。「柚葉は私にとって一番の親友だよ。傷つけようなんて、一度も思ってない」夕依が泣くと、私はいつもそこで何も言えなくなった。でも今回は、そのまま流す気にはなれなかった。「夕依。旅行3日目の夜、私の部屋で何言ったか覚えてる?」夕依は一瞬、言葉に詰まった。「最近、悠がよく夕依のこと見てくるって言ってたよね。悠は夕依のことが好きなんじゃないかって、私に聞いたでしょ」「あれは……柚葉がどう思うのか、ちょっと気になって……」「でも、そのとき私、悠は私の彼氏だって言ったよね」夕依は黙った。「夕依も、わかってるって答えた。それなのに、そのあとも悠の上着を着たり、腕を組んだりしてた。周りに付き合ってるって思われても、別に気にしてなかったよね」話しているうちに、夕依の顔色がだんだん悪くなっていった。「夕依がこっちの大学に来てから、悠と2人で出かけようとしても、気づけばいつも夕依も一緒だったよね。悠にあんなふうに甘えて、周りに勘違いされても気にしなかった」夕依は俯いたままだった。「それ全部、本当に何とも思わずにやってたの?私はそうは思えない」夕依の涙がテーブルに落ちた。「柚葉、本当に違うの……私、人に甘えすぎるところがあるのは自分でもわかってる。でも、悠をそういうふうに見たことは本当にないの」「もう、そこはどうでもいい」私は席を立った。「悠は、私が嫌がっててもずっと黙ってた。夕依も、
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