小織は、会社のビルの前で2時間も私を待っていた。退社する私を見つけると、すぐに駆け寄ってくる。「遥華、お願い、話したいことがあるの」「プロジェクトのことなら、法務に言って」「こんなに長い付き合いなのに、本当にこんな終わり方しかないの?」ちょうど退社ラッシュで、入り口を塞ぎたくなかったので、私たちは近くのカフェに入った。小織は席に着くなり、ラテをふたつ注文した。私がコーヒーを飲めないことを、完全に忘れていたのだ。「クライアントが契約を白紙に戻すって言い出してるの」彼女はノートパソコンを私の前に押し出した。「契約もこれまでの企画も、全部あなたがやったものでしょ。クライアントはあなたしか信用してないの。明日の会議だけ出てくれれば、あとは自分でやるから」「私はもうプロジェクトチームからは抜けてるわ」「わかってる。でも、私が損害を被るのをただ見てるつもりなの?」「なんで見てちゃいけないの?」小織は言葉を失った。これまで彼女がどれだけ大きな失敗をやらかしても、私がその後始末をしてきた。彼女がメールの返信を忘れれば、私が代わりに謝罪した。彼女が急に彩也子の気晴らしに付き合うと言い出せば、私がひとりで徹夜して会議をこなした。彼女がクライアントに間違ったファイルを送ってしまった時も、私が夜通しで企画を作り直し、なんとか契約をつなぎとめた。そんなことが積み重なるうちに、私自身、それを自分の責任だと錯覚しかけていたのだ。「遥華、あなたはただ克己さんに腹を立ててるだけかと思ってた」「チームを抜ける時、はっきり伝えたはずだけど」「でも、これは私たちの仕事でしょう」「私の仕事と、あなたの取り分は別の話でしょう」小織の顔が少し引きつった。「あなた、ずっと私のことをそんな風に見てたの?」私は無言でトーク履歴を開いた。この3年間、彼女は重要な会議を17回もドタキャンしていた。そのうち12回は、彩也子の体調不良が理由。残りの5回は、彩也子の買い物や引っ越し、誕生日の付き添い。その最後の1回が、私が肺の手術を受ける前日だった。彼女は私の代わりにクライアントと会うと約束していたのに、彩也子が急に「気分が沈んでいる」と言い出しただけで約束を破った。結局、私は手術前日の夜、絶食を始め
Read more