All Chapters of 愛されるべき人は彼女、消えていい人は私: Chapter 21 - Chapter 22

22 Chapters

第21話

離婚届を提出する日、克己は1時間も早く役所に着いた。離婚届と、すでにサインを済ませた協議書を持っていた。遥華がやってきた時、淡い色の上着を羽織っていた。足首はもう固定の必要がなくなっていたが、歩き方は以前よりまだ遅い。「調子はどうだ」「まあまあ」克己は朝食を差し出した。「お前が昔好きだった店のやつだ」遥華はそれを受け取らなかった。「もう食べてきた」彼が買ってきたのは、山芋の入った雑炊だった。彼女が口をつけようとしないのを見て、克己はようやく思い出した。術後しばらくは、粘り気の強いものや喉に引っかかりやすい食べ物を控えるよう言われていたことを。以前は、知らなかった。今は知っていても、やはり間違えてしまう。慎一と小織は、道の向かい側に立っていた。近づいてはこず、弁護士に2つのものを託していた。慎一が託したのは、最初の返済分を振り込んだことが分かる明細。小織は、プロジェクトの収益の清算書を返却し、長い謝罪の手紙を添えていた。遥華は、明細と清算書は受け取った。けれど、その手紙は開封しなかった。手続きの前に、克己が尋ねた。「もう少し、待ってもらえないか」「どうして?」「俺はまだ、お前を失うことに慣れてないんだ」遥華は彼を見つめた。「私はもう、とっくに慣れているわ」職員がふたりの番号を呼んだ。克己は、座ったまま動かなかった。「遥華、もしあの火事の日、俺が振り返っていたら、俺たちは違ってたんだろうか」「違っていたでしょう」その答えに、彼の目にわずかな光が宿った。遥華は続けた。「私が離れるのが、少し遅くなったかもしれない」離れなかった、ではない。ただ、少し遅くなっただけ。2年前のあの手術、数えきれないほど後回しにされてきた約束、そして長い結婚生活の中で、誰にも気づかれなかった数々の瞬間。それらは、すでに積み重なっていた。あの火事は、ただ最後の一押しだっただけだ。克己はうつむいた。「今日の手続きが終わった後も、お前に会えるか」「仕事で必要なら」「それ以外では?」「必要ないわ」手続きは、あっという間に終わった。役所の窓口で、離婚届が受理された。克己はその受理証明書を受け取る手を、かすかに震わせていた。役所を出る時
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第22話

離婚から3か月目、私は最後の段階的な肺機能検査を終えた。医師は報告書を見終えると、予想より回復が良いと言った。「これからも気をつけてくださいね。喫煙は禁止、換気の悪い場所に長くいるのも避けて。定期検査は必要ですが、それ以外は普通に生活して大丈夫です」私はその報告書をファイルにしまった。前回、肺の報告書を受け取った時、私は家族への指導事項の欄に赤い線を引いた。あの紙は、防災用の非常持ち出し袋の中に2年間、入れたままだった。誰も、開かなかった。今回、看護師が登録票を渡してきた。「緊急連絡先、まだ空欄のままですか」少し考えて、かかりつけの病院については医療情報欄に書き込み、緊急連絡先には新しい会社の総務担当者の連絡先を書いた。看護師はそれを見ても、特に何も聞かず、ただ急病時のカードを常に携帯するようにと念を押しただけだった。病院を出ると、慎一が門の前で待っていた。今回は事前に知らせてくることもなく、以前のように勝手に何かを決めてくることもなかった。「金を返しに来たついでに、送っていこうかと思ってな」彼はひとつの封筒を差し出した。中には、2回目の返済分を振り込んだ明細が入っていた。慎一は、ほとんど乗っていなかった車を売り払い、堅い仕事に就いていた。以前は「起業には付き合いが必要だ」と言い訳して、クレジットカードの滞納はただの一時的な融通だと言っていた。今では毎月の支払いを自分で済ませていて、もう誰かが穴を埋めることもない。「タクシーで行くから」「わかった」彼はそれ以上強く言わず、私が手にした検査報告書にちらりと目をやった。「結果はどうだった」「悪くないよ」慎一は頷いた。数歩歩いたところで、また私を呼び止めた。「遥華、あの日の防災マスクのことだけど……」彼の声に苦渋がにじんだ。「後で消防署に聞きに行ったんだ。もし俺があのマスクをお前に渡してたとしても、彩也子がすぐに命に関わるようなことにはならなかったはずだって」私は何も言わなかった。ある種の答えは、遅すぎて届いても、もう意味を持たない。「あの時はただ、あの子の方が体が弱いから、お前なら持ちこたえられると思っただけだった」「わかっている」「すまなかった」「聞いたわ」慎一の目が赤くなったが、それ以上
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