離婚届を提出する日、克己は1時間も早く役所に着いた。離婚届と、すでにサインを済ませた協議書を持っていた。遥華がやってきた時、淡い色の上着を羽織っていた。足首はもう固定の必要がなくなっていたが、歩き方は以前よりまだ遅い。「調子はどうだ」「まあまあ」克己は朝食を差し出した。「お前が昔好きだった店のやつだ」遥華はそれを受け取らなかった。「もう食べてきた」彼が買ってきたのは、山芋の入った雑炊だった。彼女が口をつけようとしないのを見て、克己はようやく思い出した。術後しばらくは、粘り気の強いものや喉に引っかかりやすい食べ物を控えるよう言われていたことを。以前は、知らなかった。今は知っていても、やはり間違えてしまう。慎一と小織は、道の向かい側に立っていた。近づいてはこず、弁護士に2つのものを託していた。慎一が託したのは、最初の返済分を振り込んだことが分かる明細。小織は、プロジェクトの収益の清算書を返却し、長い謝罪の手紙を添えていた。遥華は、明細と清算書は受け取った。けれど、その手紙は開封しなかった。手続きの前に、克己が尋ねた。「もう少し、待ってもらえないか」「どうして?」「俺はまだ、お前を失うことに慣れてないんだ」遥華は彼を見つめた。「私はもう、とっくに慣れているわ」職員がふたりの番号を呼んだ。克己は、座ったまま動かなかった。「遥華、もしあの火事の日、俺が振り返っていたら、俺たちは違ってたんだろうか」「違っていたでしょう」その答えに、彼の目にわずかな光が宿った。遥華は続けた。「私が離れるのが、少し遅くなったかもしれない」離れなかった、ではない。ただ、少し遅くなっただけ。2年前のあの手術、数えきれないほど後回しにされてきた約束、そして長い結婚生活の中で、誰にも気づかれなかった数々の瞬間。それらは、すでに積み重なっていた。あの火事は、ただ最後の一押しだっただけだ。克己はうつむいた。「今日の手続きが終わった後も、お前に会えるか」「仕事で必要なら」「それ以外では?」「必要ないわ」手続きは、あっという間に終わった。役所の窓口で、離婚届が受理された。克己はその受理証明書を受け取る手を、かすかに震わせていた。役所を出る時
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