兄が灰皿で煙草を揉み消し、低い声で問う。「……もう気が済んだか?」私は黙って兄を見つめた。幼い頃、注射が怖くて泣きじゃくるたび、兄は私を抱きしめて慰めてくれた。「留佳、怖くないぞ。お兄ちゃんがいるからな」って、いつも言ってくれた。それなのに、私が本当に病に倒れてからは、一度たりとも「苦しくないか」と気遣ってはくれなかった。私は小さく頷いた。「わかった。もう暴れたりしない」そのひと言に、彼らはかえって戸惑ったように顔を見合わせた。母が警戒するような目で私を見る。「留佳、どういうつもり?」「別に。もう騒がないって言っただけよ」孝太郎が目を潤ませる。「留佳、二度と早まった真似はしないでくれ」その顔を見ていると、ふいに酷い疲労感が押し寄せた。「うん、しない」誰も信じてくれないだろうけれど。身分証を取りに部屋へ戻り、引き出しを開けたところで、孝太郎が後を追ってきた。彼は私の手首を強くつかんだ。「何をする気だ」私は振りほどこうとした。「離して」ドアの外から母の声がした。「孝太郎、しっかり見ていて。また何かやらかすに決まってるんだから」その言葉に、私はその場で凍りついた。次の瞬間、兄が物置からひと巻きのロープを取り出した。真っ白で、不気味なほど太いロープ。「お兄ちゃん、私を縛るつもり?」兄は私の視線を避けた。「今のお前は精神的に不安定すぎる。少し落ち着け。一晩頭を冷やせ」瑞歩のために、兄は私を縛り上げて閉じ込めようとしている。「こんなことして、許されると思ってるの!?」身を翻して逃げようとした私を、孝太郎が力ずくで椅子へ押さえつける。どうしても抜け出せなかった。私の体はとうに限界を迎えていた。あの時、薬を大量に飲んで救急搬送されて以来、少しの間立っているだけで手足が震えるのだ。兄は俯いたまま、無駄のない手つきで私の両手を縛り上げていく。ロープが手首に食い込んだ瞬間、痛みに思わず息を呑んだ。兄は一瞬だけ動きを止め、「動くな。怪我をするのはお前だぞ」と冷たく言い放った。その横顔を見つめながら、なんて偽善的なのだろうと思った。部屋の中は隅々までひっくり返されていた。母は目を腫らしながら言う。「留佳、お母さんを恨まないで。みんな、あな
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