第21話 DNA鑑定をさせろとは言わない 玲央と別れたあと、紗良は駅までの道を一人で歩いた。 夜風は思ったより冷たく、薄手のコートの前を閉じても首元から冷気が入り込んでくる。けれど、寒さよりも先ほど玲央に言われた言葉のほうが、いつまでも身体の内側に残っていた。 ――俺が知りたいからといって、陽向君の髪を勝手に取るような真似はしない。 当然のことだ。 本来なら、特別に感心するような話ではない。 子どもの髪や唾液を本人にも母親にも黙って採取し、勝手にDNA鑑定へ出すなど、褒められるどころか怒って当然だ。 それでも紗良があの言葉に驚いたのは、昔の玲央ならやりかねないと思っていたからだった。 正確には、本人がこっそり陽向の髪を抜くようなことはしなかっただろう。 もっと玲央らしい方法を使う。 弁護士に確認させ、専門機関を用意し、必要な書類を揃え、「確認しておいたほうが合理的だ」と言って、紗良の返事を待たずに話を進める。 悪意ではない。 だからこそ止めにくい。 彼はいつだって、正しい手続きを使って相手の気持ちを置き去りにすることができた。「……嫌な信用の仕方だなあ」 紗良は小さく呟いた。 五年前の玲央ならする。 今の玲央はしなかった。 その違いを認めたくないわけではない。 むしろ、認めざるを得なくなっていることのほうが困るのだ。 ◇ 帰宅すると、陽向はリビングのテーブルで折り紙をしていた。「お帰り!」「ただいま。まだ起きてたの?」「もう寝るよ」 口ではそう言いながら、まったく寝る気配がない。 テーブルには緑や茶色の
Last Updated : 2026-10-19 Read more