LOGIN五年前、紗良は夫・神崎玲央に妊娠を告げないまま、離婚届と結婚指輪を残して姿を消した。愛されない妻でいることに耐えられなかったからだ。旧姓に戻った彼女は、息子・陽向を一人で育てながら小さな会社を立ち上げ、ようやく穏やかな人生を手に入れた。再婚を考える男性も現れ、過去を忘れようとしていたある日、仕事先で冷酷CEOとなった元夫と再会する。しかも玲央は、陽向の年齢と仕草から自分の息子ではないかと疑い始める。「もうあなたの妻には戻らない」そう拒む紗良に、五年間彼女を忘れられなかった玲央は、失った妻と知らなかった息子のため、もう一度家族になる資格を求め始める。
View More「陽向、本当にここで待てる? お母さん、長くても四十分くらいで戻ってくるけど、途中で寂しくなったら我慢しないで受付のお姉さんに言うのよ」
「大丈夫だってば。僕、もう五歳だよ。それに恐竜もいるから」
高瀬陽向は、膝の上に載せた緑色のティラノサウルスを誇らしげに掲げた。つい先週まで「五歳になったら一人で寝る」と豪語していたくせに、結局その日の夜も紗良の布団へ潜り込んできた息子である。彼の言う「もう五歳」は、母親である紗良にとって、あまり信用できる宣言ではなかった。
それでも今日ばかりは陽向を連れてこないという選択肢がなかった。
本来なら保育園へ預けている時間だが、昨夜になって園から急な休園連絡が入り、いつも困ったときに頼っている近所の女性も今日は都合がつかない。久世悠真にも連絡しようか一瞬迷ったものの、彼は午前から外来診療があると知っていたため、さすがに仕事中の小児科医へ「プレゼンのあいだ子守をしてほしい」とは頼めなかった。
そして今日の最終プレゼンだけは、どうしても欠席できない。
紗良が五年前、ほとんど何も持たずに東京を離れ、陽向を育てながら少しずつ育ててきたデザイン会社にとって、今回の大型リゾート施設のリブランディング案件は今後を左右するほど大きな仕事だった。
ホテル、レストラン、物販施設、地域産品のパッケージまで含め、施設全体のブランドイメージを一から作り直す。これを受注できれば、従業員たちへ今年こそ少しまともな賞与を出せる。それだけではない。地方の小さな会社だからという理由で門前払いされることも、これから少しは減るかもしれなかった。
陽向がいるから仕事を諦める。
仕事があるから陽向に我慢をさせる。
その二つの間を行ったり来たりしながら、紗良は五年間を生きてきた。
どちらも完璧にはできない。最近ようやく、それを認められるようになったところだった。
「じゃあ、お約束をもう一回だけ確認するね。知らない人についていかない。エレベーターには一人で乗らない。ここから勝手に外へ出ない。それから――」
「ジュースは一本だけ」
「そこ、一番大事みたいに言わないで」
思わず笑うと、陽向も得意そうに歯を見せた。
会場となる複合ビルのラウンジは広く、プレゼン参加者用に設けられた待機スペースのすぐ隣には受付がある。事前に事情を説明したところ、担当者は快く陽向がここで待つことを許してくれた。紗良の会社から同行したスタッフも、交代で様子を見てくれると言っている。
それでも母親として心配が消えるわけではない。
「お母さんさ、さっきから同じこと三回言ってる」
「心配なんだから仕方ないでしょう」
「僕よりお母さんのほうが緊張してるんじゃない?」
図星を刺され、紗良は言葉に詰まった。
五歳児は、ときどき腹が立つほど核心を突いてくる。
「……そうかもしれない。今日はすごく大事なお仕事だからね」
「失敗したらどうなるの?」
「そうね。しばらく、お母さんが家で『ああすればよかった』ってぶつぶつ言う」
「じゃあ成功したら?」
「陽向の大好きなハンバーグを作る」
「じゃあ絶対成功して」
「私じゃなくてハンバーグのため?」
「両方だよ。お母さんも好きだから」
そんなことを、まだ丸みの残る顔で当たり前のように言う。
紗良は息子の髪を撫でてから立ち上がった。
「行ってくるね」
「行ってらっしゃい。社長さん」
「家では社長さんって呼ばないでよ」
「だって社長でしょ?」
「六人しかいない会社でもね」
陽向は笑い、恐竜の前足を動かして見送った。
その姿を何度も振り返りながら、紗良はスタッフとともにプレゼンルームへ向かった。
五年前の自分が見たら、今の生活をどう思うだろう。
少なくとも、こんな未来を想像してはいなかった。
大きな家も、運転手付きの車も、高価な服もない。朝は陽向が靴下を片方なくしたと騒ぎ、夜には請求書を確認しながら寝落ちすることもある。スーパーの特売日を気にし、保育園の行事予定に合わせて仕事を組み替え、熱が出れば全部の予定が崩れる。
それでも紗良は、今の暮らしが好きだった。
自分で選んだ仕事があり、自分で借りた家があり、自分の腕の中で眠る息子がいる。
誰かから与えられた人生ではない。
だからこそ、この仕事を取りたかった。
「高瀬さん、そろそろです」
スタッフに声をかけられ、紗良は胸元の社員証を整えた。
「うん。行こう」
扉が開く。
紗良は背筋を伸ばした。
このときの彼女はまだ知らなかった。
五年間かけて必死に作り上げた平穏が、ほんの数十分後、たった一人の男によって大きく揺さぶられることを。
◇
「ねえ、ティラノ。お母さん、ちゃんとできるかな」
待機スペースに残された陽向は、恐竜の口をぱくぱく動かしながら小声で話しかけていた。
もちろん恐竜は答えない。
答えないからこそ、いろいろ相談できる。
「昨日も夜遅くまで起きてたんだよ。悠真先生に、寝ないと肌がどうのこうのって言われてたのに」
正確には悠真が言ったのは「睡眠不足が続くと体調を崩すよ」であって、肌の話ではなかった。ただ、母親が友人との電話で「最近肌がひどい」とぼやいていたため、陽向の中では二つが一緒になっている。
テーブルに置かれたオレンジジュースへ手を伸ばし、その拍子に恐竜の尻尾が鞄へ引っかかった。
「あっ」
緑色のティラノサウルスが床へ落ち、そのままつるりと滑った。
陽向が椅子から降りるより早く、革靴がそのすぐ手前で止まった。
黒い革靴だった。
陽向が見上げる。
ずいぶん背の高い男が立っていた。
黒いスーツに白いシャツ。周囲にも何人か大人がいたが、その男だけは子どもの目から見ても何となく違って見えた。近寄りがたいという言葉を陽向は知らなかったものの、「園長先生より偉そう」という感想はすぐに浮かんだ。
男は足元の恐竜を見たあと、腰を折って拾った。
「これ、君の?」
「うん。ありがとう、おじさん」
すぐ近くで資料を整理していた女性社員の手が止まった。
その隣にいた若い男性は、あからさまに咳払いをして顔を背けた。
男本人も一瞬だけ黙った。
「……おじさん」
「違うの?」
「いや。五歳から見れば、たぶんそうなんだろう」
怒ってはいないらしい。
陽向は少し安心して恐竜を受け取った。
「この子、ティラノサウルスなんだ」
「見れば分かる」
「分かるの?」
「恐竜くらいは知っている」
「でも、大人はみんなティラノサウルスって言うよ。これはティラノサウルス・レックスなんだよ。ティラノサウルスっていうのは――」
「陽向君」
受付の女性が慌てたように声をかけた。
「その方、お忙しいから」
「僕、邪魔してた?」
陽向が男を見上げる。
男は腕時計へ目を落としたものの、急ぐ様子は見せなかった。
「いや。あと五分なら問題ない」
「神崎社長、このあと最終プレゼンが――」
「分かっている」
後ろの男性が口を挟み、陽向は首を傾げた。
「社長さんなの?」
「ああ」
「僕のお母さんも社長さんだよ」
男の眉がわずかに動いた。
「そうか」
「六人しかいないけど」
後ろでまた誰かが咳をした。
今度は確実に笑いを堪えているようだった。
陽向は気づかず、恐竜を両手で持ちながら続けた。
「今日ね、大事なお仕事なんだって。成功したらハンバーグなの」
「ずいぶん重要な契約だな」
「うん。だから僕、ここで静かにしてる」
「一人なのか?」
「受付のお姉さんがいるし、会社の人もいるよ。それに、お母さんすぐ戻ってくるから」
「父親は?」
男がそう尋ねた瞬間、受付の女性が気まずそうに顔を伏せた。
陽向は特に傷ついた様子もなく、少しだけ考えてから答えた。
「いないよ」
「……そうか」
なぜか男の声が先ほどより低くなった。
「でも悠真先生がいるから大丈夫」
「悠真先生?」
「お医者さん。すっごく優しいよ。注射は痛いけど」
「注射が痛いのは先生の性格とは関係ないと思うが」
「そうかなあ」
陽向は真剣に悩み始めた。
その様子を見ていた男の表情が、ほんの少しだけ緩んだ。
その顔を見て、陽向は妙な感じがした。
どこかで見たことがあるような気がしたのだ。
「おじさん」
「今度は何だ」
「笑ったほうがいいよ」
周囲が再び静まり返る。
「なぜ?」
「怖いから」
「……そうか」
「お母さんもね、仕事してるとき怖い顔するけど、僕が言うと笑うよ」
「君は母親にも同じことを言うのか?」
「うん。だって家族だから言っていいんでしょ?」
家族。
その言葉を聞いた男の目が、一瞬だけ遠くを見るように細められた。
陽向には、その理由までは分からない。
「君のお母さんは、どんな人なんだ」
「お母さん?」
「社長をしているんだろう」
「うん。すごいよ。でも朝は弱いし、納豆についてるからしを冷蔵庫にいっぱい溜めるし、洗濯したティッシュをポケットから出し忘れて泣く」
「……それは会社では聞けない情報だな」
「内緒だよ」
「もう聞いてしまった」
「じゃあ誰にも言わないでね」
「分かった」
妙なところで律儀に答える男だった。
陽向はなんとなく気に入り始めていた。
一方で、男のほうも陽向から目を離さなかった。
顔立ちそのものに、特別な引っかかりがあったわけではない。
柔らかな目元も、丸みのある頬も、誰かに似ていると断言できるものではない。
それなのに、妙に気になる。
陽向が考え込むとき、左手の親指の付け根を右手で触る。
今もそうしていた。
男の視線が、その小さな手へ落ちる。
「君、名前は?」
「陽向。高瀬陽向」
男の表情が止まった。
「高瀬……?」
そのときだった。
「陽向!」
少し離れた通路から、女の声が響いた。
プレゼンが予定より早く一区切りつき、資料を取りに戻ってきた紗良は、息子の姿を探しながら足早にラウンジへ入った。
「ごめんね、思ったより時間が――」
言葉が途中で消えた。
陽向の前に立つ男が、ゆっくりと振り返ったからだ。
周囲のざわめきも、空調の音も、遠くで鳴っていたエレベーターの到着音も、紗良の耳から一瞬にして遠ざかった。
五年。
会わなかったのではない。
会わないように生きてきた。
ニュース記事で名前を見かけても開かなかった。テレビで神崎グループの話題が流れればチャンネルを変えた。東京で仕事をするようになってからも、彼の会社が関係する案件には近づかないよう注意していた。
もう二度と、この男の前で息ができなくなるほど傷つきたくなかったからだ。
それなのに。
神崎玲央が、そこにいた。
五年前より少しだけ精悍になった顔。以前より短く整えられた黒髪。隙のないスーツ姿も、感情が読み取りにくい目も記憶のままだった。
ただ、その目だけが今は明らかに揺れている。
「……紗良?」
名前を呼ばれた。
たったそれだけで、胸の奥に押し込めていた年月が音を立てて崩れそうになった。
逃げたい。
反射的にそう思った。
しかし、そのすぐ前には陽向がいる。
紗良は無意識に一歩踏み出し、息子と玲央の間へ自分の身体を滑り込ませた。
「お母さん?」
陽向は母親の異変に気づいたらしい。
玲央の手には、先ほど彼が拾った恐竜がまだ触れていた。
紗良はそれを見て、背筋が冷えた。
よりによって。
どうして、この二人が。
「紗良」
玲央がもう一度名前を呼ぶ。
今度は先ほどより低く、確かめるような声だった。
「本当に、君なのか」
答えたくなかった。
だが、仕事先である。しかも玲央の周囲には社員らしい人間が何人もいて、こちらを見ている。
ここで取り乱せば、守れるものまで守れなくなる。
紗良は唇の裏側を軽く噛み、仕事で何度も使ってきた笑顔を顔に貼りつけた。
「……お久しぶりです」
玲央の眉がわずかに動く。
「神崎社長」
その呼び方を選んだ瞬間、玲央の顔からわずかに残っていた色が消えた。
「社長?」
陽向が母親と男を交互に見る。
「お母さん、このおじさんも社長さんなんだよ。僕の恐竜、拾ってくれた」
「そう……よかったわね。ちゃんとお礼は言った?」
「言ったよ」
紗良は陽向の肩に手を置いた。
その手に力を入れすぎないよう、意識しなければならなかった。
玲央の視線が、紗良から陽向へ移る。
ゆっくりと。
まるで今になって初めて、その子どもの存在を正面から認識したように。
紗良は息を止めた。
お願いだから、何も聞かないで。
そう願ったときに限って、子どもというものは大人が隠したい扉を無邪気に開けてしまう。
陽向は恐竜を抱え直し、玲央を指さすこともなく、ただ純粋な疑問を口にした。
「ママ、このおじさん知ってるの?」
紗良は答えられなかった。
そして神崎玲央は、そんな紗良ではなく、五歳の陽向をじっと見つめていた。
第27話 俺はまだ彼女を愛している 神崎玲央の月曜日は、朝七時半の役員会議から始まった。 海外事業部の収益見通し、来期の設備投資、傘下ホテルの稼働率。午前中だけで三つの会議を終え、昼食は執務室で資料を読みながら済ませる。 以前なら、それで何の問題もなかった。 むしろ効率がいいと思っていた。 ところが最近は、十二時を過ぎると妙なことを考える。 陽向は今ごろ何を食べているのだろう。 保育園の給食は、毎日献立が違うのだろうか。 ピーマンが出た日はどうしているのか。 嫌いだと言いながら、本当に一口も食べないのか。「社長」 宮坂の声で、玲央は手元の資料から顔を上げた。「何だ」「先ほどから同じページを三分ほどご覧になっています」「読んでいる」「そのページ、昨日も確認済みです」「もう一度読んでいる」「では内容を伺っても?」「……」 玲央は資料を閉じた。「嫌な秘書だな」「長く仕えておりますので」 宮坂は悪びれず、次の書類を机へ置いた。「十四時からの財務会議ですが、予定どおりです。それから、会長夫人から今週末の食事について、再度ご連絡がありました」 玲央の顔からわずかに表情が消える。「断ったはずだ」「先方のお嬢様との顔合わせではなく、今回は親子だけで食事をしたいとのことです」「母と?」「はい」「何か言っていたか」「電話では『最近、玲央の様子がおかしい』と」「ずいぶん曖昧だな」「具体的には
第26話 嫌いになれたら楽だった 月曜日の朝、紗良は目覚ましが鳴るより先に目を覚ました。 隣では陽向が布団を半分蹴飛ばし、枕から頭を落としかけた格好で眠っている。昨夜は公園から帰る電車の中でほとんど寝ていたくせに、帰宅すると急に元気を取り戻し、玲央から聞いた電車の話を思い出しては「あれは知ってた」「これは知らなかった」と延々報告していた。 父親と会った日。 その言葉だけを聞けば、もっと大きな事件になっていてもおかしくなかった。 ところが陽向にとっては、どうやら「玲央おじさんと電車を見た日」であり、「ココアを飲んだ日」であり、「少しだけパパっぽかった日」でもあるらしい。 子どもの受け止め方は、大人が恐れるほど劇的でも、単純でもない。 紗良は陽向へ毛布を掛け直し、静かに寝室を出た。 キッチンで湯を沸かしながら、昨日の玲央を思い出す。 アイスをねだった陽向へ、母親の判断を優先したこと。 知らない電車について、知ったふりをしなかったこと。 陽向から「まだパパか分からない」と言われても、傷ついた顔をしながら受け入れたこと。 そして別れ際。『次もちゃんと聞いてください』 自分は、そう言った。 陽向の話だけではない。 私の話も。「……何言ってるんだろ」 湯気の向こうで、自分へ呆れる。 五年前は話を聞いてほしかった。 今はもう別れた。 悠真との再婚も考えている。 それなのに今さら、玲央へ「私の話も聞いて」と言うなんて。 どこまで欲張りなのだろう。 五年前にもらえなかったものを、今の玲央へ求め始めている。 その事実に気づくと、胃のあたりが重くなった。
第25話 パパって、どんな人? 翌週の日曜日、陽向は朝から落ち着かなかった。 朝食を食べながら何度も時計を見て、まだ九時を過ぎたばかりなのに「もう行く?」と聞く。約束は午後一時だった。「まだ早いよ」「でも電車の公園、遠いじゃん」「電車で三十分くらい」「じゃあ十一時?」「早すぎる」「十二時?」「それでも早い」 陽向は不満そうにトーストをかじった。「玲央おじさん、もう来てるかもしれないよ」「たぶん来てない」「なんで分かるの?」「この前、早く来すぎないって約束したから」「お父さんなのに約束いっぱいあるね」 紗良はコーヒーカップを持つ手を止めた。「そうだね」「普通のお父さんも?」「家族には約束って必要だよ」「悠真先生も結衣ちゃんと約束する?」「すると思う」「お母さんと僕も?」「毎日してるでしょう。夜九時には寝るとか、お菓子はご飯の前に食べないとか」「それは約束じゃなくてルール」「都合のいいところだけ分類しないで」 陽向は笑った。 父親が玲央だと分かってから、一週間。 生活が劇的に変わったわけではなかった。 玲央から陽向へ直接連絡することはない。陽向が会いたいと言ったときだけ紗良を通すという約束を、今のところ守っている。 美佐子にも何も伝えていない。 会社にも。 その事実が、紗良の警戒心を少しずつ緩めていた。 全部ではない。 でも、ゼロでもない。
第24話 元夫だから何ですか 日曜日の夜、陽向は布団へ入ってからも、なかなか眠ろうとしなかった。「お母さん」「なに?」「玲央おじさん、次いつ会う?」 枕元の灯りを消そうとしていた紗良の手が止まる。「今日会ったばっかりでしょう」「だから次」「そんなすぐ決めるものなの?」「約束しないの?」「約束っていうか……」 紗良はベッドの端へ腰を下ろした。 陽向は毛布から顔だけを出している。「また会いたい?」「うん」「本当に?」「なんで何回も聞くの?」「大事だから」「会いたくなかったら言うよ」 確かに。 陽向はそのあたりを妙に遠慮する子ではない。「何したいの?」「公園」「今日行ったよ」「違う公園」「公園なら何でもいいの?」「電車見えるところ」「ああ、あそこね」 少し離れた河川敷近くに、線路を見下ろせる公園がある。 陽向の好きな場所だ。「玲央おじさん、電車知ってるかな」「恐竜よりは知ってるんじゃない?」「ほんと?」「たぶん」「じゃあ聞く」 もう次に会う前提になっている。 紗良は少しだけ複雑な気持ちになった。 嬉しくないわけではない。 玲央が父親だと知ったことで陽向が拒絶しなかったことには、正直ほっとしている。 けれど同時に