Tous les chapitres de : Chapitre 11 - Chapitre 13

13

矜持(1)

******** 「ん…」 目が開いた時、初めに映り込んだのは光。おそらくそれは人工的なもので、温かさは感じられない。 次に見えたのは、見覚えのある天井。その景色にはっとした。 「…!」 勢いをつけて起き上がる。 その時に金属の擦れる音がして、息を呑んだ。 慌てて髪に触れる。そこで雨に濡れて軋んだ様子などかけらもないことに気づく。 自分のすぐ下を見れば着ている服が違う。膝も、よく見れば肘も腕も、擦りむいたと思われる場所には包帯がしてあって、治療がされたことなど明白で。 ——手首にはまた、手錠がかけられていた。 「…あ、あぁ…」 言葉もでない、出せるわけがない。 強い後悔が、脳をめぐる。 どうして、自分はここに。 (こんな、はずでは) 「!」 不意に入ってきた扉の開く音に目が向いて、そして眺めたそれは静かに閉まった。こちらに歩いてくる革靴の音が静かに、部屋の中に響く。 「あぁ、起きたんだね」 “彼”の声がする。 革靴の音がやけに大きくて、息ができない。 心臓が今にも止まりそうになっている。 背筋が凍って、手が。 手の震えが、止まらない。 「…」 彼がベッドの淵に腰掛ける姿を見開いた目が追っている。そのまま彼はこちらを向いて、滞ることなく口を開いた。 「どうして?」 最初に彼からそう言葉が出る。 「僕がわからないって思ったの?」 だけど自分は声が出ない。 「どうして離れたりしたの?」
last updateDernière mise à jour : 2026-10-11
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矜持(2)

彼女が彼と出会ったのは、少なくとも記憶では社交デビューの後だったはず。考えうる限りそこで衝撃的な出会いをした記憶はないし、挨拶程度の仲でしかない。どこにそんな要素があるというのだろうか。 「覚えてないよね。そのまま忘れていて」 その言い草も気になるが、どちらにせよ今の論点はそういうことではない。 「…それは、できませんわ。ですが今は目の前の問題を解決するべきでしてよ。貴方は今一度ご自身のお立場を思い出すべきです、ディードリヒ・シュタイト・フレーメン王太子殿下」 リリーナはディードリヒを強く睨みつける。 それを虚な目で見つめているはずの相手は、相変わらずとてもこちらを見ていると思えない。それでも彼女は睨むことをやめなかった。 王太子、何度でも言うがそれは国王の子息の中でも既に王位継承が決まっている立場の者を指す。 その重みのなんたるかを、リリーナは少なからず推し量れるつもりだ。王位継承の決まっていない王子という立場を見ただけでさえ、常に重圧と陰謀の最中に身を置かなければいけなかったのだから。それが隣に座ることが決められていた人間の立場だったし、そう教え込まれてきた。 それがどうだ、この王太子ときたら。何度でも言うが自分はとっくの昔に落ちぶれた罪人でしかないというのに現を抜かして。娼婦のように慰み者にも使えやしないというのに。何をもって自分を好きだと宣う以前にこの遊びは危険なのだと気づいてもらわなくては。 だからと言って慰み者になろうという気もない。どこまで落ちぶれようが心まで堕落するのであれば舌を噛み切ったほうが、同じ死でも余程納得できる。 「それは…」 ふと、ディードリヒの顔から落胆したように表情が消えた。その姿に身構えると、空虚で悲しい感情が溢れでてくる。 「リリーナも、僕の立場しか見てないってこと?」 「…?」 「リリーナはあの日、“僕”を助けてくれたのに。“僕”はリリーナの中でも“僕”じゃないの?」 「急に何を…」 思わ
last updateDernière mise à jour : 2026-10-12
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矜持(3)

「…リリーナ」 涙の止まらない彼女をディードリヒがそっと抱きしめる。 「っやめ…やめて…っ」 それを彼女は押し除けようとするが、彼はその腕ごと、まるで壊れ物を扱うように包み込んでしまう。 「ごめん、リリーナ」 「…なんです、急に」 「僕が君を傷つけるなんて、あってはいけないのに」 「…そう思うなら離して下さらないかしら」 リリーナは反抗するが、ディードリヒが離れる気配はない。 「辛かったんだね、リリーナ」 「…貴方には、理解し得ないことでしてよ」 「うん…確かに僕はリリーナが今持ってない全部を持ってるから」 「…」 「でもね、僕は今リリーナが話してくれたみたいに、立場の向こうの君が知りたいし、君にもそういう僕を知ってほしい」 少しだけ、抱擁が強くなる。リリーナはそれを黙って受け入れた。 「僕は本当に情けなくて狡くて…今だってリリーナが辛かったって聞いて不謹慎なのに喜んでる。そういう君が見たかったんだって」 「…失礼ですわ」 「ごめんね。でも僕にはそういうこともっと言って欲しいな。そして知って欲しい、君がいないと生きていけない情けない僕を」 「…」 罰が悪いように黙ってしまったリリーナをディードリヒが責めることはない。しかし体を離すと、今度は彼女の額に自分の額を当てた。 「僕は絶対、リリーナの冤罪を晴らしてみせるよ。僕なら、君を元いた家に返してあげることもできる」 そして、 「!」 リリーナの頬にキスが一つ落ちた。 「だからリリーナ、全部終わったら僕と結婚して?」 「は…?」 飛んできた言葉にリリーナは開いた口が塞がらない。正直あまりに急な話についていけなくなっている。 「貴族なんだから、普通だと思うけど」
last updateDernière mise à jour : 2026-10-13
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