ロンドン・チェルシー、サーチ・ギャラリー前の広場。50か国以上から集まったファッション誌や放送局の、何百ものカメラが、花火のようにフラッシュを放っていた。ロンドン・グローバル・ファッションウィーク、VVIPガラディナーのレッドカーペットだった。ハリウッドの大スター、欧州の王族や貴族、世界の有力企業のトップが彩る華やかな舞台へ、漆黒のロールス・ロイス・ファントムのリムジンが、滑るように止まる。ドアマンが扉を開けると、英国式の黒いタキシードを着た蓮司が、先に降り立った。まっすぐな肩。冷たく光る銀の眼鏡。その奥から漂う、巨大資本を率いる男の気品。報道陣から、感嘆の声が漏れた。蓮司が恭しく手を差し出し、車内の女を丁寧にエスコートした。紗月の姿が現れた途端、シャッターの音すら止まるかと思うほど、広場に息をのむ気配が広がった。深いエメラルド色の、バックレスのシルクドレス。低く開いた背中から、滑らかな背筋が大胆にのぞいていた。歩くたび、深いスリットの間に白い脚がのぞく。細い首元では、シンプルな5カラットのダイヤのネックレスが、まばゆく光っていた。優雅で、危険なほど魅惑的だった。「Who is that stunning lady? Look at her back!」「Ms. Ichinose! Mr. Kurose! Over here! Camera one, please!」海外メディアの声とフラッシュが、滝のように降り注いだ。日本人女性の企業トップが放つ、冷ややかで圧倒的な気品と色香に、人々は目を奪われた。紗月は余裕のある笑みを浮かべ、隣に立つ蓮司の硬い腕へ、そっと自分の腕を絡めた。二人のシルエットが、フラッシュの中で、一枚の名画のように浮かび上がる。腕越しに伝わる熱が、紗月を確かに支えていた。過去の地獄のような傷は、もう彼女の堂々とした歩みを止めなかった。ガラディナーのメインホールへ入ると、欧州最大級のラグジュアリーハウス、LVMの総括会長が、自らシャンパングラスを持って近づいてきた。「一ノ瀬社長、お噂はかねがね。ぜひ当グループと、アジアのラグジュアリー流通網における独占的な提携を、結んでいただきたい」紗月は流暢で品のよい英国式の英語で会話を主導し、数百億円規模の国際流通契約の主導権を、一気につかんだ。提案された流通範囲
Last Updated : 2026-10-05 Read more