鼻を刺す病院の消毒薬の匂いが、生臭く感じられた。大学病院の整形外科、VIP病棟の個室で、修司は生ける屍のようにベッドに横たわっていた。右の鎖骨に金属のピンを三本入れる手術を受けていた。縫合部はドレッシング材で覆われ、腕は装具に支えられている。肋骨も三本折れ、深く息をするたびに脇腹が痛んだ。麻酔がまだ抜けきらず、口元から唾液をこぼしながら、どうにか目を開けた。ぼやけた視界に最初に入ったのは、窓際で腕を組む白石玲奈の姿だった。「少しは目が覚めた?」玲奈は、彼の怪我より、自分の身に起きたことを先に問いただしそうな顔をしていた。心配より苛立ちの勝る声だった。「玲奈……体が……うっ、息が……うまく、息ができない……」乾ききった唇を動かし、修司は金属音のようにかすれたうめきを絞り出した。肋骨を傷めているせいで、一言発するたび、胸全体を刃物でえぐられるような激痛が全身を締めつけた。「痛いのはわかってる。でも、先に答えて。昨日のマンションの浴室、あなたが何かしたの?」ヒールを鳴らして大股に近づき、玲奈は金属のベッド柵を、バンと叩いた。「な……何だって……?」「聞いてるでしょう! あの床に何を塗ったの? 香水だって、あなたが選んで、私の首につけた。今度も私が先に入ってたら、そうなってたのよね。私を消そうとしたの? 事故に見せて、誰にも気づかれないように?」玲奈の目には、狂気じみた不信と敵意が燃えていた。「何……何、馬鹿なこと言ってんだ! 俺がお前を殺すわけないだろ! 俺は……ぐああっ!」悔しさと怒りで無理に上体を起こしかけ、手術した肩へ走った痛みに、修司は悲鳴を上げた。額と首筋から雨のように冷や汗を流しながら、息をあえがせる。「あの床……紗月を殺すために、書斎の金庫に隠してたフッ素シリコーンのスプレーと、同じだったんだ! 踏んだ瞬間に滑った! いつもの床とは違ったんだよ!」「だったら、どうしてその薬品が、私たちしか知らない部屋の浴室にまいてあるのよ!」玲奈の甲高い声が、狭い病室の壁を打った。修司の下顎が、目に見えて震えた。麻酔が残っていても、表情だけははっきりと強張っていった。「誰かが……誰かが、あの部屋に入ったんだ」修司は一瞬、病室のドアを振り返った。外で聞かれていないかと声を落とそうとしたが、先に息が乱れた。玲奈はドアなど見もしなかった。返
Last Updated : 2026-10-06 Read more