雨の中で立ち尽くしていた。頭の奥で、耳鳴りのような音がしていた。気づけば、悠真の大学へ向かって足を速めていた。歩いている間も、彼が莉央について話していたことが、次から次へと頭を駆け巡った。大学のそばにある、カップル向けのカフェ。その窓越しに、悠真が莉央の口元についたカプチーノの泡を、丁寧に拭っているのが見えた。胸の中で何かが崩れた。それでも信じたくなくて、ドアを開け、悠真の前まで歩み寄った。「悠真、病院で付き添ってるんじゃなかったの?」悠真は一瞬ぽかんとしたが、すぐに立ち上がり、私を引き寄せて隣に座らせた。なだめるように声を落とす。「紗月、どうしてここに?病院にこもってたら、うつ病だってよくならないだろ。莉央を気晴らしに連れ出したんだよ」莉央の前に置かれたカプチーノを見て、心の中で笑った。「そう。うつ病の人って、コーヒーを飲んでもいいんだ。知らなかった」悠真の目が冷たくなった。「紗月、何をそんなに嫌味を言ってるの?莉央の面倒を見てるのは、僕に責任感があるからだよ。そこまで束縛するなんておかしい。そんなの、誰だって耐えられない」私は黙って彼を見つめた。目の前の人が、急に遠く感じられた。母は父をひどく束縛していた。何をするにも報告させ、疑ってばかりいた。そのせいで父が仕事の会食に行けず、職を失ったことがあった。それをきっかけに、2人は離婚した。その傷を、悠真は知っていた。何度も私に言ってくれたはずだ。「紗月、心配しないで。僕たちは、お父さんとお母さんみたいにはならないよ。僕は、紗月に束縛されてもいいんだから」なのに今は、莉央のために約束を破るだけでなく、私の古傷までえぐる。雨に濡れた服に気づいたのか、悠真の表情がやわらいだ。「もう、紗月。機嫌直して。さっきは言いすぎたよ。いいから、先にホテルに行って着替えて、ちゃんと休んで。莉央を病院へ送ったら、僕も行くから」私が動かずにいると、莉央がゆっくり口を開いた。「初めまして。紗月さんですよね?この数年、悠真先輩が支えてくれたおかげで、私、こうして生きていられるんです。こんなに優しい恋人がいて、うらやましい。私なんて……」声はだんだん小さくなり、顔も伏せられていく。けれど、その綺麗な顔はほんのりと赤らんでいた。少なくとも私には、うつ病に苦しんでい
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