All Chapters of 山も海も越えたのに、愛は届かなかった: Chapter 11 - Chapter 13

13 Chapters

第11話

悠真の顔色が、さっと変わった。あの場所を離れて長い年月がたち、腹いっぱい食べることもできず、何もできなかった頃の感覚を、とっくに忘れていたのだ。「本当にひどいのは、あなたのほうでしょう。私が用意した不自由のない暮らしは手放したくないのに、自分から莉奈に近づいた。あの子が浮気相手だって責められてるのも、全部あなたのせいよ!」彼はすぐに首を振った。「違う」私のお金目当てで付き合っていたことを否定したのか。それとも、莉奈を傷つけたことを否定したのか。もう確かめる気にもなれなかった。「私はあの街には行かない。莉奈のための釈明なんて、一言もしない。2人のしたことを、街の大型ビジョンで丸2日流されたくなかったら、今すぐ出ていって!二度と私の前に顔を見せないで!」悠真は唇を引き結ぶと、迷いなく背を向けて出ていった。私は頬の涙を拭き、再び広く明るくなった家を見渡して、何とか笑みを浮かべた。これが本来の、私の家なのだ。その日から、悠真への連絡手段はすべてブロックした。彼に持たせていた決済用のカードも止めた。彼に関することは、もう一切気にしなかった。あっという間に、卒業の季節になった。ほんの数か月前までは、彼の修了式に何を着ていこうかと、わくわくしながら考えていたのに、今では、ずっと遠い昔の出来事のようだった。紗季は私が思い詰めるのを心配し、いっそ一緒に住もうと、私の家へ引っ越してきた。私は苦笑した。「もう20歳の女の子じゃないんだから。男1人のために、死ぬの生きるのなんて騒がないよ」いつまでもあの件を引きずるくらいなら、自分の仕事や暮らしに時間を使いたかった。修了式には行かなかった。けれど遠く離れた自分の街で、彼の大学の式典にまつわる衝撃的なニュースを目にした。あのギャンブル狂いの父親が式典に押しかけ、大暴れして、会場をめちゃくちゃにしたのだ。悠真も父親と話し合おうとした際に殴られ、入院していた。動画の中で、彼の父親は鬼のような形相で、警察に連行されながらもわめき続けていた。「俺はこいつの親父だぞ!自分の息子をしつけて何が悪い!他人が口出しするんじゃねえ!悠真、このクソガキ!出世した途端、恩を忘れて、実の親父を見捨てるのか!」ニュースを見終えた紗季は、吐き捨てた。「
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第12話

あの時、私は悠真を連れ出したあとも、ろくでもない父親が彼にまとわりつかないよう、この何年も3か月おきに決まった額を父親の口座へ振り込んでいた。それでようやく、おとなしくさせていたのだ。悠真と別れてからは、その送金もやめた。数日前、父親ははるばる私の街まで押しかけてきた。私は鼻で笑い、その場で警備員を呼んだ。「悠真のあのクズ、私を裏切って浮気したのよ。父親のあなたが、よく私にお金をせびりに来られるわね。今まで払っていたのは、私の厚意なの。払わなくなったからって、責められる筋合いはないわ。騒ぎたいなら、一緒に警察へ行きましょう。ちょうどいいから、この何年かのお金のことも、全部はっきりさせましょうよ」身内にしか威張れない小心者だった彼は、すごすごと引き下がった。私はといえば、帰り際に親切心を出して、悠真が今どこにいるのか、忘れずに教えてあげた。自分の父親のことくらい、自分で面倒を見るべきでしょう。今起きていることは、まだ始まりにすぎなかった。数日後の昼休み、同僚たちと昼食を取りに下へ降りると、莉奈が突然、行く手に飛び出してきた。わざわざ人の多い時間を狙ったのだ。大勢の前で私を責めれば、自分が正しいと思ってもらえるとでも考えたのだろう。「美緒さん、どうしてそんなにひどいことができるんですか」私は足を止め、腕を組んだ。「本当にお似合いね、あなたたち。2人そろって同じことばかり。ちょうどみんなもいるし、私が何をしたのか、聞かせてあげたら?悠真のギャンブル狂いの父親の面倒を見るのをやめたこと?それとも、浮気男の持ち物を家から捨てたこと?ああ、それとも、あなたが浮気相手だったことを、大学の匿名交流アカウントに投稿したことかしら」彼女は顔を真っ赤にし、しどろもどろになるばかりで、まともな言葉が出てこなかった。私は皮肉っぽく笑った。「私があなただったら、さっさと荷物をまとめて逃げるけどね。自分の家のごたごただって、まだ片づいてないんでしょう?」彼女は、まるで私が許されない罪でも犯したかのように、目を赤くして私をにらみ上げた。突然、大きな手が伸び、彼女を背後へ引き寄せた。「悪気はないんだ。ただ、俺のことが心配なだけなんだよ」私は悠真を上から下まで見た。やつれた顔をしていて、腕に巻い
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第13話

あまりの言い草に、笑ってしまった。「今まで何もなかったのは、私がお金で収めてあげていたからよ。もうやめたの。勝手に悪者にして、責任を押しつけないでくれる?」私は悠真へ顔を向けた。「人を救うのが大好きなんでしょう?じゃあ、今度は2人で救い合ってみたら。せっかく機会をあげたんだから」彼は何とも言えない顔をした。長い沈黙のあと、ようやく口を開いた。「……行こう」私は皮肉な笑みを浮かべ、背を向けた。支えられるだけの力もないのに、誰かを救うなんて、結局はとんだお笑い草なのだ。次に悠真の話を聞いたのは、出張から戻った紗季が、何気なくその名を出した時だった。「今回の出張先で、誰に会ったと思う?」私はおかずを1口、箸でつまんで口へ運んだ。「誰?そんなに楽しそうに」「悠真よ。父親があいつのお金を盗んでギャンブルに使ったらしくて、2人でものすごい殴り合いになって、警察まで来ちゃったの。取引先との約束があったから、動画を撮ってあげられなかったのが残念」「そんなことだろうと思った」悠真の履歴書は見たことがある。優秀な人材がひしめくこの大都市で、彼が頭角を現すのは、まず無理だった。しばらく履歴書を送り続けたものの、生活費の高さに耐えかねて、彼は地方へ移った。父親は筋金入りのごろつきだ。息子が金づるになると分かった以上、簡単に手放すはずがなかった。どこへ行こうと、あのギャンブル狂いの父親は、亡霊のように彼につきまとうだろう。莉奈も自分のことで精いっぱいで、とっくに残りわずかな貯金を持ち、別の土地へ逃げていた。あれほど愛し合っていた2人も、厳しい現実を前にすれば、この程度だったらしい。人に何を言われても分からないことが、たった一度の経験で身に染みることもある。人にはそれぞれの人生がある。それを理解するまでに、私は7年もかかった。他人の人生にむやみに踏み込めば、その人を傷つけるだけでなく、自分まで傷つく。7年前、私が悠真を連れて避けた道を、7年後の彼は、結局自分の足で歩くことになった。運命って、本当に皮肉なものね。(おわり)
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