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第13話

Auteur: 福餅あん
あまりの言い草に、笑ってしまった。

「今まで何もなかったのは、私がお金で収めてあげていたからよ。もうやめたの。勝手に悪者にして、責任を押しつけないでくれる?」

私は悠真へ顔を向けた。

「人を救うのが大好きなんでしょう?じゃあ、今度は2人で救い合ってみたら。せっかく機会をあげたんだから」

彼は何とも言えない顔をした。長い沈黙のあと、ようやく口を開いた。

「……行こう」

私は皮肉な笑みを浮かべ、背を向けた。

支えられるだけの力もないのに、誰かを救うなんて、結局はとんだお笑い草なのだ。

次に悠真の話を聞いたのは、出張から戻った紗季が、何気なくその名を出した時だった。

「今回の出張先で、誰に会ったと思う?」

私はおかずを1口、箸でつまんで口へ運んだ。

「誰?そんなに楽しそうに」

「悠真よ。父親があいつのお金を盗んでギャンブルに使ったらしくて、2人でものすごい殴り合いになって、警察まで来ちゃったの。

取引先との約束があったから、動画を撮ってあげられなかったのが残念」

「そんなことだろうと思った」

悠真の履歴書は見たことがある。優秀な人材がひしめくこの大都市で、彼が頭
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  • 山も海も越えたのに、愛は届かなかった   第13話

    あまりの言い草に、笑ってしまった。「今まで何もなかったのは、私がお金で収めてあげていたからよ。もうやめたの。勝手に悪者にして、責任を押しつけないでくれる?」私は悠真へ顔を向けた。「人を救うのが大好きなんでしょう?じゃあ、今度は2人で救い合ってみたら。せっかく機会をあげたんだから」彼は何とも言えない顔をした。長い沈黙のあと、ようやく口を開いた。「……行こう」私は皮肉な笑みを浮かべ、背を向けた。支えられるだけの力もないのに、誰かを救うなんて、結局はとんだお笑い草なのだ。次に悠真の話を聞いたのは、出張から戻った紗季が、何気なくその名を出した時だった。「今回の出張先で、誰に会ったと思う?」私はおかずを1口、箸でつまんで口へ運んだ。「誰?そんなに楽しそうに」「悠真よ。父親があいつのお金を盗んでギャンブルに使ったらしくて、2人でものすごい殴り合いになって、警察まで来ちゃったの。取引先との約束があったから、動画を撮ってあげられなかったのが残念」「そんなことだろうと思った」悠真の履歴書は見たことがある。優秀な人材がひしめくこの大都市で、彼が頭角を現すのは、まず無理だった。しばらく履歴書を送り続けたものの、生活費の高さに耐えかねて、彼は地方へ移った。父親は筋金入りのごろつきだ。息子が金づるになると分かった以上、簡単に手放すはずがなかった。どこへ行こうと、あのギャンブル狂いの父親は、亡霊のように彼につきまとうだろう。莉奈も自分のことで精いっぱいで、とっくに残りわずかな貯金を持ち、別の土地へ逃げていた。あれほど愛し合っていた2人も、厳しい現実を前にすれば、この程度だったらしい。人に何を言われても分からないことが、たった一度の経験で身に染みることもある。人にはそれぞれの人生がある。それを理解するまでに、私は7年もかかった。他人の人生にむやみに踏み込めば、その人を傷つけるだけでなく、自分まで傷つく。7年前、私が悠真を連れて避けた道を、7年後の彼は、結局自分の足で歩くことになった。運命って、本当に皮肉なものね。(おわり)

  • 山も海も越えたのに、愛は届かなかった   第12話

    あの時、私は悠真を連れ出したあとも、ろくでもない父親が彼にまとわりつかないよう、この何年も3か月おきに決まった額を父親の口座へ振り込んでいた。それでようやく、おとなしくさせていたのだ。悠真と別れてからは、その送金もやめた。数日前、父親ははるばる私の街まで押しかけてきた。私は鼻で笑い、その場で警備員を呼んだ。「悠真のあのクズ、私を裏切って浮気したのよ。父親のあなたが、よく私にお金をせびりに来られるわね。今まで払っていたのは、私の厚意なの。払わなくなったからって、責められる筋合いはないわ。騒ぎたいなら、一緒に警察へ行きましょう。ちょうどいいから、この何年かのお金のことも、全部はっきりさせましょうよ」身内にしか威張れない小心者だった彼は、すごすごと引き下がった。私はといえば、帰り際に親切心を出して、悠真が今どこにいるのか、忘れずに教えてあげた。自分の父親のことくらい、自分で面倒を見るべきでしょう。今起きていることは、まだ始まりにすぎなかった。数日後の昼休み、同僚たちと昼食を取りに下へ降りると、莉奈が突然、行く手に飛び出してきた。わざわざ人の多い時間を狙ったのだ。大勢の前で私を責めれば、自分が正しいと思ってもらえるとでも考えたのだろう。「美緒さん、どうしてそんなにひどいことができるんですか」私は足を止め、腕を組んだ。「本当にお似合いね、あなたたち。2人そろって同じことばかり。ちょうどみんなもいるし、私が何をしたのか、聞かせてあげたら?悠真のギャンブル狂いの父親の面倒を見るのをやめたこと?それとも、浮気男の持ち物を家から捨てたこと?ああ、それとも、あなたが浮気相手だったことを、大学の匿名交流アカウントに投稿したことかしら」彼女は顔を真っ赤にし、しどろもどろになるばかりで、まともな言葉が出てこなかった。私は皮肉っぽく笑った。「私があなただったら、さっさと荷物をまとめて逃げるけどね。自分の家のごたごただって、まだ片づいてないんでしょう?」彼女は、まるで私が許されない罪でも犯したかのように、目を赤くして私をにらみ上げた。突然、大きな手が伸び、彼女を背後へ引き寄せた。「悪気はないんだ。ただ、俺のことが心配なだけなんだよ」私は悠真を上から下まで見た。やつれた顔をしていて、腕に巻い

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    悠真の顔色が、さっと変わった。あの場所を離れて長い年月がたち、腹いっぱい食べることもできず、何もできなかった頃の感覚を、とっくに忘れていたのだ。「本当にひどいのは、あなたのほうでしょう。私が用意した不自由のない暮らしは手放したくないのに、自分から莉奈に近づいた。あの子が浮気相手だって責められてるのも、全部あなたのせいよ!」彼はすぐに首を振った。「違う」私のお金目当てで付き合っていたことを否定したのか。それとも、莉奈を傷つけたことを否定したのか。もう確かめる気にもなれなかった。「私はあの街には行かない。莉奈のための釈明なんて、一言もしない。2人のしたことを、街の大型ビジョンで丸2日流されたくなかったら、今すぐ出ていって!二度と私の前に顔を見せないで!」悠真は唇を引き結ぶと、迷いなく背を向けて出ていった。私は頬の涙を拭き、再び広く明るくなった家を見渡して、何とか笑みを浮かべた。これが本来の、私の家なのだ。その日から、悠真への連絡手段はすべてブロックした。彼に持たせていた決済用のカードも止めた。彼に関することは、もう一切気にしなかった。あっという間に、卒業の季節になった。ほんの数か月前までは、彼の修了式に何を着ていこうかと、わくわくしながら考えていたのに、今では、ずっと遠い昔の出来事のようだった。紗季は私が思い詰めるのを心配し、いっそ一緒に住もうと、私の家へ引っ越してきた。私は苦笑した。「もう20歳の女の子じゃないんだから。男1人のために、死ぬの生きるのなんて騒がないよ」いつまでもあの件を引きずるくらいなら、自分の仕事や暮らしに時間を使いたかった。修了式には行かなかった。けれど遠く離れた自分の街で、彼の大学の式典にまつわる衝撃的なニュースを目にした。あのギャンブル狂いの父親が式典に押しかけ、大暴れして、会場をめちゃくちゃにしたのだ。悠真も父親と話し合おうとした際に殴られ、入院していた。動画の中で、彼の父親は鬼のような形相で、警察に連行されながらもわめき続けていた。「俺はこいつの親父だぞ!自分の息子をしつけて何が悪い!他人が口出しするんじゃねえ!悠真、このクソガキ!出世した途端、恩を忘れて、実の親父を見捨てるのか!」ニュースを見終えた紗季は、吐き捨てた。「

  • 山も海も越えたのに、愛は届かなかった   第10話

    その日の夜、悠真はこちらへ戻ってきた。ちょうど私は、専門の片づけ業者を呼び、家の中から彼に関わる物をすべて片づけてもらっていた。玄関に立った彼は、自分の物が少しずつ運び出されていくのを、呆然と見つめていた。「美緒、何してるの?引っ越すの?」私は腕を組み、雑多な物の詰まった段ボールを外へ運ぶよう、作業員に指示した。「見れば分かるでしょう。家のゴミを片づけてるの。欲しければ、外に出て左にあるゴミ置き場から拾ってきたら?中古で売るのさえ、汚らわしくて嫌なのよ」彼は深く息を吸い、黙って玄関に立ち尽くした。リビングの段ボールが全部運び出されて、ようやく彼の立つ場所もできた。「美緒、もう一度、大学のある街へ来てくれないかな」「何?」4時間も玄関に立っていて、ようやく口を開いたかと思えば、唐突にそんなことを言いだした。彼は指をぎゅっと握り込んだ。緊張した時の癖だった。「昨日の店でのことが、どこからか広まったみたいなんだ。今、大学中であの子が恥知らずの浮気相手だって言われてるんだ」私は冷たく笑った。「間違ってないでしょう?違うの?まさか、私にあっちへ行って、彼女の誤解を解けなんて言わないよね」悠真の沈黙が、すべてを物語っていた。「お断りよ。悠真、別れるってどういうことか、分かってる?もう私の家に立ち入る資格もないし、私に何かを要求する資格なんて、なおさらないってことよ」引き止めるために追いかけてきたのだと思っていた。昔みたいに、頭を下げてすがるのかもしれない。それができなくても、せめて自分を正当化する言い訳くらいはするのだろうと思っていた。けれど悠真は、そのどれもせず、莉奈のために頼み込むことを選んだ。私が断ると、彼の目つきが冷たくなった。声もぞっとするほど冷え切っていた。「美緒、いつからそんなに冷たい人間になったんだよ。都会に生まれて、何不自由なく育ってきたじゃないか。浮気相手だったのは自分だってことにしてくれたって、順風満帆な人生に何の影響もないだろ。でも、あの子は違う。恵まれない家に生まれて、ここまで1人で頑張ってきたんだ。美緒の何気ない一言で、あの子の将来が潰れるかもしれないんだぞ。美緒、よくそんなひどいことができるな」昨日、飛行機の中で、涙はもう枯れたと思っ

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  • 山も海も越えたのに、愛は届かなかった   第8話

    「何も言えないのね。認めるのが怖いんでしょう」私は冷たく笑うと、莉奈を見据えた。「それと、あなた。着ている服も、使っている物も、口に入れる食べ物さえ、全部私のお金で買ってるのよ。よくそんな立場で、私を責めたり、見下したりできるわね」彼女の顔に怒りが浮かんだ。私の笑みは、ますます皮肉なものになった。「まさか、悠真1人で、自分とあなたの生活を賄えると思ってた?私は援助する立場として、高校3年から7年間、彼に何百万円もつぎ込んできたの。あなたはどういう立場で、何の権利があって、私に文句を言うの?恋人としてだって、私は彼だけを見てきた。一度だって、他の人に心が揺れたことなんてない。これだけ証拠がそろってるのに、悠真、よく私に信じてなんて言えるわね」莉奈は怒りで顔を真っ赤にし、バッグと上着を脱ぎ捨てるように床へ投げた。「ちょっとお金があるからって、偉そうにしないで!こんなのいらない。今返すから!」私は腕を組み、薄く笑って彼女の顔を見つめた。「そこまで言うなら、悠真に買ってもらった服、全部返したら?自分では、そんなにいい服は買えないでしょう」見れば分かる。服だけでも、合わせて十数万円はする。後ろのスーツケースまで、有名な芸能人が使っているのと同じものだった。家からの仕送りも望めず、大学院生としてのわずかな収入しかない彼女が、自力で買えるはずはなかった。彼女は恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、意地を張り、むしろ勢いよく服を脱ぎ始めた。でも、私は悠真ではない。彼女を見て、かわいそうだと助けてやる気にはなれなかった。最後のインナー1枚になったところで、莉奈の手が止まった。下唇をきつくかみ、涙だけはこぼすまいとしていた。それでも、震える手と背中が、その怖さを物語っていた。「もうやめろ!やめろって言ってるだろ!」悠真は上着を脱いで彼女にかけ、体をすっぽり包んだ。「桜井美緒、怒るなら俺に怒れよ。莉奈は悪くない」私は冷たく彼を一瞥し、思いきりその頬を引っぱたいた。「あなたも同じよ。服を返してもらおうかしら。あなただけ許すなんて言った?」悠真の顔が横を向いた。その顔は、血がにじみそうなほど真っ赤だった。長い沈黙のあと、彼はこわばった顔を戻し、私を責めた。「美緒、いつからそんなに人

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