All Chapters of 片桐先生、離婚ならメールで伝えたはずです: Chapter 11 - Chapter 20

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第11話

星奈はレストランを出ようとしたが、京一が、他の二人とレストランにいるみんなの目の前で、星奈のほうへ歩いてきて、親子二人を元の席に座らせた。彼は微かに笑みを浮かべて、話をしていた二人に言った。「すみませんが、まだ食事の途中だったので、後でまた話の続きをしましょう」するとその二人は、その場の空気を読んで、立ち上がり去っていった。星奈は申し訳なく思い、言った。 「京一さん、お話の邪魔をしてしまって」しかし、京一はその言葉を否定した。「いや、食事中に、邪魔をしたのは彼らのほうだよ」星奈は明らかに実際はそうではないと分かっていた。食事を終えると、京一は星奈親子を先に部屋に戻らせ、彼はさっきの二人のテーブルに行った。そして三人はすぐに会話に熱中しはじめた。――峯崎では、蒼士が星奈に連絡が取れず、焦っているところだった。それで、彼は涼名川市付近に住んでいる友人に連絡し、コネを使って星奈と義母に何かあったのではないか、調べてもらった。二人が無事なのを確認すると、彼はホッと胸を撫でおろした。仕事が終わって片桐家に帰ると、食事もせずに、まっすぐに二階へあがった。彼はひたすら電話をかけ続けた。あらゆるコネをかき集めて、星奈と義母の行方を追った。蒼士の祖母である片桐信子(かたぎり のぶこ)は彼を呼んだ。「蒼士、ご飯にいらっしゃい。今日、家政婦さんがあなたの好きなビーフシチューを作ってくれたのよ」そう声をかけても、蒼士は下におりてこなかった。祖父の稔は七十六歳の高齢だ。すでに引退していて、以前は医療機関のお偉いさんだった。最近、大病を患い、体調は良くない。稔は心にある疑問を口にした。「蒼士はどうしてこっちに戻ってきたんだ?星奈さんは最近見ないけど、どうした?」食卓に座る片桐家の面々は、次々と箸の動きを止めた。麻衣子は信子と目を合わせた。麻衣子は答えた。「お義父様、星奈さんはお母様と一緒に旅行に行っているんです。あと数日したら戻る予定です」「そうだったのか」稔は頷いた。信子は彼に茶碗蒸しのお椀を差し出した。稔は大輔とは親友であり、性格が似ているため、彼は星奈という孫の嫁のことは、まずまず認めていた。蒼士はこの時、数十回と星奈から着信拒否された画面を見つめていた。彼の表
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第12話

直樹は何も言わず黙っていた。麻衣子は言った。「おじい様はまだ何もご存じないわ。真帆さんも戻ってきて蒼士と結婚する気があるのに、星奈さんのことなんてもうどうでもいいのよ。ほら、あなたからおじい様に星奈さんにはもう連絡しないように伝えてちょうだい」「私は何も言わんぞ」「じゃあ、あなたは孫の顔が見られなくても構わないというのね?片桐家の医者の家系も、蒼士の代で終わりね?家の存続がかかっているというのに、あなたはどうでもいいって言うわけ?」直樹は言い争う気はなかった。「はあ、もういい、寝ましょう」麻衣子はイライラしながら布団を引っ張った。「あなた達、片桐家の男はみんな良い人なのね。悪者を演じるのはいっつも私たち」直樹は電気を消して目を閉じ、麻衣子に構うことなく横になった。麻衣子は一人、暗い部屋の中で悶々としていた。星奈がさっさと息子と離婚しないと、彼女はその分安心して眠ることができないのだった。――激しい雨は勢いを弱めることはなく、各地から涼名川に支援物資が送られてきていた。陽彩は星奈と祐実のことを心配していたが、星奈から五つ星ホテルのスイートルームの写真が送られてきたので安心し、逆に羨ましがっていた。陽彩はメッセージを送った。【ねえ、榊さんって、実際、どんな感じなの?】星奈は少し考えて返信した。【とっても紳士な人だよ】【旦那さんだって、女性の憧れの的なんだから、榊さんの虜にならないようにね!】星奈は苦笑いするように口角を上げた。確かに蒼士は素敵な人だ。でも、残念なことに、そもそも彼は他の女のものだった。陽彩は星奈と、大学の同級生で、大輔が指導を担当していた学生だ。卒業してから、陽彩は峯崎税関検疫職員として働いている。スマホを置き、星奈は母親をホテルのジムに連れていき、少しの間軽く運動した。そのフロアには子供用の遊戯施設もあり、祐実は興奮して、星奈を引っ張り、子供たちが遊んでいる様子を見に行った。「星奈、帰ったら、蒼士さんとの子供を作りなさい。ほら、見て、子供たちとっても可愛いわよ」その言葉に星奈は胸が苦しくなった。その母親の願いは、一生叶えることはできない。母親もこうやって子供の催促をするくらいだ。実際、考えてみれば、片桐家が子供の産めない自分にさっさと離婚しろ
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第13話

星奈は一切名残惜しい様子もなく、スマホを耳から離した。しかし、部屋に戻ってスマホの通知を見ると、銀行カードに百万円の入金があった。彼女はその百万をまた彼の口座に振込みなおした。蒼士は自分のもとにまた戻ってきた百万の通知を見て、冷ややかな目つきに変わった。まったくもって面白くない。星奈は母親を連れているというのに、自分に頼らないで何ができる?彼女自身でどうにかするというのか?彼は心の中で、今に見ていろと思った。今はああやって強がっているが、金に困った時にやっと思い知ることだろう。――蒼士はさっき、希少疾患について他科医師とコンサルテーションを実践したところだった。彼がその病の担当医師だ。昇平は歩きながら彼に尋ねた。「奥さんは母親と涼名川に行っているって?こんな豪雨じゃ、あそこから動けないだろ?」蒼士はただ一言「ああ」とだけ返事した。昇平は笑って、ひやかすように言った。「真帆さんが帰ってきたから、彼女、お前の隣の席を空けたってわけだな?」蒼士は昇平のほうへ顔を向けた。その端正な顔は、周りを凍り付かせそうなほどに冷ややかだった。「患者はまだ五歳。腫瘤は大きいもので十センチ五ミリ。大脳皮質から脳幹までを圧迫している、開頭手術から接合までに、麻酔は十四時間に及ぶだろう。先輩、こんな大掛かりな手術を前にして、そんな冗談を言っている余裕があるんですね?」蒼士は彼に白目をむいて、まっすぐ前方へ歩いていった。昇平はまさか蒼士からそのような返しをされるとは思ってもいなかった。「蒼士」この時、真帆が後ろからやって来て、蒼士の名前を呼んだ。昇平は今しがた蒼士からあのように返されたというのに、二人を見ると、またからかう言葉を口に出した。「蒼士、真帆さんがお前んちに引っ越してからさ、二人とも毎日目の下にクマなんて作っちゃってよぉ。教えてくれよ、一体二人で夜寝ないで、何やってんだ?」蒼士は不機嫌そうに顔を暗くさせた。昇平はこれ以上、刺激するような言葉はやめて、降参した。「分かった、分かったってば、もう聞かないって。じゃ、お二人さん、話をどうぞ」彼はそう言うと、空気を読んで二人きりにさせた。昇平が去ると、真帆は魅力的な瞳で蒼士を見つめた。彼女は、最近の気まずさがなかったみたいに、平気な素
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第14話

蒼士は真帆の誘いを断わることはなかったが、まるで言い訳でもしているかのように、淡々と言った。「おじい様の体調が良くないから、暫くは実家にいないといけないんだ」真帆は指で、彼の胸元を突っついた。「だから、あなたの実家のほうに行くの。おじい様がご病気だと聞いて、お見舞いに行かないわけにいかないでしょう?蒼士、あなたって本当に心が狭いのね」蒼士は一歩さがり、それに応じた。「分かった」……仕事が終わり、二人はペアで一緒に蒼士の車に乗った。その時、昇平がクラクションを鳴らした。「よ!誰もが憧れるお似合いカップルのお二人さん。真帆さん、いい事教えてあげるよ。蒼士の車、助手席は君以外に女性は誰も座ったことがないんだぞ」真帆は蒼士を見つめ、その言葉に嬉しそうに笑った。彼女はいわゆるクールビューティで、プライドも高く、周りを寄せつけない雰囲気を持っている。しかし、蒼士の傍だと、自然と心から可愛らしさを見せる。昇平はこのお似合いの二人が一緒にいるのを見て、安心した。蒼士が星奈と結婚して、どう見ても、蒼士に星奈はお似合いでないと彼は思っていた。真帆は途中で手土産を買って行くと言い、寄り道させた。そして、車は片桐家の豪華な屋敷の前に着いた。蒼士は車をガレージに駐車しにいった。真帆が家に入ると、すぐに麻衣子が出迎えて、手を握りしめ親しげに話しかけた。「あなたったら、海外に行くって言っていなくなっちゃって。峯崎でどれほどの人があなたの帰りを待っていたか分かっていたでしょう。まったくもう!」そう言いながら、軽く真帆の額を突いた。真帆は申し訳なさそうに笑った。「麻衣子さんには申し訳なく思ってるんです。ほら、もう帰ってきたでしょう?どうして帰ってきたと思います?大好きな麻衣子先生に会いたくて会いたくて、たまらなかったからですよ」「そんなに会いたかったのなら、もっと早く帰ってこればよかったのに。あなたがA国に行ってから、お母様が楽しそうにしているのを見たことがなかったのよ。本当にあなたったら」麻衣子と真帆の母親は大学時代の同級生であり、同僚だった。真帆は麻衣子が母親の話題を出したので、さっきまでの笑顔が少しかげった。その表情を見るに、母親とは少し疎遠のようだ。「今帰ってくるのが、一番いいタイミングで
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第15話

「大輔さんの話では、祐実さんがあっちで体調を崩して、数日入院していたらしいじゃないか」「体調を崩して入院した?」蒼士はその言葉を聞き、眉間に皺を寄せた。稔は疑問に思った。「星奈さんから聞いてないのか?今連絡して、二人に聞いてみようか」麻衣子はこのような興醒めする話題を避けたいと思った。それに、星奈が蒼士に伝えなかったのも、賢明な判断だとすら思った。「お義父さん、今は食事中ですよ。それに、真帆さんも、綾音のご友人もいるというのに」綾音も不機嫌そうに口を尖らせた。「そうだよ、おじいちゃん、今、彼女のこと話題にしないで?」稔にしてみれば、そのような言葉は、他人を大事にして、身内を軽んじるような、おかしいものだ。彼は不機嫌になり、威厳ある声になった。「ここにいるのは私よりも年下ばかりだろう、私が誰かの顔色をうかがわなければならんのか?」長年人の上に立ってきた彼は、自然と人を圧倒する威厳を放つ。これにより、真帆の置かれた状況はかなり気まずいものへと変わった。麻衣子はまた顔色を変えた。「お義父さん、そういう意味ではありません」直樹も諫めようとした。「父さん、誰も父さん相手に失礼な真似はできないよ」蒼士はスマホを取り出して、星奈にビデオ電話をかけ、立ち上がって稔の傍に行った。この時、星奈は母親と一緒に果物を食べながらテレビを見ていた。ビデオ電話がかかってきたのを見ると、おかしいと思い、直接切った。蒼士は彼女のメッセージを送った。【おじい様が、君に用があるって】星奈はそれを見ると、スマホを手にとって、リビングの隅のほうへ行き、母親に会話を聞かれないようにした。彼女が電話に出ると、画面には稔と蒼士の偉そうな冷たい顔が映った。蒼士はA国へ行く前はずっと夜勤続きで、二人が最後に顔を合わせたのはベッドの上だった。数えてみると、すでに一カ月会っていない。「おじい様、お久しぶりです」彼女は礼節をもって、挨拶をした。稔は、星奈が元気そうにしている姿を見て、ようやく安心した。彼の古い友人である榊大輔の教え子が、片桐家に嫁いできた。だから、このきちんと務めを果たしている嫁に良くしてあげるべきだ。「星奈さん、君とお母様は大丈夫なのかな?祐実さんは体調を崩したと聞いたのだが」「元気です
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第16話

星奈は黙っていた。蒼士と真帆がかつて恋人だったこと、そして今では同居しているという事実を受け入れてはいるものの、実際それを耳にしてしまうと、情けなくなり、心がぎゅっと締め付けられる思いだった。喉の奥が詰まったような息苦しさを感じる。真帆は言った。「何か用があるなら、私が伝言しておきますよ」「いえ、結構です。失礼します」星奈が電話を切ってすぐ、あちらでは蒼士が浴室からちょうど出てきた。「シャワーヘッドなら直しておいたよ。誰からの電話?」真帆がスマホを扱う暇もなく、蒼士が近寄ってきて彼女の手からスマホを取りあげた。画面を見てみると、星奈からの着信だった。彼は、着信記録の名前を見ると、眉をひそめて真帆に尋ねた。「なんて?」真帆は冷ややかに肩をすくめた。「聞いたけど、教えてくれなかったわ」蒼士は鍵を手に出ていった。「蒼士」という真帆の声はドアを閉める音でかき消された。蒼士は外に出ると車に乗り込み、細長い指でハンドルをトントンと叩いていた。エンジンをつける様子はない。彼はスマホを手に、星奈に電話ではなく、ビデオ電話をかけた。今回、星奈は一切のためらいもなくすぐに出た。手のひらサイズほどの小顔が画面に現れると、どうも少し痩せたように見えた。顎はスッと細く、綺麗な目も前より大きく見える。彼は画面に映る彼女をじっと見つめたまま黙っていた。車の中はライトをつけておらず、真っ暗だった。星奈は、彼が風呂に入り、もう寝るのだと思っていた。ただ、彼の感情の乏しい冷たい目を見つめた。そして彼女のほうから口を開いた。「手短に話すわね」蒼士はまだ声を出さずに、ただただ彼女を見つめていた。星奈が言った。「おじい様の顔色からすると、カルシウムの摂りすぎなんじゃない?研究開発している時によくこういう状況があったの。お年寄りはあまり摂りすぎてはダメなのよ。腎臓機能と、心血管に負担がかかっちゃうから」「帰って聞いてみる。決められた量を服用しているはずだ。もしかしたら、おじい様にはあまり多く必要ない成分なのかもしれない」「それから、彼の眼球だけど、ちょっと白目が青っぽくなってた、鉄分が不足しているのよ。副作用の軽い飲み薬を出してあげて」「ああ」彼の返事は、疲労が溜まっているような、気だる
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第17話

蒼士は苛立ち、爽やかな整った顔をさらに冷たくこわばらせていた。彼はそのまま車の中にいて、唇を引き結び、胸を激しく上下させていた。彼は少し考えてため息をつくと、星奈が泊まっているホテルに電話をかけた。フロントの可愛らしい声が聞こえてきた。「はい、ご宿泊のご予約でしょうか?」蒼士は星奈の名前を出した。「引き続き、宿泊する手続きをお願いします。支払いはこちらで」しかし、フロントは宿泊情報を確認した後、彼が思いもしなかった言葉を出した。「お客様、こちらのお部屋にお泊りなのは会員の方ですので、お手続きは不要でございます」「会員?」その言葉に蒼士は驚き、少しずつ眉間に皺を寄せていった。倹約家の星奈の性格からして、ただ旅行で訪れた五つ星ホテルの会員になるとは思えない。彼は怒りに顔を歪めて相手に要求した。「その宿泊客の宿泊状況を詳しく教えてください」フロントは答えた。「申し訳ございません、お客様、それは宿泊のお客様の個人情報ですので、申し上げるわけにはまいりません」電話を切った後、蒼士は詳しく問いただすために、星奈に連絡した。もちろん、星奈はそんな彼を無視した。明日重要な手術を控えている。自分の職務を全うするため、それに人の命がかかっているため、蒼士は不快感と疑惑の心をどうにか抑えて、車で帰った。二人はこのようにして、冷戦状態に入った。二人の認識が違っているため今のような状況に陥っているのだから「冷戦状態」という言葉を使うのは、少しおかしくも思えるが……――夜、祐実はドラマを見ていてテンションが上がっていた。星奈は眠気に抵抗できず、蒼士とのやり取りで心が乱されていたこともあり、さっさと部屋に戻って寝てしまった。京一がリビングに出てくると、祐実がソファに倒れて眠ってしまっていた。京一はそっと彼女を叩いて起こそうとした。「おば様、部屋に戻って寝てください。次はこんなに遅くまで起きていてはダメですよ」祐実は目を開けて、うとうとしながら、彼に支えてもらって親子一緒に寝ている寝室に戻った。部屋の中は真っ暗で、うっすらとベッドの上に小さく縮まっている人影が確認できた。京一は祐実を支えたままベッドに行き、ぐっすりと眠りに落ちてしまった星奈を見た。彼は唇を結び、軽く拳を作ると、音
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第18話

星奈は蒼士と離婚するつもりなのか?京一はそのメッセージを見つめ、目を細めた。――蒼士はその夜一睡もできなかった。彼は峯崎の医療業界で最も高潔なイケメン医師であり、浮世離れした高嶺の花。しかし、そんな彼でも思いを巡らせることはあるらしい。蒼士は大輔の近況を気遣っているという口実で電話をかけ、間接的に、京一と星奈がどうして涼名川で会っているのか尋ねた。大輔の答えは、京一が言っていた言葉とまったく同じだった。榊家は星奈に対して昔から良くしてくれていた。結婚式当日、京一は彼女の家族として出席し、バージンロードで付き添う役目を果たし、その手で蒼士に星奈を託した。蒼士は身を突き刺すような寒風の如く、冷たい雰囲気を放ちながら歩いていた。看護師が小声で尋ねた。「片桐先生、今日はなんだか心ここにあらずな様子ですね。ペンをナースステーションに忘れていっていましたよ」昇平は言った。「君たちの片桐先生は、最近更年期に悩まされているんだよ」――星奈が目を覚ました時、京一から昨夜蒼士から電話があったと伝えられた。星奈は「そうですか」と一言返した。昨夜、スマホはローテーブルに置いたままで、寝室に持っていき、充電するのを忘れていた。彼女はスマホを寝室に持っていき、充電しておいて、三人一緒にレストランへ昼食を食べに行った。頭に蒼士の名前が浮かぶだけで、イライラしてしまう。こんなことになるなら、さっさと離婚して、その後母親を遊びに連れ出すべきだった。今の蒼士はまるで何か変な物でも食べたかのように、以前と違って執拗に電話をかけてくる。しかも、ビデオ電話などありえない事だ。それで星奈は何かおかしいと思わずにはいられなかった。彼はスマホを普通に使えたのか、それなら以前はどうしてまったく連絡がつかなかった?あまりに連絡してこないから、星奈は偉大な片桐先生は、ガラケーしか使えない人間だと思っていた。この時の星奈は、京一が自分に注ぐ視線にまったく気づいていなかった。昨夜から今に至るまで、京一の頭には昨夜うっかり見てしまった、あの「離婚」という言葉が頭の中を駆け巡っていた。彼は、向かい側に座る彼女の端正な顔を見つめていた。何も考えずぼうっとしているようにも見えるが、何かを探るような眼差しが、まるで星奈のすべて
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第19話

京一は淡々とした口調で言った。「蒼士、星奈は出たくないとは言わなかったが、その気はないみたいだ」蒼士は軽く笑い声を漏らした。声は穏やかだったが、突き刺すようなとげとげしさを宿していた。「京一さん、俺と星奈は夫婦なんだ。夫婦の間に何も話せないことなんてないだろう?彼女に電話を代わってくれないか?」「だったら、どうしてお前がかけた電話に彼女は出ない?」京一は蒼士の痛い所を付いた。電話の向こうの息遣いが荒くなると、京一は弟を戒めるかのようにこう言った。「蒼士、お前、星奈と喧嘩でもしたのか?それなら暫く互いに距離を作って冷静になってみたらどうだ?こっちの豪雨が落ち着いたら、必ず親子二人を峯崎に送り届けるから」彼は一瞬言葉を途切れさせて、また続けた。「そうじゃないと、お前たちは俺を困らせるんだよ」蒼士は彼らから遠く峯崎市にいて、どうすることもできない。ただ冷たいその目を苛立たしげに細めるしかなかった。そうだ、家庭内の喧嘩を部外者が見れば、困るに決まっている。だが、妻である星奈はどうして他人の前で、少しも夫の顔を立ててくれないのか。一緒にいる男が、京一だからなのか?「分かったよ、京一さん。星奈とお義母さんのこと頼んだよ」京一は優しく言った。「任せて、それに俺はただお前のメンツを考慮しているからじゃない。忘れるな、俺と星奈はお前よりも早く知り合ったんだぞ」「……」蒼士は一切の感情を顔に浮かべなかった。蒼士が電話を切ろうとしたら、突然、京一が軽い口調で尋ねてきた。「ところで、甲斐田さんが帰ってきたと聞いたけど?」「うん、そうだよ」それ以上話すことなく、通話は終わった。京一がレストランに戻ると、星奈が彼に謝罪した。「すみません、ご迷惑かけてしまって。後で部屋に戻ったら、彼に電話します」「気にしないで、俺もあいつとちょっと別件で話があったから」星奈はただ素直に頷いておくしかなかった。昼食のメニューはどれも美味しいものばかりだった。しかし、彼女は食欲がなかった。実際、母親が重い病気を患ったことで、星奈は結婚など期待していなかった。蒼士と結婚することになったのも、ただの偶然だった。星奈が本当に大事に思っているのは母親で、蒼士はそんな母親の手術ができる。結婚する前に
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第20話

客人は京一の返事に、すぐに顔色を変えた。彼はここには投資を得るために来ていた。京一が彼のプロジェクトにかなり興味を示していたからだ。それがまさか、さっきの余計な一言で、重要顧客である京一を怒らせてしまった。彼は自分を殴ってやりたくてたまらなかった。そしてすぐに謝罪した。「申し訳ございません、榊社長。それに、おば様、本当に失礼なことを言ってしまい、すみませんでした。私は目がどうかしているらしい」この時、部屋の空気は張りつめた。星奈は京一の仕事の邪魔をしたくなかった。それで急いで、母親を寝室に連れていこうとした。しかし、京一に腕を掴まれてしまった。「おば様にはこのままリビングでゆっくりくつろいでもらってくれ。俺たちは奥の部屋で話すから」そう言い終わると、彼は客を連れて、あちらの部屋に入っていった。客は目の前にいるこの若くて綺麗な女性を見ると、さっき「家政婦」と言ってしまった相手が一体誰なのか、ようやく悟った。それで、京一との商談の間、彼はずっと慎重に言葉を選びながら話した。祐実はリビングでこっそりと尋ねた。「ねえ、星奈、さっきの人、私のことを家政婦と言っていたわね。もしかして、京一さんに恥をかかせちゃったかしら?」星奈は愛しさを込めて母親を抱きしめると、小声で言った。「そんなわけないじゃない。彼はとってもすごい人なのよ。彼に恥をかかせることができる人間なんてこの世にいないのよ」すると祐実は安心した。「それならよかったわ」――蒼士のほうは、難易度の高い手術を成功させ、医学界に大きな衝撃を与えていた。女の子の家族は、そんな彼に心から感謝の意を表した。難病患者の手術成功とあって、各テレビ局がこぞって彼の取材に訪れた。蒼士は他にも忙しく、その取材を断わるつもりでいた。しかし結局、院長の鶴の一声で、彼はその取材に応じるしかなかった。そして翌日には峯崎テレビの病院特集番組のドキュメンタリーに出演することになった。星奈はテレビ画面に始終彼と一緒に映っている女性を見た。その目立った様子は、一度も会ったことがなかったとしても、一目で名前が分かるだろう。甲斐田真帆。以前、綾音とツーショットしていた時よりも、クールで妖艶な雰囲気を出している。そしてテレビ局の高画質なカメラには、さら
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