All Chapters of 陰キャと紹介されたら淫キャだった件。: Chapter 11 - Chapter 20

25 Chapters

11話 謝るつもりだったのに

 某掲示板に書いた悩みが、まさか室町くんの目に入るだなんて、想像もしなかった。 私は羞恥心で、本気で死にそうになった。顔から火が出るどころか、今すぐベッドのシーツに潜り込んで、誰にも見られないように隠れたい。 真っ赤になって顔を覆い隠してる私を前に、室町くんは弁明を続けた。「君が初めてだって美智が言っていたから、昨日は本当に、最初からセックスする気なんてなかったんだ。なのに、途中で我を忘れてしまって……しかも、しまいには、中に出しちゃって、本当にごめんなさい」「……」 掌の中で、私はゆっくりと目を開いた。『セックスする気なんてなかった』 という言葉が、私の胸にチクリと刺さる。(する気がなかったのに、させてしまった……) 彼の理性が飛んでしまったのは、他でもない、私の油断が原因だったんじゃないか。私が彼の頭を拭いて、バスローブをはだけさせて、まるで誘惑するような真似をしてしまったから――。(本当はしたくなかったのに、無理をさせて、困らせちゃったのかな。なのに私は、あんなに気持ちよくなって……) そもそも、初めてだったのに、気持ちよかった私がおかしいんだ。 室町くんのテクニックがいいとか、舌ピアスとか、下半身に埋め込まれたパールなんて関係ない。 彼が欲望のままに襲ってしまったのは、私が隙を見せてしまったから。 真面目な彼を自分が狂わせてしまったのだという申し訳なさで、胸が潰れそう。 美智が教えてくれた、彼の本当の姿。 女の子を開発するのが好きで、セックスが好きで、口には舌ピアス、下半身にはパールまで仕込んでいる男。 あんなものを体に入れているくらいなんだから。 きっと今までの女の子たちも、そういうことに慣れた人ばかりだったんだと思う。(まさか処女を紹介されるなんて、室町くん自身、夢にも思っていなかったはずなのに……) それなのに、紹介された私は年齢=彼氏いない歴で、男の人への免疫なんてまるでない処女。あろうことかホテルの部屋で胸元をはだけさせるような真似をした。美智から私の境遇を聞いて「ちゃんとした大人」として対応しなきゃと義務感を持ってくれていたからこそ、あの居酒屋の路上でも、彼は「誠実に向き合おう」と思って連絡先を聞いてくれたのだろう。「もし、もしものことがあったら、俺が一生責任取るから」 床に膝をつき、真っ直ぐに私を見
last updateLast Updated : 2026-10-25
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12話 一人じゃない朝

「……」 私の必死の抗議を、室町くんは無言で受け流した。 そして、わざと、本当にわざとらしく、今度はさらに指先に力を込めて、私の最も敏感な突起を意地悪に抓るように弾いた。「あ、あんっ……! や、やぁ……っ!」 我慢できずに大きな声が漏れてしまう。わざとだ、絶対わざとだ。この人、私が壁の薄さを気にして声を堪えているのを知っていて、楽しんで無理やり啼かせている。 何が何やら混乱しきっている私を組み敷いたまま、室町くんは手元でカサリ、と小さな音を立てた。昨日とは違う、避妊具を身につける生々しい動作。 そして、開いた私の中心に、体重をかけるようにしてゆっくりと挿入してきた。「あ、……ん、ぅ……っ」 彼は私の体の反応を確かめるように、腰の角度を緻密に変えながら、ゆっくり、ゆっくりと、私の一番弱いところだけを集中的に突いてくる。 動きが丁寧だから、私のナカにある彼の形や大きさが、恐ろしいほど鮮明に伝わってくる。皮膚の下に仕込まれたパールのゴツゴツとした丸いモノが、私の敏感な粘膜をじんわりと、的確に押し擦っていく。「あ、あ、そこ、へん……っ!」 もう、声を我慢することなんてできなかった。 激しくないのに、一番弱い場所を抉られ続けるせいで、腰から全身にかけて快感が巡っていく。 私の必死の喘ぎ声と、彼が腰を動かすたびに響く濡れた音が、薄い壁の向こうまで届いてしまうんじゃないかと焦るのに、我慢できない。「むろまちくん、むろまちくん、ど、どうしよっ……っ!」 助けを呼ぶように彼の名前を呼んだら、その細い指先を私の手の甲、そして指の隙間へと滑り込ませて、深く指を絡めてきた。「俺のことだけ見ていたらいいよ」 低く、甘く、鼓膜を優しく揺さぶる声音。 彼はそう囁きながら、繋いだ手にぐっと力を込め、私のナカにあるパールの突起をさらにエグい角度へと傾けた。内壁の一番柔らかい場所を擦り上げる。「あ、あんっ……! ん、んんーーーっ!」 声を抑えようと咄嗟に上を向いた私の顎を、室町くんは空いている方の手で優しく、でも逃げられない強さで固定した。「む、ろまちくんっ、もう、だめ」 快感の波が限界を突破して、私の未熟な内壁が、彼をきゅうきゅうと締め付けた。 室町くんもまた、限界を迎えたように低く呻いた。 彼が最奥のさらに先を、避妊具越しに深く、優しく押し潰すよう
last updateLast Updated : 2026-10-25
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13話 私以外の誰かにも

 ※ ※ ※ 夜勤帰りに、お隣さんが家を出るタイミングと被る時がある。いつも軽く挨拶をする程度だけど、ここ数日、なんだかその目が気になって仕方ない。正直、自意識過剰だと思う。思うけど、あの声を聞かれたかもと思うと、死にたくなるほど恥ずかしくて堪らなかった。 着替えを終えて携帯を見ると、室町くんから「会いたい」とメッセージ。『家に行っていい?』(家に、ということは、するよね……?) 声を我慢できる自信がない。 あの薄い壁の部屋で、また彼に触れられたら、今度こそ近所迷惑な声が漏れてしまう。何が何だか分からず、与えられる快感に身を投じるしかなくなってしまう。 なんと返そう、と思って携帯を睨みつけた。でも、画面を眺めているだけで、返事は思い浮かばない。 私はこのまま病院の外へ出た。 ここで悩んでいても埒が明かない。私は一度諦めて、携帯をバッグの奥に仕舞い込んだ。(……電車の中で、落ち着いて返事しよ) 夜勤明けの重い頭でそんなことを考えながら、病院の駐車場をトボトボと横切っていた、その時だった。 静かな朝の空気に、少し遠慮がちなクラクションが短く鳴った。「え……?」 驚いて音のした方へと視線を向けると、そこには、室町くんの車が停まっていた。 運転席の窓がするりと下りて、身を乗り出すようにしてこちらを見つめる、癖っ毛の頭が覗く。丸い眼鏡の奥の澄んだ瞳が、私を見つけて嬉しそうに細められた。「おはよう」 室町くんは眼鏡のブリッジを人差し指でそっと押し上げると、口元に白い八重歯を覗かせて、はにかむように笑った。「会いたくて、来ちゃった」 その直球過ぎる言葉の破壊力に、私の心臓はドキンと大きく跳ね上がって、一瞬で顔が熱くなっていくのが分かった。「乗って」 促されるまま、私は緊張で体を強張らせながら助手席のドアを開けて乗り込んだ。 すると、細くて大きな手がすっと伸びてくる。至近距離に迫る彼の顔に息を詰めている間に、かちっと当然のようにシートベルトを締めてくれた。 これだけで心臓がうるさいのに、彼は運転席に戻る直前、私の膝の上にぽんと大きな掌を置いた。 そのまま、あまりにも自然な動作で、薄いズボン越しに優しく撫でてくる。服の上からでもはっきりと伝わる彼の体温に、私は頭から火が出そうになって、慌てて両膝をきゅっと閉じた。 車は外の喧騒を一切
last updateLast Updated : 2026-10-25
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14話 私だけじゃないのなら

 エッチ好きが集まるマッチングアプリ、開発好き、某掲示板の「相当遊んでる」という回答、陰キャじゃなくて淫キャ、でもマメな性格、浮気しない、責任は取るという誠実さ。  私以外の誰かも、この広いソファーの上で室町くんにトロトロに開発されて、甘い声を上げていたのだろうか。そう思ってすぐに、胸の奥が張り裂けそうに痛くなった。  なんで、こんな気持ちになるのか分からなかった。分からないまま、気づいたら私は両腕を彼の背中へと回して、ぎゅっと引き寄せた。 「可愛いね」  彼は私の服を驚くほど器用に、流れるような手つきで脱がせていく。眩しい照明の下で、私の全身が剥き出しにされた。  室町くんは私の体の隅々にまで、慈しむように、でも確実に狂わせるような深いキスを落としていく。  そのまま、黒髪が私の開かれた脚の間へと沈み、下半身を丹念に舐め上げる。舌ピアスでクリトリスをコリコリと抉られ、私はソファーの座面に後頭部を深く押し付けるようにして、体を弓なりに跳ね上げた。  彼の指がナカへと這入り込んできて、手首の滑らかな旋回だけで、私の弱い場所に的確に当ててくる。私はもう声を出さずにはいられなかった。 「あ、あ、やぁ、……よ、よごしちゃう……っ、ソファー、よごれちゃう……っ!」  自分の蜜が溢れて、高級なソファーを汚してしまう恐怖で泣きそうになる。けれど、室町くんは私の顔を見つめ、笑みを浮かべたまま囁いた。 「気にしないで。全部、俺がきれいにするから」  そう言いながら、彼の指がさらに深く、内壁をねっとりと擦り上げる。  指先から伝わる快感の強さに、頭の芯が急激に痺れていく。まだ本格的な結合もしていないのに、私の足先は本能的に快感を逃がそうとして、シーツのないレザーの端に向けてびくびくと小さく、突っ張るようにして伸びてしまった。  そんな私の限界を察したように、手元でカサリ、とゴムの個装を切る音が耳に届いた。  私の目を見つめたまま薄いゴムを装着する彼から、目を逸らせない。  室町くんは私の両脚をさらに大きく開くと、私のナカへ、その巨大な熱をゆっくりと沈めていく。 「ん、んんーーーぁっ……!!」  やがて、奥まで辿り着いて彼と結合した。  室町くんは私の腰を両手で掴むと、そのまま体を隙間なく密着させた状態で、ゆっくりと、力強くピストン運動を始めた。
last updateLast Updated : 2026-10-25
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15話 あの人、だれ?

 ※ ※ ※ それから、私は一度も自分のアパートに帰っていない。  あの日以来、なし崩し的に室町くんの広いマンションで一緒に過ごすようになっていた。私が夜勤や日勤の仕事を終えるタイミングに合わせて、彼は必ずあの黒い車で病院の前まで迎えにやってくる。  その徹底したマメさのおかげで、当然のように職場の人たちには全てが知れ渡っていた。 「お疲れさまー。彼氏、今日も外で待ってるよー」 「ひゅーひゅー! 日勤のときも夜勤のときも毎回迎えにくるなんて、本当に熱いわねー!」  整形外科の病棟で引き継ぎをしている最中、先輩や同僚の看護師たちからニヤニヤと揶揄われる。 「や、止めてください、ただの知り合いですから……っ」  私は耳まで真っ赤にしながら、逃げるようにナースステーションを飛び出して更衣室へと戻った。白衣から私服へと着替えながらも、気恥ずかしさでずっと顔の火照りが引かない。  バッグを肩にかけ、帰るためにエレベーターに乗り込んだ。  静かに閉まりかけたドアを、外から伸びてきた手が遮る。入ってきたのは、救急外来での当直の仕事を終えたばかりの、男性ドクターの市川先生だった。 「お疲れさま」 「あ、お疲れさまです、市川先生……」  二人きりのエレベーター。どこか面倒なことは避けたそうな気怠げな雰囲気を纏った市川先生は、鏡に映る私をちらりと盗み見ると、ふっと含み笑いをした。 「……なんかさ、最近急に可愛くなったよね」 「えっ?」  あまりにも唐突な言葉に、私は目を丸くした。  この先生は、院内のほとんどの若い看護師に手を出していることで有名な、なかなかの遊び人だ。今まで私のような地味な看護師には目もくれなかったのに、どうして今更そんなことを言ってくるのだろう。 (……まさか、私が処女じゃなくなったから……!? もしかして、体に出てしまっているの……? どこかから、滲み出て……っ)  ……いや、きっとただの軽いお世辞だ。そう自分に言い聞かせる。 「ねえ、今度一緒に飯でもどう?」 「行かないです」  あの先生に巻き込まれるなんて真っ平ごめんだ。私が秒で拒絶すると、エレベーターのドアがチーンと音を立てて一階のロビーで開いた。  ガラス越しに病院のロータリーを見渡すと、いつもの黒い車がハザードランプを点滅させて停まっているのが見えた。
last updateLast Updated : 2026-10-25
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16話 沈黙の行き先

 朝の通勤ラッシュはとっくに終わっている時間帯のせいか、人の気配は一切ない。ただ、ひんやりとしたコンクリートの空間に、他人の車だけが整然と並んでいる。  不気味なほど静まり返ったその場所で、室町くんは車のエンジンを切った。  システムが落ちる微かな音が響き、彼は自分のシートベルトを外すと、こちらに向かってゆっくりと体を寄せてきた。 (あ……、外してくれるんだ……)  さっき彼が留めたシートベルトを、今度は外されるのだとばかり思い込んでいた。だから私は、彼の手が胸元へ伸びてくるのを身構えるように待った。  ――彼の手はシートベルトのバックルには一切伸びてこなかった。  室町くんの大きな掌は、強張っている私の両膝を押さえつけるようにして置かれた。びくとも動かせないほどの強い力で、私の体が助手席に固定される。 「むろ、まちく……っ」  驚いて声を漏らした瞬間には、もう視界が彼の黒髪でいっぱいになっていた。  逃げる隙も与えないまま、室町くんの熱い唇が私の唇を強引に塞ぐ。深いキスの最中、彼が脇のレバーを引いたようで、ガクン、と大きな音を立てて、私の体を乗せた助手席のシートが真後ろへと深く倒された。 「ひゃっ……!?」  視界が激しく揺れ、仰向けになった私の体の上に、室町くんの細くて大きな体躯が覆い被さってくる。 「む、室町くん……っ? んむぅ……ッ!」  驚いて声を上げる間もなく、唇を塞がれ続けた。  いつもなら涙を優しく舐めとってくれるような柔らかい舌が、今日はまるで力ずくで侵略するように、獰猛に蠢いて舌を絡めとってくる。口内にコツンと当たる舌ピアスの感触が、私の理性をガリガリと削っていく。 (やっぱり、怒ってる――っ)  問い質す勇気なんて私にはない。  どれだけ深く唇を重ねられても、私の体をまだガッチリと拘束しているシートベルトの存在だけが、私にここが車内なのだと現実を突きつけてくる。  すると、室町くんは唇をほんの少しだけ離し、私の胸元を縛るその帯へと大きな手を伸ばした。  バチンッ、と激しい音がして、バックルから金具が弾き出される。  ようやく体が自由になった、そう思ったのも束の間だった。 「後ろ移動しようか」  彼はそう低く命令すると、私の服を手荒に引き剥がしながら、私を抱き上げるようにして助手席から後部座席のシート
last updateLast Updated : 2026-10-25
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17話 嬉しいのに、苦しい

 エレベーターに乗せられ、静かに扉が開いた先――辿り着いたのは、煌びやかでどこか淫らな、ラブホテルの一室だった。 「ひゃっ……」  部屋に入るなり、私は広いベッドの上へと仰向けに倒し込まれる。  戸惑う私を見下ろしながら、室町くんは言葉を発さずベルトに手をかけ、手早く自身のズボンを脱ぎ捨てた。  露わになった彼のそこは、すでに信じられないほど張り詰めていて、今すぐにでも熱を吐き出そうとするようにびくびくと激しく脈打っている。その凶悪なモノを目の前にして、息を呑む私に構わず、彼はゴムの袋を開けると、無駄のない動きで装着した。  室町くんはベッドへ上がると、私の服を剥ぎ取って床に投げ捨てた。両脚を掴み、その膝が私の肩につくくらいにまで体を深く折り曲げさせた。腰が浮き、私の全てが曝け出されて上を向かされる。 「あ、むろ、まち……くんっ、それ、体勢、苦し――」  言いかけるよりも早く、上から体重をかけるようにして、彼の巨大な熱が最奥まで挿入された。 「んん――ぁっ……!!」  私の脚は、彼の両肩へと担ぎ上げられるように固定された。二つ折りに畳まれた私のナカを、パールの突起がゴリゴリと抉り上げていく。全ての重みが結合部にのしかかるような、逃げ場のない角度。挿れられたその衝撃だけで頭の芯が弾け飛び、一瞬でイきそうになって体が跳ねる。  けれど、そのまま押さえ込まれ、指先ひとつ動かすことも、快感を逃がすことも許されない。  秘部を無慈悲に自分の目の前に晒される姿勢の羞恥心に、自分の手でそこを隠そうとした。けれど、室町くんはその手をピシャリと退け、私の顔を至近距離からじっと見つめてくる。  結合部分が、薄暗いラブホテルの照明の下で残酷なほど丸見えになっていた。 「隠さないで」  前髪の隙間から覗く彼の澄んだ瞳は、底知れないほど冷静で、けれど艶っぽく歪んでいる。 「ちゃんと見てて。俺が君のナカで、どうなってるか」  射抜くような視線のまま、彼は再び、容赦のない腰づかいで私を深く深く突き上げ始めた。  押し寄せる快感の波に、私の理性はバラバラに吹き飛ばされていく。  脳の芯まで痺れるような熱さに耐えかねて、私は無意識に、せめてこの衝撃を外へ逃がそうと足の爪先をピーンと真っ直ぐに伸ばそうとした。  ――けれど、その瞬間にガシッと強い力で両足首を掴ま
last updateLast Updated : 2026-10-25
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18話 愛されてると、言われても

 ※ ※ ※「今日は飲み過ぎないでね」 「だいじょうぶ!」  数日後の夜勤明け、居酒屋の暖簾をくぐりながら、美智は私に胸を張って見せた。  私たちはカウンター席に並んで座り、それぞれ好みのグラスを傾ける。 「最近、どう?」  ビールジョッキをぐいっとあおりながら美智に訊ねられて、私は近況を語った。 「部署を異動するかも。救急外来になりそう」 「げっ。過酷な部署じゃん。時間、不規則になるんじゃない? 拘束時間も長いしさ」 「うーん。でもいい経験になるし。それに、夜勤増えるから、手当が増えるんだよね」  親指と人差し指できれいな丸を作って、お金のマークを美智に見せる。  そう。室町くんと出会うずっと前から、私はお金を貯めるためにただひたすら働いていた。けれど、不意に手元を見つめながら奇妙な感覚に囚われる。 (……そういえば、私はどうして、お金を貯めようとしていたんだっけ)  天涯孤独な身の上だから、頼れる人が誰もいないから――そんな当たり前の理由のはずなのに、なぜか記憶の輪郭が上手く結べない。  思い出そうと視線を彷徨わせていると、美智にバシッと背中を叩かれた。 「もぉ! お金ばっかり溜め込んでないで、壱成に頼りな! あいつ、腐るほど金持ってるんだから!」 「そんな、頼れないよ……」  私は苦笑する。 「あんたね、男に甘えるのって大事よ。ごろにゃんしてみなさいよ!」  酔っぱらっている美智の勢いに圧されながら、私は前回の二の舞を避けるべく、彼女の手元にあるジョッキを指先でそっと遠くへと押しやった。 「でもね、甘えるだけじゃなくて、駄目な時は駄目っていうの。あいつの欲求にこたえてばかりいたら、本当に体力持たないからね」 「室町くん、優しいけど……」  無理なことを言われたことはない。せいぜい、「足ピンはだめ」と禁止令を出されたくらいで。 「ちょっと、あんたまだ苗字呼びなの!?」 「えっ、うん……タイミング逃して……」  というか、いつがそのタイミングなのか私にはさっぱり分からない。 「まあ、あんたらしいけど」  美智は呆れたように言いながら、遠ざけたはずのビールジョッキをまた引き寄せて喉を鳴らした。 「壱成は放っておけば一日中やる男でしょ。私たち看護師って体力勝負なところあるから、あいつのほら、絶倫男のペースにば
last updateLast Updated : 2026-10-25
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19話 返事をしない理由

 ※ ※ ※ 救急外来へ異動してから、私の生活リズムは驚くほどに変わった。  これまでの整形外科病棟とは何もかもが違っていた。  夜勤や準夜勤の回数は跳ね上がり、救急車の受け入れ要請が鳴り響くたびに、緊迫した空気が皮膚を刺す。一刻を争う急変対応に追われ、定時で上がれる日なんてほとんどない。毎日、突発的な残業が発生した。 「今日、これから何が運ばれてくるか読めない」  そんな強烈な精神的緊張感が、勤務中はずっと頭の片隅に張り付いている。  けれど、それは今の私にとって一種の救いだった。目まぐるしい処置に身を置いている間だけは、室町くんへの複雑な思いを、きれいさっぱり忘れられるから。  勤務時間が極めて不規則になったことで、当然、室町くんとの送迎のタイミングは一切合わなくなった。  会えない日々が続き、私は彼のマンションではなく、自分の狭いアパートへと帰るようになる。  毎日欠かさず『おはよう』『おやすみ』のメッセージ。 『仕事、無理してない? ちゃんと食べられてるかな』  私の体を気遣うメッセージまで送ってくれる。  室町くんは本当にマメな人だった。  私はそれに既読をつけるだけで、携帯を伏せた。返事は、あえて返さない。  出会ったばかりの頃――ただの陰キャだと思っていたあの頃のように。けれどあの時とは違う。今は、自分の意志で彼からの言葉を無視し続けていた。 (優しくされるたびに、苦しくなるから……)  そんな中、市川先生とはシフトが被ることが多くなった。  若い看護師にたくさん手を出しているという噂通りの軽い先生だけど、腕は確かで、患者さんへの対応は誰より丁寧だった。その真摯な仕事ぶりを見ていると、人は見かけによらないのだと、どこか別の誰かを重ねて胸がちくちくと痛む。 「お疲れ。はい、どうぞ」  夜勤明けのナースステーションで、市川先生から不意に缶コーヒーを差し出される。 「あ……ありがとうございます」 「最近顔色悪いよ? 救急外来は体力消耗激しいからさ、倒れる前にちゃんと休んでね。……まあ、仕事ぶりは文句なしだけど」 「頼ってくれたらいつでも飯くらい奢るよ」と、いつもの軽いノリでウインクされる。  その屈託のない器用さが、今の私には少しだけ眩しかった。誰にでも同じように軽薄で、同じように真面目。それは私の知る、誰に
last updateLast Updated : 2026-10-25
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20話 今日で終わりにしよう

 その言葉が、私の胸を鋭く突き刺した。 私は彼の言葉を、きっぱりと遮った。「生理、来たの」「え?」 室町くんは一瞬、呆気に取られたように目を見開いた。「そうなんだ。……お腹、温める? 何か、薬とか、いる?」 すぐにいつもの誠実な調子を取り戻し、私の体調を気遣おうとする彼に向かって、私は小さく首を振った。「もう終わったから、大丈夫」 これ以上、この優しさに甘えてはいけない。 私は彼を見つめ、ずっと胸の奥底に溜め込んでいた言葉を、静かに切り出した。「生理は無事に来たし、妊娠もしてなかった。……だから、もう大丈夫だよ、室町くん」「……何が?」 室町くんは眼鏡のブリッジを指先で押し上げながら、不思議そうに首を傾げた。「え、あ……だから、その……」 思わぬ反応に、私の方が言葉に詰まってしまう。 これで肩の荷が下りるはずの彼が、どうしてそんなに怪訝そうな顔をしているのか分からなかった。「えっと。君は過労で倒れたばかりで体調も良くないと思うし、俺、看病続けるけど……」 室町くんは私の動揺を気にするふうでもなく、淡々とした、けれど絶対に譲らない穏やかな声音で言葉を重ねてくる。 室町くんの様子に、私の言葉の意味が届いていないと気づいた。「それにさっきの続きだけど。俺の仕事場から君の病院って近いから、俺と一緒に住もう」 遮ったはずの言葉を、彼は何事もなかったかのように、もう一度真っ直ぐに私にぶつけてきた。「時間に融通利くから、君の食事も作れるし、いつだって送迎できるよ」 首を傾げたまま、穏やかに微笑む彼――それを見た私の胸の奥に溜まっていた切なさと罪悪感が爆発した。 私はベッドの上で気力を振り絞って体を起こした。「責任取らなくていいのっ……!」 室町くんの顔を見ていられず、私は俯いたまま叫んだ。「私は妊娠してなかった。……だからもう、責任っていう言葉に、無理して縛られないで。これ以上、室町くんに優しくしてもらうのは申し訳ないから……っ」 涙が視界を滲ませていく。 でも、私が泣くのは違うと思った。誠実な彼を縛っていた私には泣く権利なんてない。 下唇を思いきり噛んで、痛みで涙を堪える。 私は彼を解放するための最後の言葉を、静かに、きっぱりと告げた。「私と会うのは、今日で終わりにしよう」 狭い1DKの部屋に、重く冷たい静寂がゆ
last updateLast Updated : 2026-10-25
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