その男は、長身に似合わぬたおやかさで、深々と〝カーテシー〟をして見せた。「初めまして。ミョルニイル伯爵家が長子、アーサ=ソールでございます。此度、グレープニール家に輿入れとなりました。何卒、幾久しく、御情けを賜りますようお願い申し上げます」 辺境伯たるテオは、応接間に入ったところで、件の完璧な礼を取られて面食らう。「あ……、ええっと……」 固まったテオの腰の辺りを、側近のハティがとんっと肘で突いた。「あー、うん。俺……いや、我こそはグレープニール家が当主ティーウである。今後ともよろしく頼む、アー……アーティ……ちが……、アーサ=ソール殿」 名前を噛んだことに、テオは狼狽えたが。 礼を解いて顔を上げた相手の姿に、びっくりしてしまった。(こんな掃き溜めに、鶴がきちゃったよ……) さほど背が高くもないテオからしたら、見上げるほどの美丈夫が、そこには立っていた。 艷やかな黒髪は、王都の騎士団規律に準じた、清潔な長さに切り揃えられ、背筋がピシリと真っ直ぐに伸びている。 白磁の肌に、感情の読めない──強い魔力を示すブラッドレッドの瞳。「と……、とりあえず、長旅で疲れただろう? 部屋を用意してあるから、そこで休んでもらって……。従者や世話する侍女たちは使用人部屋に……」 言いかけて、テオは言葉に詰まった。 部屋には、自分たちとアーサ=ソールしか居ない。 そして彼の足元には、輿入れという言葉と真逆の、古びた小さなトランクが一つ。「テオ様……」 再びハティが、今度はテオの脛をがんっと蹴る。 テオが余分なことを尋ねる前に、黙らせたかったらしい。「痛いよ……」 控えているハティに、テオは苦情を言ったが。 頭を垂れていたハティは、ものすごい目つきでテオを睨んできた。 その視線に〝さっき説明したの、やっぱり聞いてやがらなかったな〟という意味が込められていることに気付き、テオはわざとらしく咳払いをする。「こっちは俺の側近のハティ。あ〜、ハティ。家令のスコルを呼んで、客人をゆっくり休ませてやってくれ」「かしこまりました」 ボロが出ないうちに引っ込むべきと判断したテオがそう言うと、ハティは「正しい判断です」とでも言いたげに頷く。 だが、その漫才のようなやりとりの間も、アーサ=ソールは人形のように
Huling Na-update : 2026-11-04 Magbasa pa