原作の英語版を読んだとき、最初に気づいたのは文体のニュアンスの違いだった。
翻訳版では、主人公の鋭い皮肉やシニカルな思考が少し柔らかめに表現されている印象を受ける。例えば、主人公が『この世界のシステムは壊れている』と独白する場面、原書では『The whole damn system is rigged』という強い表現なのに、日本語版では『このシステムは根本からおかしい』と少し控えめになっている。翻訳者の配慮なのかもしれないが、主人公のキャラクターの尖り具合が原作と比べると若干マイルドになった気がする。
それから、ゲーム用語の扱い方も興味深い。原作では『EXP』『NPC』といったゲーム英語がそのまま使われているが、翻訳版では『経験値』『非プレイヤーキャラ』と完全に日本語化されている。これについて、英語版を読んでいたときは『異世界転生ものらしさ』が強く感じられたが、日本語版ではすんなり頭に入ってくる利点もある。特に、『レベル99』という数字自体はどの言語版でも変わらないから、作品の核となるコンセプトはしっかり保たれていると思う。
文化差を埋めるための翻訳者の工夫も随所に見られる。原作のジョークのいくつかは、英語の言葉遊びを日本語の駄洒落に置き換えていたり、説明調の文章が増えていたりする。特に『悪役令嬢』というタイトル自体が持つニュアンスを、日本語読者にどう伝えるかは翻訳の腕の見せ所だっただろう。