金木犀の香る町で、さよならを桐谷彰良(きりたに あきら)を庇ったせいで、私は拉致犯に殴られ脳出血を起こした。それ以来、私の精神年齢は十三歳で止まってしまった。
彰良は罪悪感を抱き、「雨音(あまね)、俺が一生君を守る」と誓った。
彰良はそれを実行した。
私が大人になるまで守り抜き、火事の時には私を救うために背中全体に重度の火傷を負ってでも、私を守り通した。
彼の義妹が家に帰ってくるまでは。あの日、彼は言った。「美桜は知能が低い人間が嫌いなんだ。君は隣の家に移ってくれ」
難産で産んだ息子である桐谷悠斗(きりたに ゆうと)までもが、私をひどく嫌悪した。
「この大バカ!パパと僕に恥をかかせるだけだ。綺麗で賢い美桜おばさんとは大違いだ。お前さえいなければ、美桜おばさんが僕のママになれたのに!お前なんか死んじゃえ!」
挙句の果てに、悠斗は桐谷美桜(きりたに みお)を庇って私を突き飛ばし、私はトラックに轢かれ、体はバラバラになった。
再び目を開けた時、私は彰良がプロポーズしてきた、あの日に戻っていた。
今度の人生では、彰良の憐れみはいらない。
ましてや彼との結婚など。