驚いたのは、作者が『
sasame』の世界をただ延長するのではなく、視点を大胆に分散させる構想を口にしたところだった。初めの発言は複数の短編を繋げるアンソロジー形式にしたいというもので、主要人物だけでなく脇役や一度しか登場しなかった存在の視点で物語を再構築する意図があると聞いた。これによって同じ出来事が別の光で照らされ、結果として物語の層が厚くなるという説明だった。
次に気になったのは、時間軸の実験だ。作者は過去と未来を行き来する断片的な章構成を考えていて、読者に断片から全体を組み立てさせるような読み方を促すと語っていた。そこには記憶の曖昧さや、些細な選択が人生をどう変えるかというテーマが埋め込まれているらしい。
個人的には、この方針は『sasame』で培われた繊細な心理描写をより豊かにするはずだと感じている。作者が示唆した映像的な見せ方や音楽との連動案も、完成すれば作品体験を一段と深めるだろうと期待している。