これで、後悔のない別れになった花岡翠(はなおか みどり)が沖田湊(おきた みなと)の兄の葬儀を終えた直後にした最初のことは、三年間連れ添った夫との離婚だった。
理由は、沖田家の親族全員が、湊に亡き兄の嫁との間に後継ぎを産ませよう求めたからだ。
「翠、親も絶食して首まで吊る勢いで迫ってくるんだ。俺にはどうしようもないよ!それに俺と兄嫁は体外受精なだけで、別に何かあったわけじゃないんだ。なんで離婚なんて言い出すんだよ?」
湊の言葉に、翠は目を閉じた。胸に鋭い刃が突き刺さったような痛みが走り、長く堪えていた涙がとうとう頬を伝う。
「湊、私たちは夫婦なのよ?本気でこの状況がおかしいって思わないの?」
愛する人が、他の女と子どもを作ろうとしている。こんな理不尽があるだろうか。