別れの時になってこそ、愛の深さを知る結婚してから、私大塚杏奈(おおつか あんな)は足の不自由な夫久保翔真(くぼ しょうま)を七年間ずっと世話してきた。
けれども、彼が立ち上がったその日、偶然にも彼が親友とフランス語で話しているのを耳にした。
「翔真、お前ほんとにあの地味女と結婚式やり直すつもりか?もし大事な妹ちゃんが傷ついたらどうするんだよ?」
翔真は息子の久保颯太(くぼ そうた)にエビをむいてやりながら、ゆったりと答えた。
「あり得ないだろ。お前も大事だって言うじゃないか。傷つけるなんてできるわけないだろう」
「パパと同じ。僕もキレイなおばさんが好きで、ブサイクのママなんて大嫌い」
傍らで息子がフランス語で口をはさんだ。
彼らは知らない。私はフランス語が分かるのだ。
こんな生煮えの人生を、これ以上続ける気にはなれなかった。