霧に沈み、あなたを忘れる「おばさん、もう決めたの。私、京極家を出て、おばさんと一緒に海外で暮らしたい」
電話の向こうから返ってきた叔母の声には、喜びがあふれていた。優しく語りかけるような口調で言った。
「わかったわ、絵蓮。すぐにビザの手配をするけど、たぶん一ヶ月くらいはかかると思うの。
その間に、友だちやクラスメートにはなるべく会っておきなさい。新洲島に引っ越したら、もう簡単には会えなくなるかもしれないから、きちんと話して、お別れを言っておくのよ。
特に、おじさんには、ちゃんと感謝しないとね。あの人は、あなたを小さい頃から育ててくれたでしょう。その恩は、絶対に忘れちゃだめ。しっかりお礼を言いなさい」
森清絵蓮(もりきよ えれん)は、低い声で返事をした。
電話を切ったあと、彼女は立ち上がり、ベランダからリビングへと戻った。そして、ふとテーブルの上に飾られた一枚の写真に視線を向けた。