法廷にはコーヒーとプリンを ― Coffee and Pudding in the Court ―

法廷にはコーヒーとプリンを ― Coffee and Pudding in the Court ―

last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-16
Oleh:  三毛猫丸たまTamat
Bahasa: Japanese
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花霞地方裁判所桜都支部。 ごく普通の裁判所――のはずですが。 そこに勤める判事補、司 法子はちょっと変わった人物。 緑色のショートヘアに赤いカラコン。 出勤も退勤もパンクファッション、まるでライブハウス帰りのよう。 けれど、法服をまとって椅子に座るとき―― 彼女は一転、真剣な眼差しで事件と向き合い、証拠を読み、心を見抜き、誰よりも人に寄り添う判決を下す。   そんな“Funky裁判官”のもとに配属されたのが、国内最高峰・東帝大学を主席で卒業した才女、東條 菊乃。 几帳面で真面目なお嬢様は、法子に振り回されっぱなし。 しかし、その奔放さの裏にある“人を救いたい”真摯な心に触れ、少しずつ彼女自身の価値観も揺らいでいく――。

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Bab 1

第1話 その名は、司 法子(つかさ のりこ)

 ばさり。

 黒法服の裾を鳴らし、裁判官が入廷する。

「令和15年(少コ)第34号、家賃請求事件――開廷しまーす!」

 明るすぎる声に、原告も被告も目を丸くした。

 書記官・東條菊乃は即座に立ち上がり、裁判長席を振り返った。

「司法の場で“まーす”は不適切ですわ!」

「条文に書いてなければノーカンでしょ?」

 裁判官――司 法子は涼しい顔。

 法廷の空気は、張りつめと苦笑の狭間で揺れた。

 任官三年目。

 まだ“補”の肩書きはあるが、この桜都《おうと》支部では一人前扱いだ。

 地方の人手不足ゆえの特例を、法子は楽しんでいるようにも見えた。

 三時間前。

 桜都市の朝。

 大衆食堂の引き戸が、がらりと開く。

 緑のショートヘア、濃いアイライン。

 赤いカラコンが鮮やかに映え、革ジャンにジーンズ、足元はごついブーツ。

 どう見てもロックバンドのボーカル。

「ふんふんふふ〜ん♪」

 鼻歌まじりに出勤する彼女の手には、唐揚げ弁当とプリンの袋。

 すれ違ったサラリーマンが囁く。

「今日ってライブでもあるのか?」

 ロッキン女は気にも留めず、軽快に歩いていく。

 向かう先は花霞地方裁判所桜都支部《はなかすみちほうさんばんしょおうとしぶ》――彼女のステージ。

 二時間前。

 花霞地方裁判所桜都支部・執務室。

 主任書記官の菊乃は、所長判事・桐生《きりゅう》重信から紹介を受けていた。

「今日から司 法子判事補と組んでもらう」

(緑髪ショートに革ジャン、赤い瞳……28歳? しかもわたくしが、この方と組む……?)

 清廉で厳格な裁判官像は、一瞬で崩れ去った。

 菊乃は姿勢を正す。黒髪をまとめた端正なスーツ姿の自分とは正反対。

(本当に、この人と裁判を……?)

 冷たい不安と緊張が胸に走る。

 それでも表情を整え、小さくうなずいた。

 原告はアパートの大家・高橋正雄、56歳。

 被告は半年間、家賃24万円を滞納したアルバイトの内藤一哉、26歳。

「仕事が減って、どうしても……」と被告。

 大家は腕を組み、きっぱり言う。

「契約は契約です。支払っていただかないと困ります」

 菊乃の背後で、大きめのため息が漏れた。

(判決は明白――なぜ迷うのです?)

 振り返ると、法子は腕を組み、天井を見上げ、机を指でリズムよく叩いている。

「ふむ……これはプリンの例えを適用するとわかりやすいんだよね」

「そんな例え話は不要ですわ!」

 菊乃の声をよそに法子はにやりと笑う。

「判決――支払い命令。ただしっ!」

 ざわめく法廷。

「分割払いの条件付きにしましょう。両者には裁判外で和解を勧める。これが現実的でしょ?」

 菊乃は思わず立ち上がる。

「判事! 判決と和解勧告を同時に言い渡すなど聞いたことがありませんわ!」

「出た出た。けど、条文に“ダメ”って書いてないよね?」

「……っ」

 両者の視線が激しく交わる。

 原告と被告は顔を見合わせ、あぜんとした。

 裁判官と書記官の“法廷協議”が十分近く続いた後、法子は息を吐き、姿勢を戻した。

「では両者に問います。被告は滞納家賃を支払う必要があります。しかし一度に払えない事情もあるなら、今後滞納しないことを条件に一年間の分割支払いを認め、一度も滞ることなく履行するという和解案はいかがですか?」

 当事者の視線が交錯し、張りつめた空気がゆるむ。

 互いに大きく頷いた。

「では、この和解を持って閉廷します。和解調書は後日郵送します」

 菊乃は深くため息をついた。

(この判事……大丈夫かしら)

 ばさり。

 法子は法服の袖を鳴らして法廷を後にした。

 裁判後、執務室。

 菊乃が青筋を立てて詰め寄る。

「本件は少額訴訟です。判決だけで十分でしたのに、和解だのプリンだと……!」

 法子は椅子にだらりと腰を下ろし、煙草を指で回す。

「プリンだって一気に飲むより、ひと口ずつの方が消化にいいでしょ? 裁判はお仕置きじゃなく、生きるリズムを作る場所なんだよ」

 そして、ふっと真顔になる。

「世の中、甘くも苦くも……プリンみたいなもんだよ」

 その瞬間、桐生所長が机の引き出しから胃薬を取り出し、水で流し込んだ。

「……はあ、またか」

 事務官たちは顔を見合わせ、苦笑する。

 支部は慣れと諦めが混ざる空気だった。

 ただ一人、菊乃だけが真っ赤になり、机を叩かんばかりに叫ぶ。

「プリンに例える必要は、まったくございませんわっ!」

 法子はけろりと笑い、机に片肘をついた。

「固すぎても崩れる。ゆらゆらしてるくらいが、ちょうどいいんだよ」

「……!」

 菊乃の目が大きく見開かれ、目じりが激しく震える。

「じゃあ、和解調書よろしくね。おキクさん」

 いたずらっぽく笑い、タバコをくわえると屋上を指さし、鼻歌交じりに去った。

「おキクさんって誰ですかっ! 所内喫煙は規則違反ですっ!」

 菊乃の声は裏返っていた。

 だが妙に腑に落ちた感覚を抱えていたのは、彼女だけの秘密。

(この判事は心配ですが……少しだけ――胸の奥が温かい気もいたします)

(つづく)

――――――

 ちょっとFunkyで情に厚い破天荒な裁判官。

 その名は、司 法子。

 そして――完璧主義のお嬢様書記官、東條 菊乃。

 水と油のふたりが並び立つ。

 甘くて、ちょっと苦い。

 まるでプリンみたいな法廷コメディ。

 ここに――開廷!

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第1話 その名は、司 法子(つかさ のりこ)
 ばさり。  黒法服の裾を鳴らし、裁判官が入廷する。 「令和15年(少コ)第34号、家賃請求事件――開廷しまーす!」  明るすぎる声に、原告も被告も目を丸くした。  書記官・東條菊乃は即座に立ち上がり、裁判長席を振り返った。 「司法の場で“まーす”は不適切ですわ!」「条文に書いてなければノーカンでしょ?」  裁判官――司 法子は涼しい顔。  法廷の空気は、張りつめと苦笑の狭間で揺れた。 任官三年目。  まだ“補”の肩書きはあるが、この桜都《おうと》支部では一人前扱いだ。  地方の人手不足ゆえの特例を、法子は楽しんでいるようにも見えた。 三時間前。 桜都市の朝。  大衆食堂の引き戸が、がらりと開く。 緑のショートヘア、濃いアイライン。  赤いカラコンが鮮やかに映え、革ジャンにジーンズ、足元はごついブーツ。 どう見てもロックバンドのボーカル。 「ふんふんふふ〜ん♪」  鼻歌まじりに出勤する彼女の手には、唐揚げ弁当とプリンの袋。 すれ違ったサラリーマンが囁く。 「今日ってライブでもあるのか?」  ロッキン女は気にも留めず、軽快に歩いていく。  向かう先は花霞地方裁判所桜都支部《はなかすみちほうさんばんしょおうとしぶ》――彼女のステージ。 二時間前。 花霞地方裁判所桜都支部・執務室。 主任書記官の菊乃は、所長判事・桐生《きりゅう》重信から紹介を受けていた。 「今日から司 法子判事補と組んでもらう」 (緑髪ショートに革ジャン、赤い瞳……28歳? しかもわたくしが、この方と組む……?) 清廉で厳格な裁判官像は、一瞬で崩れ去った。 菊乃は姿勢を正す。黒髪をまとめた端正なスーツ姿の自分とは正反対。(本当に、この人と裁判を……?) 冷たい不安と緊張が胸に走る。  それでも表情を整え、小さくうなずいた。  原告はアパートの大家・高橋正雄、56歳。  被告は半年間、家賃24万円を滞納したアルバイトの内藤一哉、26歳。 「仕事が減って、どうしても……」と被告。  大家は腕を組み、きっぱり言う。 「契約は契約です。支払っていただかないと困ります」  菊乃の背後で、大きめのため息が漏れた。(判決は明白――なぜ迷うのです?) 振り返ると、法子は腕を組み、天井を見上げ
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第2話 境界線とプリンのたとえ話
 ばさり。  法服の裾を鳴らし、判事・司 法子が裁判長席に腰を下ろした。 「令和15年(ワ)第102号、境界確認等《きょうかいかくにんとう》請求事件――開廷しまーす!」  法子の明るすぎる声に、当事者と代理人が目を丸くする。  書記官・東條菊乃が条件反射のように後方の法子を振り返った。 「司法の場で“しまーす”は不適切ですわっ!」  法子は菊乃にウインクを飛ばし、ファイルを開いた。  菊乃の胸に冷たい汗がにじむ。──一週間前。桜都簡易裁判所・調停室。 令和15年(ノ)第58号、境界確認等調停申立事件。 午前10時。  法子は昭和レトロなチェック柄ジャケットに太いネクタイ姿で現れた。 「……は、判事。タイムスリップしてこられたのですか?」「昭和レトロは今アツいんだよ。プリンだって固めが人気なんだからね」  菊乃は、呆れたように深いため息をつき、吐き捨てるようにつぶやく。 「……プリンを引き合いに出さないでくださいませ」  当事者と調停委員がぽかんと口を開く。 「はいはい、調停はじめましょっか!」  申立人は農家の田嶋美佐子、52歳。  相手方は建設会社勤務の片桐孝志、48歳。 争点は畑と自宅を隔てるコンクリ塀の境界線だった。 「塀の半分が私の土地に入り込んでいます!」「測量結果を見れば、そっちこそ主張がズレてる!」  声が大きくなり、空気が熱を帯びる。  それぞれの主張を法子はしばらく眺め、ぱん、と手を叩いた。 「はい、ストップ! ……塀をシェアするってことでどう?」 「「「そんなことできませんっ!」」」  三人の声が揃った。  菊乃は眼を見開いて立ち上がっている。 「……え? ダメ?」 「当然ですわ! 境界を“シェア”などあり得ません!」  法子は少し頬を膨らませる。 「でも、プリンだって――」「あなたのプリンは規律違反ですっ!」  凍りつく調停室。  当事者と調停委員があぜんと見つめる。  沈黙の後、法子は肩をすくめ、小声でつぶやいた。 「……やっぱ固めプリンのほうが良かったかなぁ――昭和レトロ……」「――ですから! プリンを持ち出すのをおやめくださいませっ!」  菊乃が机を叩く。  当事者たちは呆れ顔で、ついに片桐が立ち
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-03
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第3話 カフェ・ロッソの休日
 休日の桜都市・商店街。  石畳の路地を歩く足取りは、裁判所への道中より軽やかだった。 東條菊乃は白いワンピースに淡いカーディガン。  黒髪をきちんとまとめ、誰が見ても“令嬢のお出かけ”そのものだった。 向かう先は――話題のカフェ「カフェ・ロッソ」。(SNSで毎日のように写真を見ますわ。名物はベリーを宝石のように散りばめたタルト……。優雅な休日にふさわしい場所ですわね) ガラス扉を押して入店。  木目調の家具と観葉植物が並び、落ち着いた空気が漂っていた。 「いらっしゃいませ」  迎えたのはバリスタ姿の西園寺慎。  落ち着いた笑顔に、菊乃は小さくうなずく。 「ブレンドコーヒーを一つと……“ベリータルト・ロッソ”をお願いいたします」  やがてテーブルに運ばれたのは、苺、ブルーベリー、ラズベリーを宝石のように飾ったタルト。(……まさに宝石。わたくしにふさわしいスイーツですわ) コーヒーを一口。  深い香りに、肩の力が抜けた。(あの裁判から、やっと解放されましたわ……) 思い返すのは、家賃滞納の少額訴訟、隣地境界のトラブル。(司判事は、どうして規則を軽んじて……。けれど、当事者が救われていたのも事実。 ……理解不能ですわ) ため息をつき、タルトを切り分ける。  カラン、とドアベルが鳴った。  同時に「ふんふんふふーん♪」という鼻歌が流れ込む。 菊乃が振り向くと―― 赤いタータンチェックのスカートに黒いブラウス。  同柄のベレー帽と真っ赤なリボン。  黒タイツにローファー。 奇抜な姿で鼻歌を奏でていたのは――花霞地方裁判所桜都支部判事、司 法子だった。 菊乃は顔をそらし、心臓がどくりと鳴る。(なぜ、この人が……? まさか、同じタルト目当て?) 胸の奥でざわめきが広がる。 「やぁ、慎ちゃん! 久しぶり〜!」「……久しぶりだな、ロックスター」「イェーイ☆ 今日もノッてるぜ〜!」  法子は腰を下ろすなり声を上げ、馴れ馴れしく手を振る。  菊乃に気づく様子はない。 「おばけプリンと、地獄のコーヒーをセットで!」  一瞬で店内が凍る。  菊乃はフォークを止め、手を握りしめた。 “おばけプリン”――直径二十センチの巨大プリン。  ホイップとチェリーを山盛りにした裏メニ
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第4話 夢と奨学金と判決
 法廷の扉が開く。 黒い布が風をはらむ。 ばさり。 法服の裾を派手に鳴らしながら、判事・司 法子が裁判長席に腰を下ろした。「令和15年(ワ)第121号、奨学金|求償《きゅうしょう》請求事件。開廷します」 いつになく、法子の声は落ち着いている。  原告は、会社社長で被告の連帯保証人、佐久間典夫、58歳。 原告代理人は、56歳のベテラン弁護士、山崎慶一。 被告は、奨学金の借入人・篠原|湊《みなと》、アルバイトをしながらバンド活動を続ける25歳。 被告代理人は、法子の司法修習同期・高梨悠人、30歳。 書記官・東條菊乃が起立して出席を確認する。 原告本人は不出廷、代理人のみ。 被告本人および代理人の出席を確認。「では、弁論を進めます」 山崎が立ち上がる。 落ち着いた声、無駄のない言葉。「原告は、被告が大学時代に借り受けた奨学金1000万円につき、返済計画――20年|元利均等《がんりきんとう》、月々46,887円――の履行がなされず、三年間で1,687,932円の弁済期経過分が発生したため、連帯保証人である原告が残金の全額を立替いたしました。よって、弁済期経過分1,687,932円の求償を請求します」  続いて高梨が立つ。 目が合い、一瞬だけ司法修習時代の顔を思い出す。「被告・篠原湊は返済の意思を持ち、少額ながら支払いを再開しています。生活は逼迫していますが、音楽の道――バンド活動と作曲で生きていく夢を諦めておりません。判決におかれては、その誠意を斟酌いただきたく――」  堪えきれず、被告本人が声を上げた。「……どうしても、音楽を諦められないんです!」 細い体に不釣り合いな声。 夜のライブハウスで歌ってきたその声は、まだ舞台を夢見ていた。  法子の瞳がきらりと光る。「いいね。いいねー、どんな音楽やってるの?」「判事っ! 審理に不要な発言は規律違反ですっ!」 菊乃の声が鋭く響き、法廷がざわつく。 法子は頬を膨らませ、机を指でとんとん叩いた。「ちょっとくらいいいじゃん。……音楽の話、いいじゃん」 山崎が咳払いし、再び記録に戻る。 こうして第1回期日は粛々と終結した。  裁判所・執務室。 紙とインクの匂いが漂う午後。 菊乃は記録を束ね、深く息を吸う。「被告の訴え……嘘ではありません。返済を再開し
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第5話 キャンセルされた結婚式の行方
 法廷の扉が開き、黒法服がばさりと鳴った。「令和15年(ワ)第145号、結婚式キャンセル料減額請求事件。同じく第162号、準備費用返還請求事件。――併合して審理するよ!」 軽すぎる声に、当事者も代理人も一斉に目を丸くする。 花霞地方裁判所桜都支部・判事、司 法子。 いつも通りの登場だった。「判事っ、“するよ”ではなく“いたします”です!」 書記官・東條菊乃の鋭い声が飛ぶ。 当事者、美咲と拓也は互いに視線を逸らし、弁護士たちも手を止めた。 ――場はすでに修羅場の予感に包まれていた。 一週間前。 第2号法廷。事件A――結婚式キャンセル料減額請求事件。 原告:藤堂美咲(26歳・OL/元新婦) 原告代理人:弁護士・佐伯亨 被告:株式会社ブライダル桜都(式場運営会社) 被告代理人:弁護士・西田真「キャンセル料3,000,000円なんて不当です!」 美咲の代理人・佐伯が声を張る。 式場代理人・西田は冷ややかに反論した。「規約に基づく当然の請求です。挙式一か月前のキャンセルは総額の八割。契約書に明記されています」「料理も引出物も未発注です! 実損を超える請求は認められません!」 法子は椅子を斜めに傾け、机をトントンと叩く。「……食べる前からプリンのカラメルまで取られる気分だよね。食べてない分まで請求するなんて」「判事! 例え話は不要ですわ!」 菊乃の声が響く。 結論は出ず、第1回期日は終了した。 同日午後。事件B――準備費用返還請求事件。 原告:相馬拓也(28歳・会社員/元新郎) 原告代理人:弁護士・川崎悠介 被告:藤堂美咲(26歳・OL/元新婦) 被告代理人:弁護士・佐伯亨(事件Aと兼任) 拓也が机を叩き、声をあげた。「俺が払った招待状代や衣装代! 本来は二人で準備すべきだ! せめて半分は返せ!」 感情が先に立ち、川崎が制止する間もなく言葉が飛び出す。「式場代はすべて私が支払いました! 準備費用まで負担する義務はありません!」 美咲が険しい表情で反論。 佐伯は冷静に資料を繰り、言葉を選んでいた。「じゃあ返還金があるなら、そこから返せ!」「それは私が払ったものです!」「返せ!」「いやです!」 ――堂々巡り。 代理人たちが慌てて制止するが、空気はますます荒れていく。 法子は頬杖をつき、机をリズム
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第6話 ノリちゃんとお嬢様、夏祭り騒動記
 桜都市、スターロード商店街。  法子の地元で、夏祭りの提灯が灯っていた。 東條菊乃は浴衣姿で歩く。  傍らには日傘と荷物を持つ執事の老紳士。(……屋台をひと回りしてから帰りましょうか) そう思った矢先。 「へいらっしゃ〜い! 早く買わないと“焼きすぎ有罪”だよっ!」  聞き覚えのある声。  顔を向けると、革ジャンに浴衣帯を巻き付けた人物。 花霞地裁の判事、司 法子であった。  西園寺の出店している屋台で、焼きそばを焼いている。 「は、判事ぃっ!? な、何をしておられますのっ!」  驚愕した菊乃は駆け寄り、声を張り上げる。 「アルバイトは規則違反ですわ!」「いやいや〜、地域ボランティアはノーカンだよ♪」  法子はにやりと笑い、隣の老紳士を見やる。 「おキクさん、まさか“じいや”なんて呼んでないよね?」「……あ、あわわわ……っ!」「左様でございます」  じいやがさらりと答え、周囲の空気がざわついた。 「こ、これっ! じいや、何を言っておりますのっ!」  菊乃は耳まで真っ赤になり、必死で否定する。 「さすが“おキクお嬢様”!」「は、判事っ……からかわないでくださいませっ!」  涙目で叫ぶ菊乃を横目に、西園寺 慎は苦笑した。 「……せっかくの祭りだ。二人で楽しんで来い」  法子は一瞬でヘラをしまい、菊乃の腕を引いた。  そのまま人混みへと消えていった。 まずは射的の屋台。  法子が銃を構えると、パンパンと景品が落ちる。  ぬいぐるみや駄菓子が床に散らばり、店主は青ざめた。 「おいおい、景品なくなるぞ!」「これは規則違反ですわ!」  菊乃は慌てて景品を押し戻す。  だが両腕に抱えきれないほどの山になった。  子供たちは歓声を上げ、大人たちは苦笑する。  法子は得意げに笑みを浮かべた。(……この人は、どうしてこうも目立つことばかり――)  次は金魚すくい。  水面に提灯の灯りが揺れ、金魚が泳ぐ。  法子はポイを構えたが、水槽に手を突っ込もうとする。「判決! 全員釈放〜!」「おやめなさいませっ!」  菊乃はその手をつかみ、必死に引き戻す。  周囲から笑いが起こり、店主も肩を揺らした。  結局ポイは破れ、一匹しかすくえなかった。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-11
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第7話 姉の登場、『このチビッ子は誰かしら?』
 花霞地方裁判所桜都支部・執務室。 朝から空気は落ち着かない。「また紙づまりです!」「誰か、針金! クリップでもいい!」「インクが飛び散ってます、わぁぁ!」 コピー機がうなりをあげ、赤ランプを点滅させる。 前日から不調だった機械は、ついに反乱を始めた。 「訴状が吐き出されません!」「それ、原告控えじゃなくて被告控えです!」 事務官たちが右往左往し、紙束を抱えて走り回る。 執務室は朝から混乱していた。「判事ならこういう時、ハンマーで叩くんだが……」 場違いな冗談に、空気はさらに慌ただしくなった。 東條菊乃は机に向かい、ホチキスをカチンと閉じる。 背筋は伸びているが、胸のざわめきは晴れない。(朝からのこの感じ……どうして落ち着きませんの) 胸騒ぎの正体はすぐそこに迫っていた。 コツン、コツン。 高いヒールの音が廊下から響く。 ざわめきが止まり、空気が凍った。 扉が開く。 黒のスーツ、まとめ上げた黒髪。 ただ立つだけで場を支配する。 ――東條カンパニー取締役執行役員で次期社長候補、東條雅乃。 主任書記官、菊乃の姉。 170センチを超える長身。 鋭い視線と威圧を帯びた声。「ごきげんよう。お忙しいところ失礼いたしますわ」 その声音だけで空気が震え、事務官たちは背筋を伸ばす。 視線が妹を射抜く。 菊乃は硬直し、立ち上がった。「……姉様」 声はかすれ、手が震える。 (このざわめきは……この瞬間のためだったのか) 毅然とした姿は消え、まるで蛇に睨まれた蛙。「菊乃。地方裁判所で“雑務”を続けていると聞きましたわ。あなたほどの人材が、こんな場所に縛られて……理解に苦しみます」 雅乃の低い声が空気を切り裂く。 長身の影に覆われ、呼吸が詰まる。 資料が手から滑り落ち、紙が床に散らばった。「わ、わたくしは……ここで、学ぶことが多く――っ」 声は震え、喉が詰まる。「学び? 子供の言い訳にしか聞こえませんわ。あなたは“社長候補の妹”。立つべき舞台は経営の場。小さな裁判所にかじりつくなど――家の名に泥を塗る行為です」 さらに唇を歪めた。「庶民の法廷ごっこに付き合う暇は、あなたには残されておりませんの」 職員たちは息を殺し、桐生所長は机の中で胃薬を握った。 そのとき――。「ふんふんふふーん♪」 鼻歌とと
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-12
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第8話 契約と血筋と揺れる正義 ― 兆し
 花霞地方裁判所桜都支部・執務室。 普段は穏やかな長峰敦子事務局長が、珍しく足早に入ってきた。 両腕には分厚い訴状ファイル。息を整える間もなく、桐生所長の机に置く。「しょ、所長……重大案件が届きました……!」 桐生重信所長は眉間に皺を寄せ、ゆっくりとファイルを開いた。 静まり返った執務室に、低い声が響く。「事件名――桜都市水族館建設請負契約 無効確認請求事件。原告は桜都建設工業。地元で30年続く中小企業だ。被告は……国内最大手の一角――東條カンパニー」 その名に、執務室はざわめいた。「えっ、東條……!」「水族館って、自治省の目玉事業じゃ……」 職員たちが顔を見合わせる。 桐生は訴状をめくり、要旨を読み上げた。「契約不適合責任は10年の無償追加工事。遅延損害金は1日1%。原告はすでに数百万円の負担を強いられている……工期が遅れた原因は、被告の設計変更や資材調達難もあると」 事務官たちの表情が引き締まる。 菊乃は血の気を失い、指先が冷たくなった。 (……姉様の会社が……訴えられて……!) 桐生は訴状の束を整え、ため息を吐く。「地元の中小企業が国内最大手を訴える。自治省の事業まで絡んでいる……全国的な大事件だ。考えただけで胃が焼ける」 乱暴に引き出しを開け、常備の胃薬を水もなしに飲み下した。「よりによって、うちの支部に……寿命が縮む」 その言葉に職員たちがひそひそと声を交わす。「新聞社やテレビが押し寄せるぞ……」「桜都支部が全国ニュースに……」 菊乃は唇をかみ、顔から血の気を失っていた。 ――その空気を切るように、鼻歌が響いた。「ふんふんふふ〜ん♪」 革ジャン姿の法子が、コーヒーカップを片手に入ってくる。「おっはよ〜! なんかピリピリしてるね。プリンでも買い忘れた?」 執務室が凍りついた。 事務官たちは心の中で(空気読め……)と突っ込む。 桐生はこめかみを押さえ、胃薬を握りしめたまま天を仰いだ。「……本庁から直々に指示が来ている。“世間の目があるから合議制でやれ”と。結局、誰も一人で背負いたくない案件ってことだ。判事三名の合議制で行う」 桐生の声は重い。「裁判長は私。左陪席は司。右陪席は真壁」 事務官がざわつく。「やっぱり合議……」 不安が広がる中、法子は胸を張って笑う。「質問係はわたしか! バリ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-12
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第9話 見えない証拠と原告の声
 花霞地方裁判所桜都支部・執務室。  朝から空気は重く張りつめていた。  机の上には新聞が散らばっている。 見出しには大きく《水族館訴訟、地元 vs 東條カンパニー》。 テレビの速報も繰り返し流れていた。「今日も記者が廊下に集まってるぞ……」「こんな地方の裁判が全国ネットに映るなんて……」 事務官たちがひそひそ声を交わす。 桐生所長は眉間に深い皺を寄せながら新聞を折りたたみ、胃薬を取り出した。 瓶を持つ手がわずかに震えている。「……寿命が縮む――」 白い錠剤を水もなしに飲み込み、深くため息を吐いた。 その光景を横目に、東條菊乃は記録を整理していた。 だが万年筆を握る指がかすかに震え、紙にインクの染みをつくる。 (……次は姉様が証人席に……胸が押し潰されそうですわ……) 心臓の鼓動が速すぎて、息が苦しい。 ――と、その重苦しい空気を切り裂くように、鼻歌が響いた。「ふんふんふふ〜ん♪」 革ジャン姿の法子が、コーヒーカップを片手に入ってくる。「おキクさん、顔こわばりすぎ☆ プリンでも食べたら?」「……」 菊乃は返す気力すらなかった。 法子は肩をすくめ、デスクの端に腰をかける。 しばらく新聞の見出しを眺めたあと、にやりと笑った。「そうだ。おキクさん、今日からウチで合宿しない?」「は、合宿……? 遊んでいる暇など――」「違う違う」 法子がコーヒーカップを机に置き、急に真顔になる。「訴状と証拠書類の山、ひとりじゃ抱えきれない。次の期日までに間に合うか分かんないんだ。おキクさんの力を貸してほしい」「……!」 菊乃は思わず息をのむ。 くだらない軽口かと思えば、珍しく真剣な声音だった。 桐生所長がここぞとばかりに言葉を添える。「この事件は君にしか務まらん。頼むぞ、東條君」 長峰事務局長もうなずいた。 (責任逃れ……でも、仕方ありませんわね――) 唇をかみ、菊乃は小さく頷いた。 その夜。 菊乃は法子に連れられ、駅前のマンションに足を踏み入れた。 ドアを開けた瞬間――息を呑む。(……想像以上に、無機質……) 六畳一間のワンルーム。 白い壁は無表情で、カーテンは生成り色。 観葉植物も写真立てもなく、人の暮らしを感じさせるものは一切ない。  あるのは冷蔵庫、電子レンジ、安いテーブルと椅子。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-14
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第10話 被告の論理、官の論理
 第2回口頭弁論。  花霞地方裁判所桜都支部の大法廷。  記者、市民で傍聴席は満席。  開廷前からざわめきが渦を巻いていた。  桐生重信が裁判長席に座り、開廷を告げる。 「これより、第2回口頭弁論を開始します。本日は原告、被告の証人尋問を行います」  菊乃は速記用ペンを握る。  睡眠不足で視界がかすみ、呼吸も浅い。 (……胸が潰れそうですわ……)  法子は陪席から片手を振る。 「おキクさん、顔真っ青。徹夜明けで倒れないでよ☆」「判事っ……! 今はふざけている場合では――」  ――最初の証人が入廷した。 桜都建設工業の社長、山田修二。  五十代半ば、小柄で疲労の色濃い顔。  証言台に立ち、手を握りしめた。「……わが社は三十年以上、この桜都市で建設業を営んでまいりました。社員は三十人あまり、皆、地元で家族を持つ者ばかりです」  その言葉に、傍聴席からざわめきが漏れる。  一般の傍聴人たちの顔が、少しずつ真剣さを帯びていった。 「今回の契約……遅延損害金は一日1%。すでに数百万円の負担を強いられています。設計変更は何度も繰り返された。そのたび資材の手配、人員の組み直しが必要になった。しかし費用は一切認められない……!」  声が震え、拳が小刻みに揺れる。 「社員たちは……寝る間を惜しんで働いております。現場で倒れた者もいます。資金繰りはすでに限界。このままでは会社そのものが、家族の生活ごと、潰れてしまうのです……!」  菊乃は速記ペンを走らせながら、胸が締め付けられた。  文字が滲み、涙がにじむ。(……これが、現実……。契約に従えば、弱き者はただすり潰されるだけ……!) 傍聴席から嗚咽が漏れ、記者たちは一斉にペンを走らせる。 弁護人席から大河内俊郎が発言する。 「以上のとおりです。公益を旗印に掲げながら、弱者を犠牲にする契約は許されません!」  桐生裁判長がうなずき、証言を記録に留める。  法廷内には、重苦しい沈黙が広がった。  ――次に呼ばれる証人の名を耳にした瞬間、菊乃の背筋に冷たいものが走った。 「被告側証人、東條カンパニー取締役・東條雅乃氏」  菊乃の肩がびくりと跳ねた。  喉が詰まり、呼吸が浅くなる。  扉が開く音が鋭く響く。  長身に無駄なく沿ってう黒のスーツ姿。  まとめ上げら
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-14
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