過ぎ行く風は心を知らず激しい情事のあと、峰尋之(みね ひろゆき)は指先にシガーを挟み、満足げな笑みを浮かべた。
「もう終わりだ。これからは秘書の役目だけに専念しろ」
燃え落ちた灰が、星乃映夏(ほしの えいか)の脱ぎ捨てた服の上に落ちた。
彼女は一瞬きょとんとした。
ベッドの下では万能秘書、ベッドの上では気まぐれな愛人。……そんな関係を、二人は八年間続けてきた。
突然「終わり」と告げられるなど、映夏には夢にも思わなかった。
短い沈黙ののち、彼女はかすかに答える。
「……はい」
力の抜けた体を引きずり、服を整えながら、ゆっくりと社長室の休憩室を出ていった。
その夜、映夏は重要なプロジェクトのための酒席で、ワインもビールも次々と飲まされ、ついには「化粧直し」と嘘をついて洗面所で必死に吐き出した。
しばらくして気分が少し落ち着くと、化粧を直して個室へ戻ろうとした。
その途中、耳に聞き覚えのある声が届いた。