長亭で振り返れば、故人は遠くに木崎愛莉(きざき あいり)は漁村で暮らす海女だった。村から一歩も出たことのない彼女は、なんと世界屈指の財閥の大物、坂井陽平(さかい ようへい)の妻となった。
彼は四分の一にヨーロッパ王室の血を引き、大統領でさえも頭を下げる存在だった。
結婚後、愛莉はさらに坂井家に長男坂井優翔(なかお はると)を産んだ。
権力も地位も兼ね備えた夫に、素直で賢い息子までいるとあって、誰もが彼女の幸運を羨んだ。
だが愛莉が生まれ変わったあとは、ただ二つのことしかしなかった。
一つ目は、戸籍抹消の手続きを行い、陽平の前から永遠に姿を消すこと。
二つ目は、息子・優翔の養育権を手放すことだった。