Masukどこにでもいる高校生天野亮太には氷室華という幼馴染みがいる。彼女はその容姿と、性格も相まって学校では『氷華』と呼ばれていた。 ただそんな彼女にも秘密があり、それをただ一人だけ知っている亮太は、ある日彼女の頼みで華の彼氏を演じることにー 自分だけが知っている幼馴染みの本当の顔。氷のように冷たくて、けど時々甘い物語が幕を開く 5/7より全編改稿作業のため、一度全話下書き状態に戻して改稿版を上げなおしています
Lihat lebih banyak俺には氷室華《ひむろはな》という同じ年の幼馴染がいる。
「りょうた、きょうも家にあそびにきたわよ」 家が隣同士というだけで昔から彼女は俺の家に来ては、日が暮れるまで遊んでいき帰っていく。 「亮太、来たわよ」 「おう、いらっしゃい」 それは高校生になってからも続いていて、休日である今日ですら遊びにやってきていた。 (男女二人が、同じ屋根の下で二人きり。シチュエーションとしては最高なんだけどなぁ) よく読むラノベとかだったらこういうのにもドキドキさせられる展開ではあるのだが、何だかんだでそれが十年以上続いているとなればそれもすっかり慣れてくる。 「またアニメ見てたの? よくもまあ、毎日飽きないわよね」 華は何の抵抗もなくリビングに上がってきては、俺が直前まで観ていたアニメが流れているテレビを見て呆れたように呟く。 「別にいいだろう。俺が自分の休日をどう使おうか」 「自由だけどこんなので貴重な一日を潰していたら勿体ないと思わないの?」 「余計なお世話だし、勿体ないなんて思っていないからいいだろ?」 俺は冷蔵庫からお茶を取り出し、それをコップに入れると、華にそれを渡す。彼女は「ありがとう」と受け取った。 「それで今日は何をするんだ?」 華が家に来る時の目的は大概テレビゲームなどの遊びで、今日もてっきりそれが目的だと思っていたのだが、今日の華はどこか神妙な面持ちだった。 「亮太、今日はあなたに頼みがあってきたの」 そして彼女は麦茶を一口飲んだ後に、俺をまっすぐ見つめてそう口を開いた。 「頼みごと?」 これまで一緒に過ごしてきた中で彼女が俺に頼みごとをしてきたことなんて数少ないので、俺もつい重めの口調で答えてしまう。 「こんな事急に頼まれても困ると思うし、私としても少し恥ずかしいというかあまり人に頼めるようなことではないのだけど......」 華は何か言おうとしているが、躊躇っているらしくずっとゴニョゴニョしている。俺は敢えて何も言わずに彼女の言葉を待っていると、 「私の......になってほしいの」 「ん? 聞き取れなかったんだけど」 「だから、その、私の、か、か、かっ」 「か?」 華はさっきの真剣な面持ちとは裏腹に顔を真っ赤にしながら、家中に聞こえるように叫んだ。 「私の彼氏になってほしいの!」 俺は一瞬彼女が何を言っているか理解できずに頭が真っ白になった。 (今、彼氏って言ったか?) 聞き間違いでなければ彼女は間違いなく俺に向けてそう言った。 俺が華の彼氏になってほしい、と。 「俺が......華の彼氏に?」 2 ここで俺、天野亮太(あまのりょうた) の幼馴染み、氷室華について説明をしておかなければならないことがある。 彼女は学校では別名『氷華』と呼ばれていることについてだ。 誰がいつそう呼び出したのかは不明だが、由来はその容姿から来ている。外国人の血も混ざっている彼女は、髪の色が薄ら水色が混ざった白色で、瞳もサファイアブルーのように綺麗で人の目を惹きつけ、男子からの評判は非常に高かった。 だがその名前の理由は評判とは別のものからきている。 ーある日の教室にて、 「ひ、氷室さん、きょ、今日の放課後時間ある?」 ある一人の男子が勇気をもって華に話しかけた。顔も少し赤くして言葉を震わせている辺り相当勇気を振り絞ったのだろう。 しかしそれに対して華は、その男子生徒に対して表情一つ変えることなくこう返事した。 「ごめんなさい、私暇じゃないから」 「け、けど! そ、その大事な話が」 「私は貴方と話をしている時間もないし、忙しいの」 「そ、そんな」 「それじゃあ」 今思い返せばあの男子生徒は華に告白をするつもりだったのだろう。しかし華はその話の舞台にすら立つことすらせずに、ただ冷たく男子を突き返したのだ。 「なあ華、今の」 「何?」 「いや、別に何でも」 これが一回であればよかったのだが、華はこれを男子生徒は愚か同じ女生徒に対しても取るのだから自然と評判が悪くなる。そしてその結果生まれた彼女の異名が、 『氷華』 彼女の名前から取ったであろうその異名はいつしかクラス、いや学年中に知れ渡ることになったのだった。 と、ここまで説明すると華は誰の目から見てもただの嫌な人間だ。 だがこれを前提にして俺に対する華の普段の態度を見てもらいたい。 「亮太、一緒に帰ろう」 放課後幼馴染だからという理由だけで一緒に家に帰ってくれるし、 「亮太、手を繋いでくれる?」 こんなおねだりだってしてくる。 (ツンデレとかじゃなくて、明らかに俺の前だけではデレしかないんだよなぁ) 俺の華に対する評価は、学校のそれとは全くの反対で、氷室華という人物は甘えん坊で、こっちが何かアクション起こすとすぐ照れたりして、時々冷たいところもあるけど学校のような態度は一度も取ったことはない。 ーつまり何が言いたいかというと、 「どうしたの、亮太。私の顔をずっと見て」 「い、いや、何でもない」 俺の幼馴染みがただただ可愛い、それだけだ。 3 その前提の上で話を今に戻すわけだが、 「そ、それって告白として受け取っていいのか?」 そんな可愛い幼馴染からある日突然告白なんてされたら、俺はどうにかなってしまいそうだ。 (俺が華の彼氏になって、本当にいいのか?) 一度は挫折しそうになった夢を、叶えてしまっていいのだろうか。俺にはその権利が果たしてあるのだろうか。 そう思って華の次の言葉を期待していると。 「ちがう、の。いや、ちがくないんだけど、仮、そう仮の彼氏になってほしいの!」 彼女の言葉は俺の夢を簡単に打ち破っていったのだった。 「か、仮の彼氏?」 落ち込む自分の気持ちを何とか抑えながら俺は華に尋ねる。 「そう、仮の彼氏。亮太には私の彼氏を演じてほしいの」 「演じるって、まさかまた縁談の話でも持ってこられたのか?」 「それも、あるんだけど、ね。じつは、別の問題も起きてしまって」 「別の問題?」 「亮太は何度も見たことがあると思うんだけど、私に、その、告白をしようとしてきた男子生徒が何人かいたでしょ?」 「何人というか何十人もいたな。先輩後輩含めて」 彼女は俺が見てきた中では間違いなく二桁近くの男子生徒の夢を簡単に切り捨ててきた。 誰かがいつか壁を突破するんじゃないか。 そんなことを考えてヒヤヒヤしていたけど、未だに突破されたことはない。 (そして俺も突破できなかったんだな) 仕方がないとはやっぱりどうしても引きずってしまう自分がいる。 「その中にどうしても諦めきれないのか、はたまた別の理由があるのか、最近私につきまとってくる人がいるの」 「それってつまり、ストーカーってことか?」 「うん」 思っていた以上にかなり深刻な話に、俺は驚かされる。今日の今日までそんな話は一切聞かなかったので、相談してくれなかったことよりも気づけなかった自分が情けなかった。 (ニュースの中での話だと思っていたけど、それが今華の身に起きているのか? 何でもっと俺は早く気づいてやれなかったんだ) 更に気持ちが落ち込みそうになるが、今は彼女の話を聞かなければならない。 「色々対策はしてきたけれどそれでもその人は私のことを諦めきれないらしくて、私もいよいよ打つ手がなくなっていたの。そんな時に部活の後輩からのアドバイスで思いついたのが」 「偽物の彼氏作戦、か」 ようは本物の彼氏さえいればストーカーも諦めてくれるだろうというのが華の作戦らしいが、果たしてそれで解決できるか不安な点はある。 「その作戦単純かもしれないけど、問題点は結構あるよな」 「それはこれから考えていけばいいと思う。それにもうそれ以外に方法がないの。亮太以外にこんな事頼める人はいないし、ダメかな?」 華は少し上目遣い気味で俺を見つめて頼んでくる。彼女にとっては相当勇気のある行動だし、リスク承知なのも理解している。 (俺だって偽物とはいえ華と付き合えるならそれは嬉しい、けど) こんな大事な役目を、俺なんか「お邪魔します」 偽装カップル二日目にして華が提案してきたおうちデートを、断れずに受け入れることにした俺は彼女をそのままリビングに通す。「いきなりおうちデートとかハードル高いって思ったけど、よく考えたらいつも通りの俺達なんだよなこれ......」「何か言った?」「いや、何でもない」 放課後のこの時間に華が遊びに来ることは殆どなかったが、家に来ること自体は日常茶飯事なので特別なことではないのは分かっている。「それで何かやるのか? いつも来ているから知っているだろうけど、俺の家はゲーム以外何もないぞ」「ゲームはいつもしているから今日はいいわ。亮太との時間を過ごしたいし」「そ、そうか」 サラッといつもの調子で恥ずかしくなるセリフを言ってきて思わず俺は口ごもってしまう。当の華は何にも気にしていない様子で荷物を置くとキッチンへと向かった。「けどその前にお腹が減ったわ。何か作るけど材料借りていいかしら」「いいけど、華って料理できたっけ?」「これでも毎日自分のお弁当を作っているんだけど?」「そうなのか? 弁当持ってきているのは知っていたけど、てっきりソフィーヤさんが作っているのかと思った」「最初の頃はお母さんが作ってくれていたんだけど、私も自分で作ってみたくて教えてもらったのよ。それより調理器具とかどこにあるのか教えてくれる?」「華だけに作らせるのも悪いし俺も手伝うよ」 俺もキッチンに入り華の隣に立つと、調理器具を棚から取り出す。華はそれを見て何故か少しだけ驚いた様子を見せる。「どうしたんだ、こっちを見て」「亮太も料理するの?」「お前も人のこと言えないな!」 さっきの仕返しと言わんばかりに俺は華に言い返してやった。 2「そういえば華に聞き忘れていたことがあるんだけど」 料理をしながら俺はあることを思い出して、料理しながら華に尋ねる。
「おはよう亮太ぁ。今日は随分と早いわね」 翌日。 俺は約束した通り華を迎えに行くために、いつもより早起きし、学校へ向かう支度をしていると、寝室から大きなあくびをしながら母親の天野良子が出てきた。「今日も朝帰りだったのか、母さん。身体を壊さないでくれよ」「もう何年この生活していると思っているのよ。息子に心配されるほど母さんは落ちぶれていないわ」「こっちは本気で心配しているんだけどな」 俺の両親は二人とももう四十代後半の年齢なので、息子としては本気で心配はしている。本人たちはそんなこと気にしていない様子だが、いつ倒れるか分からないのが本当に怖い。 「それで何でこんなに早くに起きているのかしら。何か用事でもあるの?」「用事っていうか、その......彼女が出来たんだよ」「え?」「だーかーら、彼女ができたんだって!」 自分たちの両親には真っ先に報告すると華と決めていたにも関わらず、面と向かって報告するのも恥ずかしいので準備をしつつ報告をする。「亮太に彼女? 本当に?」 その報告を聞いた母さんは、さっきまでの眠そうな顔が嘘だったかのように、バタバタと俺に詰め寄ってきた。「本当に本当だよ」「相手は誰なの?」「華だよ」「華ちゃん?! 嘘でしょ?!」 更にその相手を聞いた母さんは驚きのあまり口をあんぐりとさせている。「そんなに驚くことかよ」「当たり前でしょ? 生まれてから昨日までそんな様子を見せなかったのに、いきなり付き合うなんて言い出したら、誰だってビックリするわよ!」「それは、まあ、その通りだけどさ」「これは非常事態よ。あとで挨拶しに行かないと駄目ね」「挨拶って気が早いから! それに俺は今から学校だからな!」 俺の報告のせいで、我が家は朝から大騒ぎの朝になってしまった。 2「という
「この公園、昔からよく遊んでいたわよね。懐かしい」 華の誘いをそのまま受けることにした俺は、華と一緒に自宅近くに公園に立ち寄った。この場所なら何かあったらすぐに家に帰れるだろうし、多少遅くなっても問題ないはずだ。「小学生の頃は毎日のように来ていたもんな」「亮太が無理やり外に連れ出したんでしょ? 私は家で遊びたかったのに」「毎日家で遊んでいたら体が鈍るだろ? 少しでも外で体を動かさないとダメだって思っていたんだよ」「今とは大違いね」「うるせえ」 二人で公園にあるブランコに腰掛ける。幸いこの時間この辺は人通りが少なく、静かで話をするにはもってこいだ。「こういう時間に二人で公園にいるって何か新鮮だな」「しかも亮太と一緒というのが少し新鮮かな」「それも恋人同士になって、な」 昨日までの自分は果たして想像できただろうか。華が恋人になって、今こうして同じ時間を過ごすことになることを。「昼間、私にそういう関係になってほしいって言われたとき、偽物とかそういうの抜きにして亮太はどう思った? やっぱり嫌だった?」「さっきも言ったと思うけど、別に嫌とか思ったりはしなかったよ。華とそういう関係になるのも悪くないと思ったし、何よりそんなことは二度とないと思っていたから」「それは......あの事があるから?」 俺はその質問には答えずに、ブランコを漕ぎ始める。「前からずっと言っているけれど、亮太は何も悪くないのよ? お父さんだって過剰に反応しすぎだし、何より私はもう立ち直れている。だから亮太だけが気を負う必要なんて」「それでも俺は自分が許せないからいいんだよ。むしろ華の方が俺のことで気を遣う必要ないし、今はストーカーの方の問題を解決しないと駄目だろ?」「それはそうかもしれない、けど」「それにさっき華が言ったように今は過去のことは気にせずに華に協力する。今はそれでいい」「亮太......」
華と偽物のカップルを演じることになるにあたり、具体的にどうやってストーカーに俺たちの関係を認識させるか、そこから考えることから話が始まった。「その相手は同じ学校の人間なんだよな?」「そうよ。同じ学校の一つ上の先輩」「相手は先輩、か。となると学校でも目立つ行動をしないとダメって事か」「勿論それもあるけれど、学校以外にでもやれることがあるでしょ?」「学校以外で?」 華がそう前置きして、作戦の最初の 段階として提案してきたのが、「まさか付き合って初日からデートに行くことになるとは」 いきなりの初デートだった。 ただプランとかは一切なく、とりあえず映画館へ二人で向かい映画を見る。ただそれだけのどちらかと言えばお出かけに近いデートだ。 でも、そんなデートでも、「亮太、手を繋いでくれる?」「あ、ああ。勿論」 ただ手をつなぐという行為だけでもやはりドキドキしてしまう。俺が華に手を差し出すと、彼女はごく自然に手を繋いできた。「やっぱり少しだけ恥ずかしいなこれ」「何か言った?」「いや、何でもない」 俺と華は手をしっかり繋ぐと目的地の映画館へ向けて歩き出す。「こうやって華と手を繋ぐなんて何年ぶりだろうな」「さあ? でもこうしてまた手を繋げて私は嬉しいわよ。もうそんな機会なんてないだろうって思ったから」「それは俺も同感だ。成長していくにつれてそういうのって恥ずかしくなるんだよな。そういうのが大人になるってことなんだろうけど」「大人と言えるほどの年齢ではまだないけど、私達」「ちょっと言ってみたかっただけだから、冷めた目で言わないでくれ」 付き合い出しても俺たちの会話はいつも通り。でも手はしっかり繋がれていて、むしろ華の方が離したくないと言わんばかりに強く握っていた。(無意識なのかそれとも、意図的なのか分からないけどつくづ