死んだはずの私は執刀医私は藤崎静香(ふじさき しずか)。
岸本大輔(きしもと だいすけ)と婚約する前日、彼の幼なじみ・雨宮雅美(あまみや まさみ)が、私にピアノを弾く手を折られたと嘘をついた。
激怒した大輔は、私を無理やり海外の医療支援チームへ送り込み、そのまま見捨てた。
それからほどなくして、彼が向こうで結婚するという知らせが届いた。
誰もが、私がその日のうちに飛んで戻り、式をぶち壊しに来ると賭けていた。それほどまでに、私は彼を愛していたからだ。
けれど彼は、式が終わるまで待っても、私からの連絡をひとつも受け取れなかった。
私は海外で死んだも同然と思われ、そのまま完全に姿を消した。
五年後。
救急に、交通事故で重傷を負った患者が運び込まれてきた。家族は名指しで院長の執刀を求めた。
手術室で、私はマスクをつけたまま静かにメスを取る。
「麻酔、準備して」
まだ麻酔が入る前だった彼は、いきなり私の手首をつかんだ。
次の瞬間、目に涙をにじませる。
「静香……お前か?」
私はその手を振りほどき、冷えた目で麻酔担当の医師を見る。
「患者が興奮しています。量を増やして」