ビタースウィート高杉達也(たかすぎ たつや)がいちばん貧しかった頃、客の接待で無理やり酒を飲まされ、腹の中は酒でいっぱいだった。
家に帰ったときにはもう足元もおぼつかず、それでもふらつきながらポケットの中をまさぐって、溶けかけたチョコレートを二つ取り出した。
「なあ、これ食べて。君の好きなやつだ」
その後、何度も言い争いをした日々の中で、私はいつもあの二つのチョコレートを思い出していた。
だからこそ、何度も譲ってしまった。彼のために仕事を辞め、妊娠し、そして流産した。
けれど、さっき、彼のパソコンに開かれたままのチャット画面を見てしまった。
チャットの中で、彼の友人が言っていた。【春奈さんが会社に入ったこと、奥さんはまだ気づいてないよな?】
【春奈さんが海外に行った年、達也さん、街中を探し回ってさ。春奈さんの好きなチョコレートをどうしても見つけたくて、あのとき、結局引き留められなくて、泥酔して泣きながら帰ってきたよな】
【その時、俺は思ったんだ。達也さんはもうあの人なしじゃ生きられないって】