夫を譲ったのに、戦地まで来られた新婚の夜、夫は祝宴の酒に口をつけることもなく、仏間へ向かった。
この冷徹で気高い男が、最初から最後まで愛していたのは私の妹だけだったから。
三年続いた結婚生活で、私は心血を注いで氷のような人を温めようとしたが、返ってきたのはさらに骨まで凍るような冷たさだけ。
「川口希咲(かわぐちきさき)、仏門に帰依する方がましだ。君を愛することなどない」
しかし、トラックが轟音をあげて迫ってきた瞬間、私を一生憎み続けたその男は、命がけで私を救った。
意識を失う直前、彼が医者の腕を掴みながら血を吐く姿を見た。
「この女に、誰が助けたか言うな……
僕の家族にも、彼女を責めさせるな……」
私は涙に曇った視界で、ようやく悟った。
この結婚で過ちを犯したのは、彼一人ではないのだと。
生まれ変わった私は、国連平和維持軍に参加し、最前線へ赴くことを選んだ。
今世で白髪が生え変わるまで添い遂げられないのなら、せめて願う。
彼が歳月を穏やかに過ごし、そして二度と出会うことがありませんように。