清風、余年に寄せて御影彰仁(みかげ あきひと)は私の専属執事だった。
何度想いを告げても、そのたびに彼に拒まれてきた。
だが、私と御影家の後継者との間に、幼い頃からの許婚があったと知ったとき、彰仁はようやく私の想いを受け入れてくれた。
彼と駆け落ちするため、私は父に婚約解消を申し出た。
いつも利益第一の父が、あっさり承諾したうえに、彼の大事な私生児――白川芹奈(しらかわ せりな)を代わりに嫁がせるつもりだと言い出したのだ。
この朗報を彰仁に伝えようとしたそのとき、街路に停まっていたマイバッハのリムジンの中で、彼を見かけた。
彼は切なげに芹奈の写真へ唇を寄せ、指先でそっとなぞり、瞳いっぱいに愛情を滲ませていた。
あの車のナンバープレートを見た瞬間、私はすべてを悟った。
そう――彰仁こそが、御影家の後継者だったのだ。
私は静かに踵を返し、家へ戻った。
そして父に、もう一つの条件を突きつけた。