婚約者が助けたのは高熱の私ではなく、秘書の犬だった私が40度の高熱を出したとき、私の婚約者、馬淵陸也(まぶち りくや)の女秘書が駆け寄ってきて、病院へ向かおうとしていた私たちを引き止めた。
彼女は胸に小犬を抱きかかえていた。真っ赤な目で陸也を見つめ、彼の手を掴んだ。
「どうしよう。ころちゃんがお腹をこわしちゃったみたい。全部私のせいなの…」
陸也はあれこれいわず、さっと子犬を抱えあげると振り返りもせずに行ってしまった。
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一人病院で受付を終えて点滴を受けているとき、インスタで陸也の女秘書、田中麻鈴(たなか まりん)のストーリーをみた。
【ママが馬鹿なばかりにわんちゃんクッキーを半分もあげてしまったから…パパがいてくれてよかった】
投稿されていたのは子犬が注射を受けている動画だった。陸也が彼女をなぐさめる声が聞こえた。「大丈夫。心配しなくていい。俺がいるから」
この投稿を見ていたら、熱のせいなのか、心が冷えきっているからなのか、身震いがした。
彼女のストーリーにいいねを押して、すぐに一週間後の新幹線のチケットを予約した。
三人の世界はあまりに窮屈だ。もう耐えきれない。