一文無しを演じた夫への復讐夫には奇妙な癖がある。ごっこ遊びだ。
彼のシナリオで、私はいつも『捨てられる古女房』。
けれど彼自身は、家政婦に恋した社長や、教え子に恋した教授など、その時々で自分勝手に配役を変えて楽しんでいた。
そして、その度に彼は私に離婚届を突きつけ、署名させる。
だが翌日には、それを笑いながら破り捨てるのだ。
「愛してるよ。これただのごっこだからさ」
そんな日々は、母が事故に遭うまで続いた。
手術費に400万円が必要になった時、彼は破産した貧乏人の役を演じていた。
「俺は破産して一文無しなんだよ。どこに義母さんの治療費なんて出せるもんか?」
私は目の前で、母の息が絶えるのをただ見守るしかなかった。
葬儀の日。彼は若く美しい女子大生を連れて、私の前に現れた。
「カナ、俺は教え子と本気の恋に落ちてしまった。離婚してくれ」田村青陽(たむら はるや)は鞄から離婚届を取り出し、私に差し出した。
今回は、彼が破り捨てるのを待たなかった。