99回目の拒絶のあとに訪れる涙鷹野家の後継ぎであり、一族のナンバーツーである夫・鷹野怜司(たかの れいじ)は、今日も私の電話を無視した。
白血病の末期を抱えた私は、ふらふらの体で家の顧問弁護士を訪れる。
「すみません、離婚の手続きをお願いします」
その十数分後、怜司と家族たちが大慌てで事務所に押しかけてきた。
怜司は、私の顔を見るなり平手打ちを食らわせた。
「咲(さき)の昇進パーティを妨害したくて、緊急連絡番号を使ったのか?お前、頭はどうかしてるんじゃないか?」
私がしっかりと握っていた診断書は、母に無理やり奪われる。
母はちらっと診断書を見て、あざけるように鼻で笑った。
「またその手?仮病で同情を引いて、みんなの気を引きたいだけでしょ。澪(みお)、あんたは小さい頃から嘘ばかりついてきたじゃない」
妹の咲は、涙を浮かべて怜司の腕にすがる。
「ごめんね、お姉ちゃん。私なんかが昇進しなければよかったんだよね……だから、もう自分や怜司さんを傷つけたりしないで」
私は唇から滲む血をそっと拭って、弁護士をまっすぐ見つめた。
「……私にはもう、家族なんていません。三日後に遺体を火葬できるよう、離婚の手続きを急いでもらえますか」