BL小説短編集

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last updateLast Updated : 2025-10-27
By:  相沢蒼依Updated just now
Language: Japanese
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現代物から異世界転生など時間軸はいろいろあります。キャラクターも年下攻めや執着攻め、誘い受けなど様々!アナタが好きなシチュエーションがきっとあるはず♡

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Chapter 1

挨拶からはじまる恋

「おはようございます。元気ですか?」

「お疲れ様です。元気ですか?」

「出張に行ってたんですか? 久しぶりですね、元気ですか?」

 顔を合わせるたびに、かけられるワンパターンの言葉。

(毎度毎度、俺の元気度を測ってどうするんだか――)

 仕事に余裕があるときや、体調がいいときに限って簡単にやり過ごせるその挨拶は、いつしかメンタルの上下を知るためのバロメーターになっていた。

「いつも言ってるだろ、元気だって。他のヤツにもそういう声がけをして、何を探ってるんだか」

「他の人にはしてません。する必要がないですし」

「は?」

 あっけらかんとした感じで答えられたせいで、まともな返事ができなかった。

「そうですね。お互い別の部署にいるから、仕事の話をしたくても無理そうだし、近寄りがたいオーラがある人に話しかけるきっかけが、どうしても思いつかなくて」

「近寄りがたいオーラなんて、出してるつもりはない」

「思いっきり出してますよ。今も眉間に皺を寄せて、おっかない雰囲気を醸してます」

「む……」

 新入社員のくせして、見るからに仕立ての良さそうなスーツを身に着け、銀縁眼鏡の奥から覗く瞳が、面白いものを見るように細められた。その余裕のある態度が気にいらない。

「先輩は僕に訊ねてくれないですよね、元気かって」

「必要なしと判断しているからな」

 顔を見ただけで、元気なのが分かりすぎる。

「訊ねてくれたら、そこから会話が生まれるのに。いつでもいいので、訊ねてくれませんか?」

「そういう営業は、客としてくれ。俺は忙しいんだ」

 ひらひらと右手を振りながら、素っ気なく背中を向ける。いつもこのパターンで、くだらないやり取りを終えていた。どうやら本日のメンタルは、調子がいいらしい。

 歩き出して右手を降ろしかけた刹那、手首を掴まれる。その手から伝わってくる体温は、あきらかにおかしいと感じさせるものだった。

「おいおまえ、熱があるんじゃないのか?」

 コイツは、熱があるのを隠していた――ひとえに心配してほしくて「元気かって」訊ねてほしかったとは。不器用にもほどがあるだろ。

 慌てて振り返り、背の高いアイツを見上げる。窓から差し込む光のせいでレンズが反射し、見慣れたまなざしを見ることができない。だからこそ、よく観察してみる。頬に若干の赤みがあるように見受けられた。

「今だけ限定で、熱が出てます」

 何でもないと言わんばかりに、へらっと笑いながら告げるセリフを聞いて、眉根を寄せてしまった。

「ふざけたことを言うな。もっと自分を大事にしろよ」

「あと何回「元気ですか?」って訊ねたら、僕のことを気にしてくれますか?」

「気にする、だと?」

 自分にかまってほしい言葉にしてはおかしなものだという、妙な引っかかりを覚えた。

「先輩のことが好きなんです!」

 告げられた瞬間、掴まれている手首が、痛いくらいに握りしめられた。痛みの原因に視線を落としてから、苦情を述べるべく顔を上げると、大きな影が俺を覆い隠す。

『好きとか、わけのわからないことを言ってないで、この手を放せ!』

 そう文句を言いたかったのに、熱くて柔らかい唇によって、自分の唇を塞がれてしまった。

 背筋がぞわっと粟立つ勢いをそのままに、左手が反射的にアイツの頬を叩く。

 パーンと廊下に響く音が、平手打ちの強度を示していた。振りかぶった手のひらが、痺れるように痛む。

「あ……」

 頬を叩かれたアイツは、目を見開いたまま固まる。

 俺は急いで周囲を見渡し、さっきのことが見られていないかをチェックしてから、新入社員の襟首を掴み、傍にある【空き】と表示されている会議室に引っ張り込んだ。

「おい、いきなり何をしやがる、この馬鹿野郎!! あんなの誰かに見られたら、ふたりそろって変な目で見られるだぞ」

「すみません。手首を掴んだら、その逞しさにムラッとしてしまい、理性が抑えきれなくなりました」

 痛む頬を擦りつつ、心底すまなそうに謝ってきたのに、告げられたセリフが途中からおぞましいものになったせいで、じわじわと後退せざるを得ない状況に変わった。

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挨拶からはじまる恋
「おはようございます。元気ですか?」「お疲れ様です。元気ですか?」「出張に行ってたんですか? 久しぶりですね、元気ですか?」 顔を合わせるたびに、かけられるワンパターンの言葉。(毎度毎度、俺の元気度を測ってどうするんだか――) 仕事に余裕があるときや、体調がいいときに限って簡単にやり過ごせるその挨拶は、いつしかメンタルの上下を知るためのバロメーターになっていた。「いつも言ってるだろ、元気だって。他のヤツにもそういう声がけをして、何を探ってるんだか」「他の人にはしてません。する必要がないですし」「は?」 あっけらかんとした感じで答えられたせいで、まともな返事ができなかった。「そうですね。お互い別の部署にいるから、仕事の話をしたくても無理そうだし、近寄りがたいオーラがある人に話しかけるきっかけが、どうしても思いつかなくて」「近寄りがたいオーラなんて、出してるつもりはない」「思いっきり出してますよ。今も眉間に皺を寄せて、おっかない雰囲気を醸してます」「む……」 新入社員のくせして、見るからに仕立ての良さそうなスーツを身に着け、銀縁眼鏡の奥から覗く瞳が、面白いものを見るように細められた。その余裕のある態度が気にいらない。「先輩は僕に訊ねてくれないですよね、元気かって」「必要なしと判断しているからな」 顔を見ただけで、元気なのが分かりすぎる。「訊ねてくれたら、そこから会話が生まれるのに。いつでもいいので、訊ねてくれませんか?」「そういう営業は、客としてくれ。俺は忙しいんだ」 ひらひらと右手を振りながら、素っ気なく背中を向ける。いつもこのパターンで、くだらないやり取りを終えていた。どうやら本日のメンタルは、調子がいいらしい。 歩き出して右手を降ろしかけた刹那、手首を掴まれる。その手から伝わってくる体温は、あきらかにおかしいと感じさせるものだった。「おいおまえ、熱があるんじゃないのか?」 コイツは、熱があるのを隠していた――ひとえに心配してほしくて「元気かって」訊ねてほしかったとは。不器用にもほどがあるだろ。 慌てて振り返り、背の高いアイツを見上げる。窓から差し込む光のせいでレンズが反射し、見慣れたまなざしを見ることができない。だからこそ、よく観察してみる。頬に若干の赤みがあるように見受けられた。「今だけ限定で、熱が出てます」
last updateLast Updated : 2025-10-20
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挨拶からはじまる恋2
「悪いが俺は、そういう趣味はない。諦めてくれ」「諦めることができたら、とっくにやってますよ。半年間も時間かけて挨拶だけをするような、無駄な接触なんてしません」「よくもまぁ、こんな俺のために半年も……」 呆れた声を出しながらも、隙を見せないように警戒を怠らなかった。目の前にいる新入社員の目の色が、ふたりきりになった途端に、がらりと変わったせいだった。 たとえるなら尊敬のまなざしが、粘着力を感じさせるイヤラしい眼つきに変わったといったところだろうか。男相手に欲情するなんて、意味が分からない。「半年の間に、挨拶をしながら想いを募らせました。どうかこの恋心を受け取ってくださいなんて、ワガママは言いません」「これ以上我儘を言うな、変なものを募らせるな、とっとと諦めてくれ!」 大声で叫びながら、ふたたび後退りをして、しっかり距離をとる。背中を向けたら、そのまま襲われる可能性があると考えた。「ただ、一度だけでいいんです。僕の躰をぎゅっと抱きしめて――」 細長い二の腕を使って自分自身を抱きしめる新入社員の姿に、逃げる気力を奪うような、何とも言えない悪寒が走った。「だっ、抱きしめるわけないだろ」「先輩の熱い杭の先っぽだけでいいので、僕の中に挿入してほしくて」「男相手に絶対に勃たない! 無理なことを頼むなよ」 思いっきり上擦った俺の言葉に、銀縁メガネをくいっと上げながらクスクス笑いだす。「安心してください、僕は勃たせる術をいろいろ持っています。それに、先輩は断れないはずでしょう?」 メガネをあげた反動で、蛍光灯の光を受けたフレームの縁が、きらりと煌めく。たったそれだけのことで、新入社員の自信が満ち溢れているように見えてしまった。「何を言ってるんだ……」「僕に暴力を振るっておきながら、言い逃れをするんですか?」 叩いた頬に指を差しながら、ここぞとばかりにアピールする。叩かれたその部分は、いい感じに腫れあがっていた。「だっておまえが、先に手を出してきたんだろ」 色白の肌に手形がはっきりついているそれは、思いっきり暴力の証になるのが明白で、後退っていた俺の足を止めるものになった。「その証拠は、どこにあるのでしょうか?」「くっ、それは――」 まさに痛いところを突かれて、ぐうの音も出ない。「慰謝料として、僕を抱いてください。それとも、僕が先輩を抱
last updateLast Updated : 2025-10-20
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恋の撃鉄(ハンマー)
 弓矢を持つ少年キューピッド。その矢に当たった者は、恋心を起こすという。 だけど僕としては弓矢の精度を考えると、そんな古代武器よりも、リボルバー式の拳銃がいいなと思っていた。 なんといっても確実に命中させやすい武器で、見た目もカッコいい。自動拳銃ならトリガーを引くだけで連射が可能だから、さらに精度が上がる。 だけど相手はノンケ――簡単にトリガーを引くことができない。安全装置という名の一線が、自分の想いを際どいところで押し留める。 きっかけは、通勤に使っている電車だった。 親のコネで入社した会社に通うために、仕方なくいつもの時間に満員電車に乗っていた。次の駅で下車しなければと、持っていたカバンを抱きしめて降りる用意をしていたそのとき。「おまえ、何やってんだ!」 隣にいた男の怒鳴り声に驚いて、躰を竦ませる。「うっ、いきなり何をするんですかっ」 何もしていない自分が怒鳴られたと思ってびくびくしていたら、男の傍にいる若い男が逃げようと、こっちに向かってきた。 怒鳴り声をあげた男が逃げかける若い男の動きを阻止しながら、自分の名字を突然叫ぶ。「えっ!?」「ボケっとしないで、コイツを捕まえるのを手伝え。痴漢していたんだ」 持っていたカバンを小脇に抱えて、すぐさま若い男の腕を掴んだ。男と自分に取り押さえられたことで観念したのか、若い男はがっくりうな垂れて大人しくなる。「ちょうどいい。ソイツが持ってるスマホを取りあげてくれ。盗撮してる可能性がある」「あ、はい!」 テキパキと指示を出す男の顔には、どことなく見覚えがあった。同じ会社で、何度かすれ違っていると思われる。「大丈夫でしたか。すぐに気づいてあげられなくて、すみません」 痴漢されていたと思しき女性に優しく声をかけながら、何度も頭を下げる男を、ちゃっかり盗み見た。 正直、見た目は格好いいとは言えない。 武道家にいそうな、厳つさを強調する強面系の顔はモテる要素がない上に、背もあまり高くなかった。だけど鍛えてるっぽく感じさせる胸板の厚さやがっしりした下半身を、電車を降りながらしっかり観察させてもらう。(はうっ、体形はどストライクだ。あの逞しい二の腕に強く抱きしめられながら、鍛えられた下半身の力を使って、奥をずどんと貫かれたりしたら、その衝撃ですぐにイケる自信がある!)「おい!」「うっ、はい
last updateLast Updated : 2025-10-20
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恋の撃鉄(ハンマー)2
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last updateLast Updated : 2025-10-20
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煌めくルビーに魅せられて
出逢い 深夜午前0時、バイト先の居酒屋の店先から出た瞬間、盛大なため息をついて、夜空を見上げた。まん丸い月が、目に眩しく映る。「今夜も疲れたなぁ……」 バイト中は大きな声でオーダーをとっているため、独り言は覇気のない掠れた声になる。 居酒屋から自宅アパートまで、徒歩15分の道のり。信号のない交差点を、肩を落として歩く。若干ふらついた足取りだったせいで、向かい側から来た人とすれ違いざまに、肩がぶつかってしまった。「すみません」 疲れていたこともあり、小さく頭を下げてやり過ごそうとしたら、いきなり腕を掴まれる。「えっ?」 見知らぬ男にそのまま腕を引っ張られ、なにかの店舗とビルの狭い隙間に体を押し込まれた。「な……」 狭い空間に差し込む街明かりが、目の前にいる男の姿を照らす。 街灯の僅かな光を受けて輝くシルバーの髪。その長い前髪の下に位置する血を思わせる赤い瞳は、ゾクッとするほど、異様なものだった。俺に視線を注ぐルビーのように煌めく瞳に見惚れていると、見知らぬ男が低い声で囁く。「そのまま、じっとしていて」 その声を聴いた瞬間、頭の中がなんだかほわほわして、体の力が見事に抜け落ちた。見知らぬ男は抵抗することなく棒立ちになる俺に抱きつき、首筋に顔を寄せる。「っ、ぁあっ」 首筋に吐息がかけられたと同時に、べろりと素肌を舐められ、なにかが突き刺さる感触を覚えても、体にまったく力が入らないせいで、されるがまま状態だった。(――このままじゃヤバい、なんとかしなきゃ!)「やっ! やめろっ、いやだ!!」 体に力が入らないが、声は出すことができた。目を瞬かせて、斜め下を見たら。「マズ……っていうか、なんで催眠にかからないんだ?」 見知らぬ男はビルの壁に向かって、俺の体を放り投げた。ふらつきながら後退し、ビルの壁に背中が打ちつけられるのを防ぐ。「さ、催眠? アンタいったい、なんなんだよ?」 シルバーの髪に赤い瞳、服装は黒っぽいスーツを身に纏
last updateLast Updated : 2025-10-20
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煌めくルビーに魅せられて2
似たもの同士 すでに閉園しているテーマパークは、小学生のときに家族で来たことがあった。「どれだったかな、んー……」 俺の隣でスーツのポケットに手を突っ込み、なにかを探す桜小路さんに話しかける。「なにしてるんですか?」 すると両手に持っている鍵の束を俺に見せて、ニッコリほほ笑む。「このたくさんついてる鍵の中から、門扉の鍵を探していてね。どれだと思う?」 ジャラジャラ音をたてて、たくさんの鍵を見せびらかす桜小路さんに、うんとイヤな顔をしてみせた。「そんなの、わかるわけないじゃないですか」「だよな。だから奥の手を使おうと思ってね」 桜小路さんは持っていた鍵の束をポケットに戻すと、最初に逢ったときに見せた、吸血鬼の姿に早変わりする。「わっ……」 淡い月明かりに光り輝くシルバーの髪と、俺を見つめるルビー色の瞳がとても綺麗に目に映る。「今夜は満月だろ、そのせいで血が騒いでしまってね。君にはこの姿を無理して隠さないで済むから、すごく楽だな」 言いながら俺の体を軽々と横抱きにし、数歩だけ後ずさった次の瞬間、助走をつけて高い門扉を飛び越えた。「ひいぃっ!」 勢いよく門扉の上を飛び越えたのに、着地したときの衝撃はまったくなく、気づいたらテーマパーク内の地に両足がついていた。「SAKURAパークに、ようこそお越しくださいました!」 桜小路さんは胸に手を当てて、俺に深くお辞儀をする。「やっ、待ってください。勝手に入って、大丈夫なんですか?」「安心しろ、俺はここの関係者だ。そこにあるベンチに座って、待っていてくれ。すぐに戻る」 ひょいと肩を竦めて、颯爽と目の前から消えていく後ろ姿は、暗闇の中に溶けていなくなってしまった。 しんと静まり返るテーマパーク。あまりに静かすぎて、幽霊が出てきてもおかしくない。だって――。「俺ってば、吸血鬼に連れ去られたようなものだし」 ベンチに座る余裕もなく、その場に立ち尽くしていると、バンッという大きな音と同時に、テーマパーク内の明かりがいきなり点灯した。「うっ、眩しぃ」 暗闇に目が慣れていたせいで、アトラクションを照らす煌びやかなライトが、ものすごく目に突き刺さる。「お待たせ。なんだ、渋い顔をしてるな」「ライトが眩しいんです」「だったら眩しいのを忘れるくらいに、夜遊びするがいい」 桜小路さんは俺の利き
last updateLast Updated : 2025-10-21
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煌めくルビーに魅せられて3
 椅子の上に突っ伏している、苦しそうな桜小路さんの体を強引に起こし、自分を見るように頬に手を添えた。「おいしくない俺の血だけど、それで桜小路さんのつらいのがなくなるのなら、どうぞ吸ってください!」「ううっ……積極的に提供してくれるのはありがたいのだが、君の血は本当にマズいからね」「良薬口に苦しですよ、さあどうぞ!」「プッ、ふははっ」 俺としては真面目に言ったつもりなのに、桜小路さんは思いっきりイケメンを崩して笑いだした。「なんで笑うんですか」「だって、おもしろいことを言うものだから。君の血は薬ね、なるほど。だったら遠慮なく、いただくとしよう」 頬に触れている俺の手をとり、やるせなさそうな面持ちで甲に唇を押しつける。「すぐに終わる、体を楽にして」 桜小路さんは、椅子の前に膝立ちしている俺の体をキツく抱きしめ、首筋をペロリと舐めてから、鋭い犬歯を突き刺した。「くっ……」 全然痛くないものの、皮膚を傷つけられている感触があるため、見事に脳がバグる。それと耳に聞こえる血を吸う音が、妙に艶かしい。「ンンっ」 マズさを堪能するように血を吸われていると、なんだか体の奥が熱くなってきた。(――というか股間がどんどん大きくなってるのは、どうしてなんだ?) それを知られないようにすべく腰を引いたら、体を抱きしめる桜小路さんの両腕に力が入り、俺の動きを阻止した。「桜小路さ、もぅやめっ。変な気分になってきた」「変な気分?」 首筋から顔をあげた桜小路さんの唇に、薄ら血がついていて、それが口紅に見えてしまい、その色っぽさに胸がドキッとする。「やっあの、あまり血を吸われると、貧血みたいにクラクラするというか、えっと」 ほかにも、有り得そうな理由をつけて言い淀んでいると、桜小路さんは無言で俺の下半身に触れた。「ヒッ!」「つらそうだな。抜いてやろうか?」「けけけけっ結構です、触らないでくださいっ」 慌てて下半身に触れている手を外し、前かがみになる。「瑞稀がこうなったのは、きっと俺のせいだ。吸血鬼の唾液の成分に、体が卑猥になる作用があるのかもしれない」「卑猥って、そんな成分が含まれているなんて」「俺も知らなかった。いつも相手に催眠をかけて、無反応な人間の血を吸っていたからね」 桜小路さんは気難しそうな表情で俺に顔を寄せ、いきなりキスをした。唇
last updateLast Updated : 2025-10-22
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煌めくルビーに魅せられて4
*** 適度に体が沈む大きいベッドの上で、全身に残った気だるさが原因で目が覚める。自分よりも逞しい腕枕と俺を抱きしめるように背後で眠る、あたたかな存在を感じて、ぶわっと頬に熱をもつ。 観覧車のゴンドラ内では、キス以上されなかったものの、与えられた吸血鬼の唾液の影響で、いつ破裂してもおかしくないくらいに、体が火照ってしょうがなかった。 そんな体の諸事情で困り果てる俺を、桜小路さんは軽々と横抱きにしながら、SAKURAパークをあとにする。いつの間にかメインストリートにハイヤーを呼びつけていて、一緒に彼の住むマンションに帰った。『SAKURAパークでたくさん遊んだから、汗もかいているだろう? 先にシャワーを浴びるといい』 そう言って、着替えとタオルを手渡されたので、すぐにお風呂をいただいた。火照った体と熱り勃ったアレを、早くなんとかしたかったのもある。「はあぁ、吸血鬼の唾液をたくさん飲んじゃったもんな。1回で終わる気がしないよ……」 ボソッと独り言を呟き、シャワーを浴びはじめてすぐに、浴室の扉が大きく開いた。「わっ!」『瑞稀が苦しそうにしているのは、俺の責任だ。今、楽にしてあげるよ』 吸血鬼の姿じゃない桜小路さんが、逃げかける俺の体を抱きしめ、口じゃ言えない卑猥なコトを進んでシてくれたおかげで、かなり楽になった。それなのに――。『瑞稀は、はじめてだからね。ベッドでは気持ちのいいコトだけしようか』「いえいえ、もう充分に気持ちイイことをしていただいたので、おなかいっぱいです」(とはいえ、ふたりして下半身にタオルを巻いただけの恰好というのは、このあとの展開にいきやすいような) 桜小路さんは、絶頂した余韻を引きずる俺の肩を強引に抱き寄せ、移動しながらとても静かな口調で語りかける。『順番が逆になってしまったのだが瑞稀、俺と付き合ってくれないか?』 間接照明が優しく照らすベッドルームの中央に立ち、真摯に俺に向き合った桜小路さんは、吸血鬼の姿に早変わりした。「吸血鬼の俺を怖がることなく、吸血衝動で苦しむ俺に血をわけてくれた優しい君を、好きになってしまった」 両手を固く握りしめ、真っ赤な顔で告白した桜小路さんの姿から真剣みが伝わり、胸が痛いくらいに高鳴る。「カッコイイ桜小路さんが、俺みたいな貧乏学生を好きなんて」『信じられないだろうけど、本当なん
last updateLast Updated : 2025-10-23
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煌めくルビーに魅せられて5
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悪い男
今日は聖バレンタインデー。女のコが好きな男に、想いを込めたチョコを渡す日。そんな大切な日なのに本命の彼女のところに顔を出さずに、俺の家にひょっこり現れたこの男は――。「あっ、あっあぁっ!」 ベッドの上で俺の腰を抱えながら、バックでめちゃくちゃにしていた。ちなみに男には、一目見ただけで心を奪われてしまうくらいの、すごくかわいい彼女がいる。「おまえ、相変わらず感度いいよな。感じるたびに、ナカがよく締まる」 男は喉の奥で笑いながら、背後から筋肉質な二の腕を胸元に伸ばした。そのまま乳首を指先で転がす。とことん俺を感じさせるように、肌をなぞる手の動きや腰使いだけで、今まで散々遊び倒してることが、嫌なくらいにわかった。正直に言えば大好きだった元カレ相手では、こんなに感じたことがない。「はぅっ…あっ…あっ」 激しい腰の動きに合わせてベッドがギシギシ軋んで、ヤっていることをまざまざと思い知らされる。挿入されただけでイキそうになるのは、この男と寝てからだった。それだけ、お互いの躰の相性がいいのだろう。「ちょっと触っただけで、乳首をこんなに固くして。しかも感じるたびにナカが痙攣して、ぎゅんぎゅん締まる。やべぇな、相変わらずエロい躰して、那月」 背中でいやらしく笑う感じが、吐息にのって伝わってきた。「んっ…きもちぃい…ょ。もっとし、てっ…ンンっ!」 喘ぎ混じりに、淫らな啼き声をあげる。するとリクエストに応じた男は、さらにストロークをあげた。「うっ、くっそ、腰止まんね。気持ちよすぎ……」 男の動きと比例するように卑猥な水音と、互いの荒々しい呼吸音が部屋の中に響き渡る。「あっあっ止め、ちゃ、やあっ…いっぱぃ突けよ……もっとぉ!」 興奮する材料になるギシギシという大きな音に合わせて、俺も負けじと腰を振りまくった。「わかってるっ、これ以上ナカ締めんな…っぅうぅ」 胸元にあった腕がふたたび腰に添えられ、これでもかと男のモノが出し挿れされる。激しく貫かれるたびに太ももにまでローションが滴って、お互いの下半身を淫らに濡らした。 ずっと我慢している熱が分身にじわりじわりと集まり、吐き出したくて堪らなくなる。「あっ…んんん、またっ!」「ん、イけよ、っ俺も…」 最奥を強く突かれた衝撃で、頭の中にぱっと綺麗な火花が散った。躰がトロけそうな快感を引き出そうと、内奥にあ
last updateLast Updated : 2025-10-25
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