Masuk現代物から異世界転生など時間軸はいろいろあります。キャラクターも年下攻めや執着攻め、誘い受けなど様々!アナタが好きなシチュエーションがきっとあるはず♡ https://www.youtube.com/watch?v=_UR-mxJ7nM8 挨拶から始まる恋は動画になってます!
Lihat lebih banyak「おはようございます。元気ですか?」
「お疲れ様です。元気ですか?」
「出張に行ってたんですか? 久しぶりですね、元気ですか?」
顔を合わせるたびに、かけられるワンパターンの言葉。
(毎度毎度、俺の元気度を測ってどうするんだか――)
仕事に余裕があるときや、体調がいいときに限って簡単にやり過ごせるその挨拶は、いつしかメンタルの上下を知るためのバロメーターになっていた。
「いつも言ってるだろ、元気だって。他のヤツにもそういう声がけをして、何を探ってるんだか」
「他の人にはしてません。する必要がないですし」
「は?」
あっけらかんとした感じで答えられたせいで、まともな返事ができなかった。
「そうですね。お互い別の部署にいるから、仕事の話をしたくても無理そうだし、近寄りがたいオーラがある人に話しかけるきっかけが、どうしても思いつかなくて」
「近寄りがたいオーラなんて、出してるつもりはない」
「思いっきり出してますよ。今も眉間に皺を寄せて、おっかない雰囲気を醸してます」
「む……」
新入社員のくせして、見るからに仕立ての良さそうなスーツを身に着け、銀縁眼鏡の奥から覗く瞳が、面白いものを見るように細められた。その余裕のある態度が気にいらない。
「先輩は僕に訊ねてくれないですよね、元気かって」
「必要なしと判断しているからな」
顔を見ただけで、元気なのが分かりすぎる。
「訊ねてくれたら、そこから会話が生まれるのに。いつでもいいので、訊ねてくれませんか?」
「そういう営業は、客としてくれ。俺は忙しいんだ」
ひらひらと右手を振りながら、素っ気なく背中を向ける。いつもこのパターンで、くだらないやり取りを終えていた。どうやら本日のメンタルは、調子がいいらしい。
歩き出して右手を降ろしかけた刹那、手首を掴まれる。その手から伝わってくる体温は、あきらかにおかしいと感じさせるものだった。
「おいおまえ、熱があるんじゃないのか?」
コイツは、熱があるのを隠していた――ひとえに心配してほしくて「元気かって」訊ねてほしかったとは。不器用にもほどがあるだろ。
慌てて振り返り、背の高いアイツを見上げる。窓から差し込む光のせいでレンズが反射し、見慣れたまなざしを見ることができない。だからこそ、よく観察してみる。頬に若干の赤みがあるように見受けられた。
「今だけ限定で、熱が出てます」
何でもないと言わんばかりに、へらっと笑いながら告げるセリフを聞いて、眉根を寄せてしまった。
「ふざけたことを言うな。もっと自分を大事にしろよ」
「あと何回「元気ですか?」って訊ねたら、僕のことを気にしてくれますか?」
「気にする、だと?」
自分にかまってほしい言葉にしてはおかしなものだという、妙な引っかかりを覚えた。
「先輩のことが好きなんです!」
告げられた瞬間、掴まれている手首が、痛いくらいに握りしめられた。痛みの原因に視線を落としてから、苦情を述べるべく顔を上げると、大きな影が俺を覆い隠す。
『好きとか、わけのわからないことを言ってないで、この手を放せ!』
そう文句を言いたかったのに、熱くて柔らかい唇によって、自分の唇を塞がれてしまった。
背筋がぞわっと粟立つ勢いをそのままに、左手が反射的にアイツの頬を叩く。
パーンと廊下に響く音が、平手打ちの強度を示していた。振りかぶった手のひらが、痺れるように痛む。
「あ……」
頬を叩かれたアイツは、目を見開いたまま固まる。
俺は急いで周囲を見渡し、さっきのことが見られていないかをチェックしてから、新入社員の襟首を掴み、傍にある【空き】と表示されている会議室に引っ張り込んだ。
「おい、いきなり何をしやがる、この馬鹿野郎!! あんなの誰かに見られたら、ふたりそろって変な目で見られるだぞ」
「すみません。手首を掴んだら、その逞しさにムラッとしてしまい、理性が抑えきれなくなりました」
痛む頬を擦りつつ、心底すまなそうに謝ってきたのに、告げられたセリフが途中からおぞましいものになったせいで、じわじわと後退せざるを得ない状況に変わった。
*** 最後の講義が終わって教室を出たら、躰を左右に揺するように前を歩く、加賀谷の背中が目に留まった。 このままついて行ったら、アイツのあとを追いかける形になる。それが嫌だったので、歩くスピードを思いっきり落としながら体育館に向かう。 のらりくらりと歩いて、階段を下りた先にある体育館の重い扉の前にたどり着いた。中からリズミカルな音が、響いた感じで聞こえてくる。それは聞き慣れた、バスケットボールをドリブルする音だった。 ダンダンダン、シュッ! その場に突っ立ったまま、そっと目を閉じる。しばしの間の後にゴールポストに吸い込まれるボールの映像が、まぶたの裏に流れた。 黄金のレフティから放たれるボールは、絶対に外れることはない。イップスという不治の病にかかった、俺とは違う。彼は選ばれた人間なのだから。 意を決して勢いよく扉を開け放つと目に映ったのは、ジャンプしてボールを手放す、まさにその瞬間だった。 ちょっとだけ襟元がくたびれたTシャツにジーンズといういでたちの加賀谷の姿が、オレンジに濃いブルーのラインが入った、バスケ部のユニフォームを着ている錯覚に陥る。 俺が突然現れたことに驚き、ほんのわずかに後方にジャンプした躰がぶれて、バランスを崩した状態でボールが放たれた。 どんな体勢からでも確実に決めることを、アイツの躰が知っている。だからこそ俺は、この結末の行方がわかっていた。 ガンッ! いつもより大きな弧を描いたバスケットボールは、ゴールポストに軽く接触してから、網の中をゆっくりと落ちていく。「っ、びっくりした……」 加賀谷の声をかき消すように、吐き出されたボールが何度も体育館の床をバウンドする。俺は無言のまま、それをじっと見つめた。「来てくれてサンキューな」「加賀谷、弁解ってなんだよ?」 平らなはずの床を、音もなく転がるボールを見たまま訊ねた。「あのな、好きって言ったけど、あれには深い意味はなかったというか」「深い意味がないなら、あんなことを安易に言うなって」 そのせいでここ数日間、対処に困ったのだ。告白されるという免疫がないせいで、余計に困惑しまくった。「俺さ、高校のとき、全国大会に出てるんだ」「へえ……」 唐突な話題転換に、気のない声で反応した。「最優秀選手賞にも選ばれた」「頭の中身だけじゃなく、バスケも超万能だもんな
***「笹良に話があるんだ」 加賀谷に変なことを言われて以来、気持ち悪くて思いっきり避けていた。それなのに、こうしてしつこく話しかけてくる。「悪いけど、話をする気になれない」 持っている文庫本に視線を落とした。目の前の相手をスルーすべく、栞を挟んだページを素早く開き、印刷された文字を追いかける。「弁解させてほしいんだ!」「弁解?」 必死な様子を表すような声色を聞いて、仕方なく顔をあげた。加賀谷は俺を見ずに、落ち着きなく両目を泳がせながら口を開く。「心にもないことを口走った件について、その……。話の内容が特殊だから、授業が終わってからふたりきりで話がしたい」 ふたりきりで話がしたいというワードに、引っかかりを覚えた。危ない可能性があるのが明白だ。「加賀谷が俺に二度とつきまとわないと約束するなら、顔を出してやってもいい」「ああ、約束する。短時間で済ませるから。場所は」「体育館がいい。今日は練習がオフなんだ」 ふたりきりでも距離がたくさんとれるであろう、体育館を提案したのはナイスだと思える。「わかった。必ず来いよな」 悲壮感を漂わせながら念押しした加賀谷は、俺の視線を振り切るように去って行った。明らかにいつもと違う様子に、嫌な予感が胸の辺りに充満しはじめたのだった。
*** 笹良相手に、不覚にもときめいてしまった。見ているだけで腹が立っていたのに、どうして胸が高鳴ってしまったのか。 かったるいゆえに、勉強なんてさっぱりしていないから、頭がおかしくなった可能性は低いが……。因数分解の公式のひとつ。 >(a+b)^3=a^3+3a^2b+3ab^2+b^3 物理・力学エネルギーE E=K+U ただ公式を覚えるだけじゃ使えない。正しい公式を用いつつ、意識して使わなければ、まったく意味をなさないものになる。そうすることにより、必ず答えが導き出されるのだから。 テストに出される問題のすべてにおいて、答えがあるから書くことができた。たまにわからない問題があっても、なんとかして解き明かし、白紙で回答を出すことなんてしなかった。(しかも今回の問題は、自分の躰に起こったことについてだというのに、さっぱり意味がわからないなんて) もしや連立方程式が恋立方程式になってしまった結果、胸がときめいてしまったというのだろうか。しかもときめいた相手が男なんて、笑い話にもなりゃしない。 この謎を解くために、あえて積極的に笹良と接点を持つべく、話しかけた。以前よりも接点を増やすことで、ヒントがあるんじゃないかと思った。 そう考えたものの、普段気安く喋ったりしない相手だからこそ、自然に話しかける理由がなかなか思いつかなかった。 嫌がられる恐れがある、講義の内容を写させてもらうことを最終手段にして、不自然にならないように話しかけた。 こうして強引にコミュニケーションをとりながら、難題について答えを導き出そうと試みたのに、いまひとつピンとこない。無理やりに写させてもらっているせいか、友達のようなやり取りじゃなく、お互い半分くらいはケンカ腰になってる気がする。 だけど最近、何かがきっかけでバスケの話になった際に、眉根を寄せて俺を見る笹良のまなざしが、シュートを放つ瞬間に見せる表情とリンクすることを発見した。 それ以来、似たような顔を目の当たりにしたとき、ほんの一瞬だけど胸の奥がチリッと疼くようになってしまった。 友達はおろかチームメイト未満の関係だというのに、どうしてこんな反応をするのか。考えがまとまらないまま、時間だけが過ぎ去っていく。 そんな矢先に『おまえが好きなんだ』という爆弾発言をしてしまったのである。
*** 大学でバスケをプレイした、あの日。笹良と同じチームになった。 笹良が気になった理由は、先輩に誘われてバスケの練習試合をし終えたあとに、声をかけられていたからだった。『すごいね。あんなにスリーポイントシュートが決まったら、バスケが楽しくてしょうがないだろう?』 興奮を抑えられない感じで話しかけてきた笹良に、そのときは適当に相槌を打った。そんないい加減な返事をしたというのに、瞳を輝かせながら口を開く。『ずっとバスケをしてきたから、試合でのスリーポイントシュートの難しさを知ってる。君とは違って俺の場合は、どんなに練習しても成果が出なくでね』 ハッキリと言いきった笹良のセリフが気になったこともあり、原因を突き止めようと考え、積極的にボールを回してやった。 見た感じ、悪いところがないように思えた。基本がとてもしっかりしていて、フォームも問題なし。指先から放たれるボールの動きの感じから、ものすごく丁寧に扱っていることがわかった。 ゴールが決まらない他の要因をさがしていたそのとき、俺が苦手だと思う角度からのスリーポイントシュートをすべく、笹良がセットポジションに入る。その姿に、はっとさせられた。 ジャンプした瞬間に飛び散る汗や、舞い上がった衝撃で、躰に貼りつくユニフォーム。他にもボールを放つ繊細な指先の動きのすべてが、スローモーションに見えた。 あまりにも魅入っていたため、ボールが飛んでいく音で、やっと我に返る始末。 笹良が放ったバスケットボールは、大きな半円を描きながら回転し、吸い込まれるようにゴールポストに飲み込まれた。『やった! 久しぶりに決まった。加賀谷、アシストサンキューな!』 嬉しさを表すように破顔した笹良が、俺の背中を叩いてから、セットポジションに戻って行く。 動揺を隠しきれない俺は、その場に突っ立ったままでいた。ボールが目の前を掠めたというのに、カットすることもできない。「今のは、いったいなんなんだ?」 ぞくっとするものが背筋に走った謎の衝撃は、筆舌しがたいものがある。 自分が苦手とする位置からのシュートだったからこそ魅入ってしまったのか、あるいはそれ以外の理由があるのか。原因がさっぱりわからなくて、模索しながらその後も笹良の動きに注目し続けた。『ナイスシュート!』 点差が開いていなかったので、あえて得意のスリーを封