繁花散りて、君への愛も消え果てた病弱な兄を救うため、広瀬時乃(ひろせ ときの)はわずか七歳にして、梶本家が運営する暗殺者訓練キャンプの門を叩いた。
九歳であらゆる武器を自在に操り、十六歳になる頃には、百人の少女たちが殺し合う訓練キャンプを、たった一人生き抜いてみせた。
その修羅場を潜り抜けた実力を買われ、時乃は梶本克樹(かじもと かつき)の前に立つ。彼の身を護る盾――「専属護衛」として。
あの日から時乃は、克樹にとって最も使い勝手の良い「懐刀」だった。
底が見えないほど複雑な梶本家の勢力争い。彼に実権を握らせるためならと、時乃はこの両手を幾度となく血に染めてきた。
昼は背中を預け合う相棒として、夜は熱を分かち合う愛人として。
時乃はこの幸福が、永遠に続くのだと疑いもしなかった。
あの日、克樹を庇って銃弾を受け、意識を失うまでは。
昏睡から目覚めた時乃の耳に飛び込んできたのは、克樹の冷え切った声だった。
「どうだ来幸(こゆき)、この賭けは俺の勝ちだ。言っただろう?多少の隙を見せたところで俺は死なない。時乃は必ず、我が身を挺して俺を救いに来るとな」