翻訳という仕事で頻繁に出くわす語彙のひとつが『軋轢』で、場面や登場人物の関係性によって英語の選び方がかなり変わる。経験から言うと、まず無難で汎用性が高いのは "tension" と "friction" だ。たとえば「部署間の軋轢が表面化した」は "Tension between the departments surfaced" や "Friction between departments came to light" と訳せる。どちらもビジネス文脈でよく使われ、読み手に自然に入る表現になる。
さらにニュアンスを絞るなら、亀裂や決定的な対立を強調したい場合は "rift" や "a rift developed"、もっと敵対的で感情的な衝突なら "conflict" や "antagonism" が適切だ。例として「家族内の軋轢が原因で疎遠になった」は "A rift developed within the family, causing estrangement" とすればニュアンスが伝わる。逆に、些細な不和や摩擦を示すなら "friction" を使い、行為としての「摩擦を生む」は "to create friction" とするのが自然だ。
例を二つ。英語で "Some of the cookies were eaten." と言った場合、多くの人は "Not all of them were eaten" と暗に受け取る(これがスケール含意)。だが話し手が続けて "In fact, all of them were gone" と言えばその含意は簡単に取り消せる。一方で対立はもっと強い。たとえば "太郎は来た" と "太郎は来なかった" は互いに矛盾していて、どちらか一方しか真になり得ない。矛盾は取消しに耐えられないし、文の真理条件に直接関わる。こうした観点から、含意は推測(pragmatic)で、対立は意味的・論理的な関係(semantic)だと理解すれば分かりやすいと思う。