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ある雨の日に偶然手に取った『雨の日は特別なこと』という短編集に収録された「御託の向こう側」という作品が印象的だった。主人公が老人から聞かされる長い御託に最初はうんざりしていたが、次第にその言葉の裏にある人生の深みに気づいていく展開が秀逸。
特に、老人の語り口が時代劇の名脇役のような味わいで、読後にはなぜか懐かしい気持ちにさせられる。短編ながら登場人物の背景が巧みに暗示され、余韻を残す終わり方も素晴らしい。こういう作品を読むと、人の話をじっくり聞くことの大切さを再認識させられる。
「御託は武器になる」というタイトルからして挑戦的な作品がある。ビジネスパーソンが上司の長広舌を逆手に取ってプロジェクトを成功させるという設定で、コミカルながらも鋭い社会風刺が効いている。登場人物の会話のテンポが良く、ページをめくる手が止まらなくなる面白さ。
特に印象的なのは、主人公が御託をデータ分析してパターン化するシーン。現代ならではの発想で、御託という古典的なテーマに新鮮な切り口を与えている。軽妙な文体の中に、人間関係の機微が見事に描かれている佳作だ。
『おしゃべりな亡霊』というホラー短編に登場する老婆の御託が忘れられない。主人公の借家で夜な夜語りかけてくる長話が実は重要な手がかりだったという構成で、恐怖と謎解きが見事に融合している。
ユニークなのは、怖いはずの幽霊が妙に親しみやすいおしゃべりさんで、次第にその正体に引き込まれていく過程。語り口のリズムが独特で、読んでいるうちに老婆の声が頭にこびりつくような感覚を味わえる。ジャンルを超えた御託の可能性を示す作品と言えるだろう。
SF短編『御託消滅法』は未来的な設定ながら普遍的なテーマを扱った傑作だ。言語処理AIが発達した未来、人間の長話を自動的に要約するシステムが普及する中で起きた事件を描く。技術の進歩と人間のコミュニケーションの本質を問う内容で、考えさせられる点が多い。
特徴的なのは、AIの視点で人間の会話を分析する描写。我々が日常的に交わす会話が、外部からはどう見えるのかという逆説的な視点が新鮮。ラストの意外性もさることながら、テクノロジーと人間性の境界線を浮き彫りにする完成度の高さが光る。