子どもの頃に本棚で出会った一冊が今でも忘れられない。
その本は海外向けにまとめられた日本の民話集で、邦題の『おむすびころりん』は英語で 'The Rolling Rice Ball' や 'The Runaway Rice Ball' として紹介されていた。話そのものは日本語版とほぼ同じで、やさしい語り口とコミカルな展開が強調されており、挿絵もどこか親しみやすい洋風のタッチにされているものが多かった。海外の児童書翻訳者は、語感を大切にして「ころりん」の擬音を残すか簡潔に訳すかで工夫していて、その違いを見るのも楽しかった。
具体的な収録例としてよく引用されるのは、児童向けの日本民話アンソロジーで、英訳タイトルで目にする機会があるという点だ。版元や編者によって絵や訳し方がかなり変わるので、同じ話でも別の本として新鮮に楽しめるのが魅力だった。
翻訳は単語の置き換え以上の仕事だと感じる瞬間がここにあります。まずタイトルの核になるのは「おむすび」と「ころりん」という二つの要素です。前者は食べ物の名前であり文化的記号でもあり、後者は音の効果とリズムを担っています。英語にする際には直訳的に『The Rolling Rice Ball』とする選択肢がもっともポピュラーで、子ども向けの読みやすさや即時の意味伝達を重視する版に多く見られます。
一方で、音の可愛らしさや日本語特有の擬音を残したい場合、'Omusubi Koro-rin'のようにローマ字のまま残す手もあります。私はその方法を採るとき、本文中で語注や短い説明を添えて読み手が文化的背景をすっと受け止められるよう気を配ります。語感を残すことで物語のリズムや親しみやすさを守れるのが利点です。
さらに翻訳の目的によっては、情景や物語の性格を反映させた自由訳が有効です。例として児童向けアンソロジー『Japanese Folk Tales for Children』では訳者が『The Little Rice Ball That Rolled Away』のように物語性を強調したタイトルを付けることもあります。私は読み手層を考え、響きと意味のバランスを見極めながら訳語を選ぶのが好きです。最終的には、どれだけ原作の持つ温度と遊び心を英語圏の読者に伝えられるかが勝負だと思います。