曲作りを考えるとき、最初に頭に浮かぶのは「音の余白」をどう作るかです。
侘しいシーンでは楽器の数を絞り、音色の輪郭がはっきりと伝わるものを優先すると効果的です。例えば、低くゆっくり弾かれるチェロやコントラバスのソロは、人声に近い暖かさと重みで静かな悲しみを表現できます。ピアノを使うなら、和音を厚くせずに単音や間隔のある和音で、余韻を活かすように弾くのが向いています。高音域のヴァイオリンはサル・タスト(指板寄り)やサル・ポン(駒寄り)の奏法で不安定さや冷たさを演出できますし、低音域のクラリネットやバス・クラリネットは陰鬱な色合いを加えてくれます。
エレクトロニクスや非楽器的な音も侘しさを増幅します。単純なサイン波や低いドローンに微かなフィルター動作を加えたり、フィールド録音の空気感を低音で混ぜるだけで「場」の不在感を出せます。僕はよく、ベルの余韻を伸ばしたり、ボウド・シンバルやウィンドチャイムを極小音量で配置して、音の端のきらめきだけを感じさせる手法を使います。打楽器は極力控えめにして、もし使うならブラシや弱いロール、金属の擦過音のような曖昧なアタックが合います。
和声やメロディの作り方も重要です。完全解決しない進行、短いモチーフの反復、半音や増4度の不協和音をささやくように置くと緊張感が残ります。テンポはゆっくり、間(休符)を大胆に取ることで観客の想像を誘えます。制作面ではリバーブのプリディレイを短めにして残響を長くしつつ、EQで高域を滑らかに落とすと遠さが出ます。ダイナミクスはコンプレッションを弱めにして、音の頭と消え際のコントラストを活かすと自然な息遣いが伝わります。
最後に、侘しい音楽を作るためには「何を鳴らすか」だけでなく「何を鳴らさないか」を決めることが鍵です。少ない音色を深く掘り下げ、音の隙間を設計することで、場面の静けさや人物の内面がより強く伝わります。