音の輪郭を辿ると、僕はまず『
ルシェルブルー』のサウンドトラックが持つ「青い記憶」の層に引き込まれる。ピアノと弦が織りなす細やかなモチーフは、過去と現在を往還するように変形しながら何度も顔を見せ、聞き手の中で人物や情景の断片を呼び起こす役割を果たしている。旋律の線は決して過度に説明的にならず、余白を残すことで聴き手自身の想像を許す作りになっていると感じる。
楽器編成の選択とサウンドのテクスチャーもテーマを支えている。生の弦と温かいピアノに、時折差し挟まれる低音のシンセや控えめなパーカッションが都会的な輪郭を与え、孤独と希望が同居するような空気を作る。一曲ごとのキーやモードの変化は、物語の感情曲線に合わせて微妙に色調を変える助けとなり、特定のフレーズが反復するたびに登場人物の内面が少しずつ明らかになる。
形式面では、作曲者がモチーフの変換(転調・リズム変奏・楽器替え)を駆使している点が印象的だ。これにより同じテーマが場面ごとに異なる意味を帯び、サウンドトラック全体が単なるBGM以上の「語り部」として機能している。個人的には、その余白と変奏のバランスが、この作品の持つ切なさと抑制された温かさを最も的確に表現していると思う。