昔の論文を辿ると、左脳・右脳の神話がどのようにして広まったのかがよく見える。歴史的には、ブローカやウェルニッケの失語症の報告が出発点で、片側の脳損傷で言語機能が失われるという事実が「言語は左脳」といった単純化を生んだのだと私は理解している。
その後、ロジャー・スペリーたちの分割脳(コーパス・カロサトミー)研究が1960年代にセンセーショナルに報じられ、左右の脳がまるで独立した人格を持つかのような誤解が生じた。学者は慎重に条件付きの結論を出していたのに、メディアやポップサイコロジーは「右脳は創造、左脳は論理」というキャッチーなフレーズで広めてしまった。
さらに『Drawing on the Right Side of the Brain』のようなベストセラーが一般大衆の言語としてこの二分法を補強した。実際には機能の偏り(lateralization)は存在するが、脳は多数のネットワークが連携して動く統合系であり、左右で完全に役割が分かれるわけではない。こうして誤解は科学の断片と大衆文化の翻訳過程で育ち、現在の神話になったのだと私は考えている。
ギリシャ神話の世界を彩る美しい挿絵本といえば、最近夢中になっているのが『The Greek Myths: The Complete and Definitive Edition』のイラスト版です。ロバート・グラヴェスの文章に、素晴らしい画家が挿絵を添えています。神々のドラマティックな物語が、まるで古代のフレスコ画のようにページいっぱいに広がるんです。
特に印象的なのは、ペルセポネーが冥界に連れ去られる場面の描写。暗い色調の中に浮かび上がる花の繊細さと、ハーデースの冷たい視線の対比がたまりません。各章の冒頭には、そのエピソードに関連する古代ギリシャの美術品も紹介されていて、神話と美術の結びつきを感じられます。
こういった本は、単なる物語の解説書ではなく、芸術作品としても楽しめるのが最高ですね。神話の世界に浸りたい時、ページをめくるたびに新しい発見があるんです。